第9話 ゴーレムの頭(かしら)

 転移魔法だ!

 興奮でわれを忘れた。


 大きな崖に囲まれた、広場のようなところだった。大小の石ころ、砂利、岩のかけらなどが、そこらじゅうにころがっている。

 崖の一部がくずれて、土砂が広場の半分ほどを覆っていた。そのまわりで、汗まみれの猫耳や犬耳の(初めて見る)獣人たちや、筋骨隆々の人夫たちが、細かい岩のかけらや砂のかたまりを、皮袋に入れ、それを荷車に積んで運びだしている。


「この間、激しい嵐があっての。凄まじい雨・風じゃった。国のあちこちでがけ崩れや、山の崩落、地割れが起こっておる。お主には、ここの作業を、しばらく手伝ってもらいたいのじゃ」

 俺は、首を、ギリギリいわせながらまわし周囲をうかがった。

 俺を見ても、誰も不思議そうにしていない。

 どうやら、等身大ゴーレムは、ありふれた存在らしい。


「ビエラ殿!」

 角を生やし、ふさふさとした髭を生やした獣人の男が、声をかけてきた。元の世界にいた羊のように、巻き角が生えている。角の根元は髪に隠れて見えないが、どうなっているのか、髪をかき分けて見てみたい。

「おう、調子はどうじゃ? ホーン殿」

「なかなか、進みません。ビエラ殿のゴーレム部隊が頼りです」

「ゴーレムの頭(かしら)をつれてきたぞ!」

 頭ってなんだ。聞いてないぞ!

 ビエラをにらんだが、何もいわず、俺を無視して進んでゆく。


 崩れた土砂の山を、いくつか過ぎると、俺と同じ等身大のゴーレムが二十体ほど、働いていた。ゴーレムたちの身長の倍以上はある、普通の人間では何十人もいなければ運べないような、巨大な岩塊を運ぶ作業に従事している。

 見ていると、単純な動きしかできないらしく、特定の場所から、次の特定の場所へ岩を運ぶ――運び終わると、次の指示が出るまでじっと立って待っている。気づいた人夫が、指示を出すまで何もしていない。


「頭(かしら)といっても、難しくはない。止まっているゴーレムたちに指示をだして、先頭に立って働くだけじゃ。世のため人のために働く――これこそ、負債を減らす、最大の手段なのじゃ」

 ひとに自分の負債を押し付けておいて、何を誇らしげに語っているのか、俺が憮然としていると、

「ほれ、ほれ。働け、働け」

 両手で、ぐいぐいと押してくる。そのあと、また何か、呪文を唱えた。


 作業を行っていたゴーレムたちが集まってきた。このゴーレムたちも、すべてビエラが作ったものらしい。俺と同じようなカラフルな衣服を着せられている。ビエラの兄弟は、本当にこんな派手な服しか持っていないらしい。

「この者が、お前たちの頭領じゃ。この者の命令に従うのじゃ!」

 集まったゴーレムたちは、皆、ギイギイと音をさせながら、俺に向かっておじぎをした。

  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る