第8話 ゴーレムの服
ひととおりの説明を終えると、ビエラは、自らが転移室と呼ぶ、俺がゴーレムのなかに転移してきたこの部屋から出ていった。
しばらくすると、両手いっぱいの衣類を抱えて戻ってきた。
「これを着るのじゃ。この国では、ゴーレムといえど、裸は許されていないのでな」
今の俺は、裸なのか?
ゴーレムとしての感覚に、まだ慣れていない。人間のときと同じような肌感覚はあるが、それは、厚手の服を着ているときと似ている。
裸という肌感覚ではなかった。
それに、腹や腰の方を見ると、細かい図形や曲線が描かれており、ゴーレムとしての皮膚が、服を着ているときのようなデザインになっていると判断していた。どこへ行くにも、衣服をまとわない、今のこの恰好で行くものだとばかり思っていた。
この世界のモラルについて、もっと学ばなければいけないみたいだ。
ゴーレム用の衣服と聞いて、デザインに凝っていない、シンプルなジャージようなものかと予想したら、違っていた。
この世界の植物の花だろうか、派手な牡丹のような花柄の分厚い生地のシャツと、そのうえに着る明るい赤色のチョッキのようなもの、肩ひものついた、黒と白のしま模様の、やはり分厚い大き目のズボン。
ズボンには、腰の位置でズボンを止めるため、ベルトのかわりに太いひもがついている。ひもを引っ張って腰で締めてみるが、思い切り力を入れて締めても、ひもの硬い材質のせいで、ズボンがずり落ちそうなくらいゆるい。肩ひもがついていて正解だった。
「わしは、服を作るのが苦手での。ぜんぶ、うちの兄弟のお下がりじゃ」
ビエラは、服の上下を俺に着せたあと――少し離れて眼を細めた。
俺の背後にもまわり、しゃがんだり立ったりを繰り返し、いろんな角度からおかしなところがないか、確認しているようだ。
「こんなもんかの」
ビエラは、小声で呪文を唱えた。
俺の前に、水たまりができる。ビエラは、それを見ろとうながした。
あ、そうか!
俺は自分の姿を水たまりの水に映した。
お世辞にもカッコイイとはいえない。細いこけしに無理やり衣服を着せたようにみえる。服のサイズが大きすぎるのもあるが、元々のゴーレムの体形が、衣服には向いてないのだ。
「模様のない服のほうが、良いんじゃないか。派手すぎないか?」
「何をいっておる。これでも、地味すぎるくらいじゃ。それに、わしの兄弟の服に、模様のないものなどないぞ!」
ビエラは水たまりを消すと、俺を部屋から連れ出し、広い玄関のような場所に連れてきた。なぜ玄関とわかったかというと、ビエラのものらしい靴が、部屋の隅の棚に、20足ぐらい、並べて置かれていたからだ。
俺の実家の、優に三倍はあろうかという広さ。馬車か荷車のようなものを入れられるように作ったんだろうか?
ビエラが、呪文を唱える。
俺は、眼を見開いた。
俺たちの立っている床に、魔法陣が浮かび上がる。
「作業場に行くのじゃ」
ビエラは、右手を大きくまわした。
俺は、唖然とした。一瞬で、まわりの景色がかわった。瞬く間もなかった。
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