第13話 捜索の開始

 屋内をひと通りみてまわったが、どこかに隠れているのでは――物陰からひょこっと顔を出すのでは――という願望はかなわず、ビエラをみつけられなかった。

 ドアを少し開け、家の外をのぞく。左右に首を振ると、またギイギイときしむような音がした。すくなくとも、みえる範囲には敵はいなかった。

 警戒しながらも、外にでた。

 家のまわりを、ゆっくりと歩いて一周したが、誰もいなかった。


 ビエラの家があるのは、魔の森と呼ばれ、多数の魔物が生息している、王国北部に広がる大森林のなかだった。

 森林の端にある丘の斜面を深くえぐって、二階建ての細長い家を建て住んでいる。

 一部の部屋――ゴーレム室や転移室――は、斜面の地下にまで伸びた廊下の先につくられており、見方によっては地下室と呼んでもよかった。

 家の一階部分は、斜面の上の方からみると、地面の下に隠れて、二階部分が一階であるかのようにみえる。家を斜面の下から、丘のふもと側からみると、二階建ての幅広い家にみえる。


 家のまわりには、ゴーレムと人間のものらしい、ごちゃごちゃと入り混じって判別しがたい足跡が、たくさん残っている。

 もう一度、何か手がかりはないかと、家の周囲をみてまわった。

 家の裏側の壊れた格子戸の下に、かすかに小さな靴の跡があった。明らかに他の足跡と違うものだった。最初まわったときは、やはり動転していたのだ。気づくのが遅れてしまった。


 ゴーレムの大きな足跡の間にその靴跡は、残っていた。靴跡は、森の方へ向いていた。小さな靴跡は、そこで途切れていたが、その靴跡の隣にひとまわり大きな靴の跡があり、その靴跡は空き地を横切り、森のなかへと続いていた。さらに、それを追うように大きな、明らかにゴーレムの足とわかる歩幅の広い足跡があった。


 俺は、恐る恐る靴跡をたどっていった。ビエラは、うまく逃げ出せたのかもしれない。が、襲ってきた敵の可能性もある。手負いの敵が、仲間が迎えに来るのを待っているのかもしれない。


 靴跡は、森に入ってすぐの、密集して生えているカシやクヌギ、シイの木によく似た褐色の樹皮をもつ細い木々の下生えのなかまで続いていた。背の高さまで生えた野草の群れの手前で立ちどまった。

 そこで、深呼吸をした。俺のゴーレム体の喉からゴウっという空気の出入りする音が聞こえた。

 無防備に分け入って、刃物で刺されたくはない。

 が、このままこうしていても、らちが明かない。どうせ、ゴーレムの身体なのだ。刺されても、致命傷になることは、まずない。痛覚はあるので、痛いことは痛いが。


 草をかきわけて、襲いかかられてもころばぬよう膝を曲げた低い姿勢で、これ以上ないくらい用心しながら、踏み入った。意外に硬い曲がった茎や葉が足の裏を押し返そうとする。


 草むらのなかに、倒れた首のないゴーレムと、その身体にすがりついている黒い髪の少女がいた。

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