第3話 異世界の魔女
暗い。何かが目の前にいる。
その何かの影にはいっているようだった。ふいに、それが離れた。
明かりが眼に入り、まぶしい。
離れたそいつは、フードを被った人間のようだ。
そいつが、フードを脱いだ。
魔女……。
ひとめでそう判断できる、鷲鼻のしわだらけの顔の老女だった。
「ヨーゾーか?」
老女が、俺の顔に鼻がくっつくくらい顔を近づけて聞いてきた。
日本語だった。少なくとも、ここは海外ではない。
ヨウゾウというのは、伯父の名前だ。洋三と書くんだったか……。
「伯父は、亡くなった」
答えると、老女は眉間にしわを寄せ、もう一度尋ねてきた
「なに、本当か?」
「本当だ。葬式には出れなかったけど」
「亡くなったのか……」
老女は、眼を閉じた。
片手の指先を額にあて、小声で呪文のようなものを唱えている。
この世界における念仏のようなものかもしれない。
明らかに洋装の、フード付きのマントをかぶった人物が、念仏を知っているはずはなかった。けれど、伯父の冥福を祈っていることは、なんとなくだが、わかった。
俺は、硬い台のようなものに仰向けに寝かせられていた。
起き上がろうと全身に力をいれた。妙に身体が重い。両手をついて、ゆっくりと上 半身を持ち上げる。
それだけで、息切れした。
2,3回呼吸を繰りかえし、動悸がおさまるのを待つ。
いつも、起き抜けにやるように首を一回転させた。ギギギ、ギギギ、と音がした。
うん?
肩が凝ったときに首をまわすと、首の関節から音がする。が、それとも違っている妙な音。まるで錆びついて何年も開けられていない空き家の部屋のドアノブを、無理やりまわしたときのような音だ。
下を見ると、青みがかった鈍色の足……。
うん?
両手を眼の前まで持ってきた。信じられないものがみえた。
一度眼をつぶり、深呼吸をしながら眼を開く。
同じだった。
手も足も、青かった。皮膚が変色しているわけではない。本当に、身体全部が、青みがかった鈍色に光る素材でできていた。
指で腰や腹、右の太腿あたりをさわってみた。
硬い。……爪で叩くと、ごつごつと衝突音がする。
おおきく息を吸って吐いた。
「これは、いったい……?」
この時点で、遅すぎるかもしれないが、夢ではないかと思った。
「ゴーレムじゃ」
老女は、ゆっくりと繰り返した。
「その身体は、ゴー、レ、ム、じゃ」
「ゴーレムって……!」
俺は、思考が止まってしまった。数分のあいだ、身体がかたまってしまい、動けなかった。
「わしが、魂を呼び込んだのじゃ」
老女は、自慢げに言い、俺の青い足をポンポンと叩いた。
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