23 その8

前回は14話のシィナさん視点を書いてみました(当然起きて見ている間のことだけなのですが、当日はちゃんとフルタイム意識があるのでそのまんま描かれているのは仕様です。ご了承ください。また、微妙に台詞を追加してます)

━━━━━━━━━━━━━━━


- ハイミト村・ギルド出張所 -


ここはハイミト村のギルド出張所の受付カウンターからやや離れた場所。掲示板とは逆位置で接客やミーティングを行う時に利用する簡素なテーブルとソファが置かれているだけ。他の冒険者は出払っているせいで人は居ない。現在、依頼達成報告と討伐部位を収めて報奨金の算出待ちだ。


「え~と…」


「「…」」


私とエンバートは、はす向かいに座っているショウくんを見詰めて黙っている。圧に耐えられなくなったショウくんは汗をだらだらと垂らしながら、やがて重い口を開こうとするが…


「やっぱりいわないと駄目?」


往生際が悪くまだいいたくないようだ。


「当たり前です!!」


取り敢えず即座に却下する。とはいっても他人に聞かれたり注意を引くのも危ういので、声量は抑え気味でだけど。


「普通なら習得しようものなら、速くても数週間。人や獲得するものによっては何年、何十年も掛かるのよ!」


聞き出そうとしているのはショウくんの体得しているであろうスキルの正体だ。否、恐らくはユニークスキルと呼ばれているものだろう…。覚えようと思って覚えたり習得できる類のものではなく、先天性の…産まれた時点で備わっている唯一無二の権能ちから。この広い世界を全て見て回っても2つとないものだろう…。


(推測でしかないけど、もしそうだった場合…権力者に目を付けられたらと思うと…一応、保護者?…である私たちが気軽にいい触らしたりしないように締めないと…)


そんなことを考えてると、ショウくんが再び口を開けて喋る。


「体質なんだろうなぁ…」


それを聞いた瞬間、私は…いえ、エンバートも同じことを思ったのか、奇麗にハモってしまう。


「「なにそれ羨ましい!!」」


うう…何か負けた気分が…いや、何に?って聞かれても答え難いんだけど…むぅ…。と、とにかく、体質だか何だか知らないけど無暗にいい触らさないように釘を挿すことにした。ショウくんは最初からいうつもりはなかったそうだけど、ついうっかりということもあるし注意するに越したことはない。何より、まだ大人の仲間入りしたばかりの年齢なんだし、ね。



「はい、こちらが依頼達成の報酬となります」


今回の薬草採取の依頼とゴブリン・オーク討伐報酬。そして、近隣でのモンスター頻発の報告にも僅かだが報酬が出る。合わせて銀貨31枚だから…まぁ妥当なところかな?


「内訳も説明しましょうか?」


受付嬢がショウくんの顔を見てニコニコしてる。あいつはそんな殊勝なことはせずに、予め用意してた内訳を書いた紙を渡すだけだろうな…。


「では、こちらをどうぞ」


ほら、やっぱり…。ショウくんは手渡された紙を暫く見つめていたが、こちらを振り返って訊いてくる。


「ええと…」


おずおずと差し出された紙を斜め読みし、うんうんと頷きながら


「…まぁそんなものでしょ」


と返す。横からエンバートも見ていたようで、


「妥当だと思うぞ?」


と同意してくる。もとより、エンバートは最後のオークらの討伐しかしてないので僅かな報酬くらいしか得られないから…興味がないだけなのかも知れないけど。


「わかりました。有り難く頂きます」


ショウくんは私ら2人の承認を得たとばかりに、振り返って彼女に了解の意思を示す。彼女は既に用意していた革袋をショウくんに手渡し、いつもの台詞をいって受付業務に戻る。所謂、お約束の台詞だ。


「お疲れさまでした。またのご活躍を期待しています」


(…何度もいってるからというのもあるんでしょうけど、もう少し気持ちを乗せられないのかしら?)


出口に向かいながら溜息を吐いて3人で立ち去りながら思う。


(2人くらいで回してるせいもあるのかもな…)



定宿に戻って部屋に入る。結局出張所ではいえないことも多くて溜まっていたうっ憤が爆発する!…いや、1回いった気はするけども。


「あり得ない!」


「え?」


「だから…あり得ないのよ!」


戸惑うショウくんに台詞をぶつける。いや、だからどうしたという話しもあるんだけど…


「まず、薬草採取!」


「あ、はい」


テーブルに手を突いて指を1本立てる。中指をおっ立てるんじゃなく、普通に人差し指を立てるスタイルだ。その時は意識してなかったけど、心なしかショウくんに顔を近づけて…興奮して我を忘れているのがわかる。


「あんな短時間であの量、しかも全く別の物が混ざらないなんてことはないの!」


「はぁ…」


大興奮してる自分に対して冷静というか…どうしてそんなことで興奮するのだろう?…と、控えめに見ても冷めている表情でこちらを見るショウくん。何か考えてるんだろうけどいい返さないで沈黙を保っている。


「次!」


「…はい」


…と、そこまでに至ってはたと気付く。スキルについて問い詰めようとしたのだけど、「ひょっとしたら藪を突くとドラゴンが出て来るような事態になったらやばいんじゃないか?」…と、横からエンバートが小声で突っ込んで来た。


(普段脳筋の割には危機察知能力に長けているエンバートのここ一番の助言ですし…うう…気になるけど…)


