第7話 債務を確かめる

 一瞬、このまま殺されることも覚悟した。

 どうやら、このゴーレムのなかにいる限り、老女には、逆らえぬらしい。

 俺は立ち上がり、かすれた声で悪態をついた。数回、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「債務は、どうなっている?」

 これから債務を返してゆくにしても、債務の額がわからなければ、どこまで頑張ればよいのかわからない。動きようがない。

「負債合計、300に対して、140が残っている」

 俺は、ゴーレムの首を傾げた。

 負債が多いのか、少ないのか、さっぱり見当がつかない。

「ヨーゾーの助けもあっての、あと140じゃ。もちろん、これ以上負債が増えなければの話じゃが」

 俺は、もう一度、確かめた。

「負債がゼロになったら、ほんとに帰れるんだな?」

「本当じゃ。現にヨーゾーは、何度もこちらとあちらを行き来しておる」

「伯父さんは、帰れたのに、またこっちに来たのか?」

「そうじゃ。こっちの世界が、性に合ったらしいんじゃ。ホッ、ホッ、ホッ」

 老女は、またも、ニヤニヤしている。


 伯父さんは、こちらの世界に深い知り合いでもできたのか。

 女か、それとも魔法の世界だから人間じゃない存在か、エルフや妖精、吸血鬼のような人外の存在もいるんだろうか……。

 俺は、しかたなく、この世界で働くことにした。

 とにかく、しゃにむに働いて(どう働けば負債が減るのか、さっぱりわからないが)、もとの世界に戻るのだ。

 ――なにがなんでも、絶対に!


 老女の名前は、ビエラといい、この国随一の魔力を誇る魔法使いだそうだ(と、本人はいっている)。

 この国というのは、シエタ王国……大陸の南部に位置する国で、魔法業と農業の盛んな大国だそうだ。隣の大国、マルカナ王国と常に大陸の覇権を争っていて、魔法による小競り合いが、頻繁に行われているらしい。

 ビエラは国の魔法使い部隊で活躍したあと、長らく王宮の魔法技術顧問として勤めを果たしてきたが、引退し、この辺境の地を、終の棲家と定めたのだという。

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