21 その6

前回は11話シィナさん視点を書いてみました(当然起きて見ている間のことだけなのですが、当日はちゃんとフルタイム意識があるのでそのまんま描かれているのは仕様です。ご了承ください)

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- 薬草採取依頼 -


「あの…シィナさん?」


「ん?なぁに?」


「何で手を繋がなくちゃならないんですか!?」


私はギルド出張所からショウくんの手を繋いで歩いている。聞かれるまで気付かなかった訳ではないけど、里に残して来た兄妹の…表向きは離縁というか絶縁というか…まぁ勘当扱いで追い出された訳だけど…の、つもりで接していて機嫌良くなってたというか母性が暴走してるっていうか…ま、まぁいいじゃない。そんな些細なこと…


「だって、何か危なっかしいし?」


つまりはそこに尽きる訳。ショウくんは端から見ていて何となく危なっかしい。まぁ昨日のパーティーの危機に現れた救世主ともいえるんだけど…それはそれ。これはこれ!



「はい、この辺に群生してるから頑張ってね!」


ハイミト村から出て徒歩30分程…とはいえ、大人の足でという前提が付く。まだ体格が子供なショウくんの歩幅に合わせて歩いたので、大体40分程かな?…彼は私に合わせようと少々小走りだったみたいだけど。ようやく薬草などの群生地に辿り着いたので立ち止まって先の台詞を…って訳。


「あの…ここら辺全部、ですか?」


「そうそう。頑張って採取してきてね!」


一応、ギルド出張所の常設依頼票には薬草の特徴を書き込んだ説明やイラストが描かれている。出発する前に書き写してきたみたいで、懐からメモを取り出して必死に覚えようとしているのが何とも微笑ましい。


「ここら辺っていわれてもなぁ…」


…初めてならそうぼやいちゃうわよね…。でも、心を鬼にしてフォローはしない。どうしても…ということならば、助けを求められたら、フォローは惜しまないつもりだけど。


(最初から万全のサポートは成長阻害になっちゃうものね…)


「じゃ、じゃあ採取してきます」


意を決したのか、ショウくんは地面を見据えながら歩き出す。時々頭を上げて周囲を確認しつつだけど。


(うんうん。薬草の群生地だからといって、モンスターが出ないとも限らないしね。周囲のチェックも忘れないと…いいつけを守ってるわね)


私はゆっくりと頷きながらその様子を見守りつつ、自分も周囲の索敵を風の精霊にお願いして監督するのだった。



先程から大体30分が経過。この辺は薬草以外に唯の草なども生えている草原だ。背丈の高い草が辺り一面に広がっているので、やや背の低いショウくんが屈むとこちらからは完全に見えなくなる。少し歩いては姿が消え、暫くすると離れた位置に頭が見えるを繰り返している。見えない間は薬草を採取してるか調べていると思うけど、見えない間はハラハラしているしかないので心臓に悪いことこの上ない。…え?風の精霊が仕事をしていない?…いや、彼女たちには索敵を任せているから、その…。


(あれ?…こちらに向かっている?)


なんてことを考えていたら、当のショウくんがこちらに向かって歩いている。どうしたのだろう?


「あれ…もうギブアップかしら?」


初めての採取作業では時間を掛けてかなりの距離を歩いても1つ2つしか見つからなくても仕方がない。ベテランでも雑草に混じって生えている薬草を見つけるのは至難の業だ。群生地でなら簡単ではないけど見つけ易いのだけど…そう思いつつも訊いてみたら…


「ん?…今、変なこと考えてなかった?」


何かこちらを見て微妙ににやけてるショウくんを見てそう追加質問すると、


「え?…あ、え~と…岩に腰掛けてたら冷やすから体に悪いんじゃないかな…って」


う゛…確かに休憩に丁度いい岩があったから座ってたけど…。腰、ね。腰…冷やすって…えぇっ!?