と、勢い込んで尋問…もとい、質問タイムに突入してしまったけど、背に腹は代えられません。自ら危険種の口に飛び込むこともないか、と質問内容を変えて…



「じゃあ、これだけ入れといてくれ」


エンバートがギルドから受け取った報酬の分から3割程を私に渡してくる。


「私の分は今回は無いのよね…」


(やったことといえばショウくんの監視と他の冒険者を追っていたゴブリンの牽制くらいだ。計算が面倒になるのでそちらの報告はしていない。結局、落とし穴ピットで落ちてエンバートの雄たけびで気絶して当人がトドメを差したので…こちらの実績にはならないだろうし)


と、受け取った銀貨を見ながら呟きながら見た目キューブ状の手のひらサイズの箱に銀貨を差し込む。これは貨幣専用の限定収納箱。銀貨が入る隙間も無いけど関係無しに見た目より多くの貨幣が入るし重さも殆ど増えない。貨幣専用という割には、貨幣じゃない通貨と見なされるものなら金属でも紙でも入るんだけど、ね。


「貯金箱?」


ショウくんが目を丸くして呟く。多分、質問したという意識は無さそうだ。


「ん~まぁそんなもんだ」


エンバートが薄く笑いながら答える。私も緩く笑って頷いていると…


「あの、だったら…」


ちゃらっと手に貨幣を掴んでいる。エンバートに倣ってパーティーの共有資金に収めようとしているがわかる。別に最初の報酬から出してくれなんていうつもりは無かったんだけど…まぁ無理に断るのも失礼だろうし…


(というか、まだ正式にパーティーの一員になってもない子にパーティー共有資金に資金提供とか…あり得ない!!)



「…という訳で、正式にパーティーに入ってない子からお金を受け取る訳にはいかないんだけど…」


「そう、だな…。これも縁だろうし…どうだ、ショウ。仮で構わないからうちに…「猛き探索者たち」に入ってみるか?」


よくよく考えてみたら、成人したての可愛い男の子を成り行きで世話してたんだけど、このままって訳にもいかず。リーダーのガイルが亡き今、年齢とか経験不足とかはあるけど、男手はあった方がいい訳で…。いや、エンバートが見た目も言動も性格も野郎と大差無いってのは置いとくとして…


「えっ…と、俺なんかで役に立つ…んでしょうか?」


(足りないのは冒険者としての経験だけで、実力は文句無い…よねぇ?)


エンバートにぼそぼそと問題との意を伝える。彼女も首肯して問題無いと意思表示。足りない所は後から幾らでも教え込んでフォローすればいいだけだ。私たちでも経験不足な部分は多いけど、その辺は今まででも他の先輩風を吹かしてる連中から吸収していけばいい…


「うん、大丈夫。足らない所はフォローするから、どん!と任せて欲しいな?」


にっこりと笑顔で片手を胸に当てて先輩風を吹かす私。


「うむ。パーティーは助け合ってこそだ。わからなければどんどん聞いてくれ!…ゲホゲホゲホ…」


どぉん!と握りこぶしを胸に当てながらいい切り、咳き込むエンバート。無駄に強い腕力で自分の胸を強打して咳き込むとか…。防御力が育ってないというか何というか…ちょっぴり不安だ。


「…わかりました。迷惑を掛けると思いますが、宜しくお願いします…」


ぺこりとお辞儀をしてパーティーへ加入する意を示すショウくん。早速共有資金へと報酬の一部を渡してくる。


「子供はそんなこと、気にしなくていいのに…」


まぁ、有難いのは確かだ。一応目標を設定して貯めている訳でもあるし…と、銀貨を受け取って逆の手で頭を撫でる。


「有り難う…」


一応、報酬額の3割って約束だから、お釣りをキューブから取り出す。


(えっと、銀貨16枚の3割だから…銀貨4枚と銅貨8枚か。お釣りは銅貨2枚だね)


「はい、これ」


銅貨2枚を返してにっこり。ショウくんが照れながら受け取るのを確認した後、キューブを懐に仕舞い込む。どこで見られてるかわからないからね。後、貨幣の種類と相互の価値換算を聞かれたので説明してあげた。出身地の村では銅貨や鉄貨だけでことが足りていたとかで、銀貨や金貨は見たことすらないとか…。一応、主に流通している貨幣の価値などをレクチャーしました。



ギルド出張所を後にした頃には夕焼けで空が赤く染まっていた。だいぶ出張所で時間を掛けてしまったようだ。


「よう、どこか屋台でもいいから飯食っていかないか?…宿屋の飯でもいいが、たまには外で…」


「はいはい、わかりました!…ってことだから、いいかな?」


「あ、はい…。屋台で食事って初めてなので楽しみです」


そんな感じで村の中…まぁ屋台が出張ってる所なんかそれ程ある訳もなく。ギルド出張所の近所に数軒あるだけだ。ショウくんが初報酬で奢る~なんていってたけど止めておいた。エンバートの食欲が銀貨程度で収まる訳はないからね!


「どんだけ底無しなんだよ!」


「ふははははは! 獣人族の底力を思い知るがいい!」


これは食事を終えるちょっと前の台詞なんだけど…エンバート、どこの魔王様か?ってなことを口に出してるんだけど。自覚があるのか無いのか…無いんだろうなぁ…


(エンバートの食事の代金…やっぱり銀貨10枚程度で収まらなかったか…)


こっそりキューブからお金を取り出し、エンバートにパーティー共有資金からのツケが増額した。管理を任されている身としては、頭の痛い問題だ…


━━━━━━━━━━━━━━━

そろそろ金貨1枚の大台に乗りそうで…後日、死ぬほど依頼をこなして悲鳴を上げているエンバートが居たとか居なかったとか…(どっちだ!w)

…という訳で15話のシィナさん視点でした(話しはちょこちょこ膨らませているので全く同じ内容ではない場合があります。ご了承ください)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る