第6話 断れない負債

「無理じゃな。すでにお主の魂は、この世界の存在簿に登録されておる。負債を返していくしか、道はないのじゃ」

 俺は、開いた口がふさがらなかった。ゴーレムにも口はあり、話すたびに歯や舌が動く。唇などは、意外に素早く動いて、振動が腹のほうにまで、伝わってきた。

「よいではないか。幸いにも、ヨーゾーのおかげで、かなり負債は減っておる。ゴーレムなら食事はいらぬし、睡眠も一時間で大丈夫じゃ。この世界に興味があるのじゃろう……? 負債を返しながら、見物して帰ればよい」


 負債をかかえながら、のんびりと異世界見物などできるものか。

 あれ?

 ――いや、ちょっと待て。

「帰ればよいって、帰れるのか?」

「あたりまえじゃ。何のための転移門じゃ。転移門のあるところなら、魂の行き来は、自由じゃ」

 老女は、そんなことも知らんのかと言いたげに、大声で強調する。

 それなら、今からでも帰れるのか?

 ホッとしていると、また、ニヤッと笑い、

「ただし、負債がゼロになったらの話じゃがな!」


「なんだと!」

 俺は、立ち上がって、手足を振り回した。

 予想外に長いゴーレムの手足に、おそらくは老女の私物と思われる剣や杖、家具や道具が当たって、部屋のすみまではじけとんだ。

 老女は、やめんか、と言いながら、何か呪文のようなものを唱えた。

 俺はうめき声をあげ、ひざをついた。強烈な衝撃と重さが、頭上から降ってきたのだ。

「これ、気をつけんか! モノを壊すと負債が増えるのじゃ。暴れれば、暴れるほど元の世界に戻るのがおそくなるぞ!」

 俺は、上から押さえつけられた状態で、唸り声をあげた。かろうじて耐えているが、今にも、首か背骨が折れそうだった。

「わかった……わかったから、魔法を解いてくれ!」

 老女は、俺をじっと観た後、また何か呪文を唱えた。

 俺にかかっていた力が消えた。俺は、ほうっと大きく息を吐いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る