「へ、変なこといわないの!」


まさか、年下の子に自分の体を案じられるとか…むむむ、何か負けた気がする…なんかわからないけど羞恥に頬を両手で覆いながらゆっくり立ち上がると、


「…失礼しました」


と、申し訳なさそうな表情で謝罪された。あれ、何か予想してた反応と違う…。何か微妙な雰囲気になったので、私はワザとらしく短く咳払いをして空気を入れ替えて、改めて質問を投げかけることにした。…え?ヘタレ?…何でそうなるのよ!?



「で、どうだった?」


取り敢えず、何束採取できたのか訊くことにした。1~2束か、多くても半分も採取できてないだろう…と予想してたんだけど。


「はい、これだけ集められたよ」


と、見慣れない麻袋をずいっと目の前に出される。


(あれ?こんなの持ってたかな?)


出発する時には無かったような…でも、持ってたのかな?…と思案し、


(悩んでてもわからないものはわからないか…)


と、考えることを放棄して麻袋の口を開けて中身を取り出すことにした。


(ひとつ…ふたつ…みっつ………)


取り敢えず、採取した薬草を1束づつ取り出して座ってた岩の上に置いて行く。10束置き、20束30束と置いてもまだ出て来る薬草を見て唖然とする。


「…しょ、ショウくん!」


「え、は、はい!」


思わず怒鳴ってしまう。風の精霊がいうには周辺にすぐさま襲って来るモンスターが不在なことから、思わず気が緩んだのもあるのだけど…。


「これは…何!?」


「え?…回復薬の素材の薬草、だと思いますが?」


そんなことはわかってる!…じゃなくて、採取した数よ!


「それはいいのよ…薬草以外が混ざってないし…じゃなくて!」


「あぁ、麻袋のことかな?」…と小声でショウくんが喋ってるけど頭に血が上った私には聞こえず(正確には聞こえてるけど脳が認識してないだけ)、


「何でこんな短時間にこんなに集められてるのよ!?」


これに尽きる。普通、ベテランの薬草採取人(という職業はないけど)でも、30分じゃ10束行くかどうかという所だろう。


「え…あ~~~…」


話し辛い…といった感じでショウくんが明後日の方向を見て後頭部をぽりぽり掻いている。



「たっ助けてくれ~っ!!」


「きゃあ~~~っ!!!」


ほんの30秒程経っただろうか?…そろそろ話してくれないかなぁ?…と、イライラが募ってきた所にやや遠くから助けを呼ぶ声が響く。


(え?こんな所で何?…ってか、誰かがモンスターと遭遇!?)


恐らく、風の精霊の索敵範囲外で他の薬草採取に来た者がモンスターと鉢合わせしてしまったのだろう。声の大きさからしてそう遠くから聞こえてはないと思うが…


「あ…俺、武器が包丁しかないや…」


ショウくんが何とも間の抜けた台詞を吐く。誰ともなく話したであろうその台詞が助けを呼ぶ声に応じて動こうと判断していることを言外に伝えて来る。


(え?…助けに行くつもりなの?…って、エンバートから聞いた印象と結構かけ離れてるんだけど…)


エンバートから聞いた印象は、戦いに不慣れで自ら戦いに身を投じることはない、弱者…要は一般人と同じというイメージでしかない。今でこそ、その時の戦いでレベルアップを経てステータスが上昇してはいるが、戦闘訓練をまともに行ってない状況では足手まといでしかない筈だ。


「不味いわね…。ショウくんは急いでギルドまで戻って応援を呼んで来てくれるかしら?」


「え…シィナさんは?」


こうした方がいいと判断した私は、彼に向かってこう叫ぶ。だが、彼は私が判断した行動に不安を覚えて訊き返して来た。それでも、


「私は彼らを助けに行くわ!」


そう断言して歩き出す。


「えぇっ!?…モンスター?が何かもわからないのに…」


状況からして素人も同然の薬草採取に来た者たちでは対処しきれない程度には強いモンスターが現れていると判断できる。でないと救援を求めて叫ぶはずがないからだ。


「いいから!…なるべく急いでね。私もむざむざやられるつもりはないけど…」


前衛が居る前提の後衛織「弓師」では防御に乏しい。如何に風の精霊の補助で風属性の障壁を展開できるとも、強烈な物理攻撃を受けてしまえば1回は防げても次はない。できればそこまで強いモンスターが出てきてないことを祈るしかない訳で…。


(ショウくんは…よし、出張所に向かったわね。誰だか知らないけど私の甘い?時間を潰してくれちゃって…容赦しないわよ!?)


