22 その7

前回は12話のシィナさん視点を書いてみました(当然起きて見ている間のことだけなのですが、当日はちゃんとフルタイム意識があるのでそのまんま描かれているのは仕様です。ご了承ください。また、微妙に台詞を追加してますw)

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- オークの大咆哮?…いえ、エンバートです! -


2体のオークが放つ大音量の咆哮に行動を阻止され、思わず目を瞑ってしまう。私の手からは矢が纏った魔力を霧散してしまい取り落としてしまう。ショウくんは目の前に居ることはわかるけど、今どのような状況かわからない…わかるのは、このままでは2人共、絶体絶命ということだけ…


「うおぉぉぉおおおっ!!!」


突然、背後から雄たけびが響き渡る。


(なっ!?…後ろから…挟撃!?)


一瞬、そう思ったのだが…だけど、その声には聞き覚えがあった。お陰で、目の前からの圧が消えて…目を開くことができた。一瞬で目の前の状況を確認。オークたちは雄たけびに圧倒されてその場から動けていない。薬草採取者たちは…


「あ…」


恐らく冒険者になりたての者なのだろう。オークと背後の者の雄叫おたけびのダブルパンチで気絶して倒れ伏していた。どちらかというと、飛び入りしてきた雄叫びの方が主原因だと思われ…る…。ごめんね、君たち…


「痛っ…」


耳からぬるりとした感触がする。


(うぅっ…鼓膜が破裂したっぽい…わね…)


背後を振り返って間髪入れずに叫ぶ。


「エンバート!…近くで雄叫びは止めろって何度もいってるでしょ!!」


…いっておいてなんだけど、自分の声がやたらと遠くから聞こえる。鼓膜が破裂してるからなんだろうけど…骨を振動して伝わった音しか聞こえないというか…。申し訳なさそうにしているエンバートが何か喋ってるようだけど、当然ながら聞こえやしない…


「何?」


いきなり肩を叩かれたので正面を向く…と、ショウくんが私の両耳に両手の手のひらを被せてきた。


(え?…一体な…えぇ~~~っ!?)


顔の両側から何か回復魔法と思しき聖なる光が見えたと思ったら、いきなり聴力が…回復した。つまり、耳が…鼓膜が治ったのだ。


「しょっ、ショウくん…これはっ!?」


後から考えれば、彼も鼓膜破裂していて当然で。苦笑いしながら自分にも同じく回復魔法を施していたのだけど…その時は気が動転して、やたら声を張り上げて問い詰めていた気がする。ほんと、その…ごめん。



結局、オークとゴブリン残党は駆け付けたエンバートが雄叫びで気絶させた後、順繰りに獲物の長槍でトドメを差して回ってこと無きを得たのだった。勿論、穴に落ちてピクピクと気絶していたゴブリンもトドメを差してから討伐部位の回収をしたんだけど…


「すまん…ついうっかり…てへ♪」


「ついうっかりも「てへ♪」もありません!!」


味方の鼓膜を破壊するその雄叫びは味方の損害が非常に大きい…ということで封印されたのだが、今回は大慌てで駆けつけて来たら絶体絶命のピンチ!…ということで、独断で封印解除した…とは当人の談。ショウくんのいつの間にか覚醒していた回復魔法がなければ当分の間、耳が聞こえないという冒険者としては致命的な状況で暫く過ごすこととなっていたのだ。


「まったくもう…で、他の冒険者は?」


「あぁ、気絶して倒れてただけだったんでな。気付けをしたら起きたんで帰って貰ったわ」


エンバートによれば、離れていたのと雄叫びの効果範囲からはずれていたお陰か、私とショウくんみたいに直撃して鼓膜破裂には至らなかった…ということだ。私みたいな純血種じゃない混血エルフでも耳だけは人族と違って繊細なんだから…下手して死んだらどうするの!…と思わなくもないけど。


「それはいいんだが…俺も村に戻った方がいいよな?…ほら、一応初心者冒険者だし?」


ショウくんからそんな台詞が飛び出し、思わず…


「「え?…誰が?」」


と、返してしまった。ていうか、エンバートとハモるとか…終わってる。


「ひでぇ…まぁいいや。依頼の薬草は規定以上集め終わってるし」


彼は麻袋を手に、倒されたゴブリンとオークの死体を収納していく。死体丸ごと…そういえば、討伐依頼では討伐証明部位だけ持って帰ればいいということを話してなかったっけ…。ゴブリンはどちらでも構わないけど、無事な片耳を。オークは鼻とか牙を。但し、食用部位もあるので持ち帰ればその分、買取報酬を期待できると…


(昨日はあんな状況だったし、持ち帰れたのかなぁ?)


リーダーが死亡するという状況だ。そんな余裕は無かっただろうな…なんてことを考えていると、


「ちょい待て」


エンバートがショウくんの肩をむんずと掴んでストップを掛ける。体格が違うんだし、手加減しないと肩を握り潰しちゃうんじゃないかとハラハラして見ていると、


「何だよ…?」


首だけ巡らしてエンバートを見るショウくん。ちょっとブスっとしている所を見るとイラついてるみたい。私もエンバートを「何してんのよ、早くその手を離しなさい!」という思念を込めて睨む。


「…取り敢えず、一緒に戻ろう」


「えぇ…」


あー、まぁー。早い所帰還して報告もしなくちゃだしねぇ…。割と真っ当な台詞を吐いたエンバートに黙ってうんうんと頷く。それに、何よりも…土魔法と回復魔法と次々と覚醒したショウくんにはだ…色々聞きたいことがあるのよね…うふふふふ。


ぶるり…。


そう思った瞬間、ショウくんの背中が震え上がったのを見過ごさなかった私。矢張やはり、何かあるようね…ショウくん…今夜は寝かさないからね?


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意味深なことをいってますが、エロい内容ではないのでご安心をw

…という訳で、14話のシィナさん視点でした。

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