なんて雑念マックスなことを考えながら駆け出す。弓に番えた矢に風の魔法を纏わせつつ、進行方向に逃げながら叫ぶ人間が見えてきた。後方にはゴブリンと…オークが見えた。


(はぁ…この近辺のよくいるメンツだけか…これならば何とか対処できるけど…あいつら退治しても退治しても湧いてくるのよね…)


「助けてくれ~っ!!」


「あなたたち、無事ですかっ!?」


逃亡している薬草採取者たちを視認し、声を掛けるが逃げるのに必死で返事をする余裕は無いようだ。私は足を止め、弓を引いて狙いを定める。


「しっ!」


『ぐげぇっ!!』


見事に眉間を射抜いた矢に、最後尾の女性冒険者を攻撃しようとしていたゴブリンはもんどり打って倒れた。


(まずは1体!)


続けてもう一斉射…今度は別のゴブリンを射抜いて倒す。最も近かったゴブリン2体を倒し、後続のオーク以外にも居ないかと見回すんだけどそれがいけなかった…。


(後は…はっ!?)


気付けば、何かがぶんぶんと音を立てて接近してきて…


(あれは…!?)


あれはそう。昨日も見た…投てきされた斧と同じ物。サイズが大き過ぎて大斧に見えるけどオークの放った手斧で…そしてそれは私の頭をかち割ろうと…


ギィィィンッ!!


「え…?」


信じられないことに目の前に何者かが割り込んで、投げ放たれたオークの手斧を弾きました!


「しょ…ショウくん!?」


つい先程まで面倒を見ていた私より小さな体の男の子。見間違えるはずがありません…。しかし、ギルドの出張所に応援を呼んでくれと頼んだ筈…何故ここに?



「ふぅ~…、間一髪だな…」


そうぼやく背中を、私は唖然として声を掛けます。


「な………私はギルドに応援をといったのに、何で…」


しかし、気負いなく彼はこう返してきました。


「既に応援は呼びました。…取り敢えず、彼らの援護を」


視線を彼らに向けたので釣られて私も視線を追うと…彼ら4人は増援のゴブリンに追われ、放置しておくとてんでバラバラに逃げかねません。ゴブリンたちは余り頭が良くないのですが、今はオークたちの指示を聞いているのでしょう…徐々に包囲されつつあるようです。


(くっ…ぐずぐずしてると全員囚われ兼ねない…仕方ない、か)


取り敢えず、ゴブリンたちに弓矢で1体づつ確実に減らそうと矢を番えた時です。


「あ、あれ?…」


ショウくんがそういった途端、目の前1m程先に小穴が空きます。


(何を…って、穴ぁっ!?…まさか、土魔法…?)


この土壇場で土魔法に覚醒したということ?…雑念が混ざったのがいけなかったか、矢が思った方ではない方へと放ってしまいました…幸い、薬草採取者たちには当たらずに済みましたが…。


『ギャ!? ギャァァァアアア…』


その数秒後、薬草採取に来ていた人々を追いかけていたゴブリンたちが、一瞬の内に姿を消して断末魔のような声を上げています。追われていた人たちは何事かとびっくりして後ろを振り返り、その様子を見ているようでした。


「え?…今の、魔法よね…ショウくん、いつの間に…」


と、小声で呟いていると…後続のオークが追い付き、ショウくんの目前に立って大声を上げています!


『グルル…グォオオオッ!』


そして、その後ろから追いついた2体目のオークが斧を投げようと構えているのが見えた!!


「っ!…させない!!」


私は2回目の投てきを防ごうと弓矢を構え、矢に魔力を纏わせようとしました。しかし…2体のオークが咆哮を上げ、耳をつんざく大音量に行動を阻止されるのでした!!


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うっかり違う内容で投稿してたので修正…というか元の13話の文章を取り込んで少々色付けしました。

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