20 その5

前回は10話シィナさん視点を書いてみました(当然起きて見ている間のことだけなのですが、当日はちゃんとフルタイム意識があるのでそのまんま描かれているのは仕様です。ご了承ください)

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「ルールはわかったかな?」


「え…はい。でも…」


「じゃ、行くわね?」


う~ん、どうやら体力測定を省略したんじゃなく、あのギルド職員がショウくんの実力を見たいだけっぽい…。当の本人も体力測定はどうしたんだろう?って顔をしている。そのままおたおたしているとモロに攻撃を受けてしまいかねない。


(はぁ、仕方ないなぁ…)


「何ぼやぼやしてるの? 来るわよ!」


取り敢えず、注意を促そうと怒鳴る。エンバートみたいに大声は出せないけど、風の精霊の助けを得て声を拡声して声を届けて貰った。


「くっ…!」


がいぃぃん…っ


ギリギリ防御が間に合ったみたい。丸盾を構えたと同時に攻撃を受けたのでよろめいてるけど…はっきりいって素人も同然の動き。ステータスの筋力を強化したお陰で何とか攻撃を受けられたみたいだけど本格的に攻撃を受け続ければどうなるか…はなはだ不安しかない。


「ほらほら、盾でガードしてるだけじゃ実力を測れないわよっ?」


ギルド職員のいう通り、ただ盾を構えて受け続けるだけでは反撃はできない。最初の数回こそは素人同然にただ刺突剣を受けるだけで反撃もままならなかったのに次第に動きが良くなってきたのかな…あれ?


「くっ!?」


普通、微妙に使い方が上手くなっていく…ということはあると思うけど、見ている間に受け方がどんどん上達して…今のショウくんのそれは、熟練の戦士の盾捌きと変わらない動きに…こんなことってあるの!?


「たぁっ!!」


少々息が上がってきたと思われるギルド職員の攻撃の間隙を縫って、ショウくんが体ごと盾を相手にぶつけて行く!?


「ぐっ…きゃあっ!?」


そのままどすん!と尻もちをつき、喉元へ木剣を突き付けるショウくん。思わず「格好いい!」…と叫びそうになったけど自重して黙り込む。…うん、私はお姉さんであって保護者なの。決して…その…んんっ!…何でもないです…何でも!


「え~っと、勝負あり…ですか?」


何とも気の抜けた調子で訊くショウくん。見た所、殆ど疲れていないように見える。対照的に息が上がっているギルド職員の方が、登録しに来た初心者冒険者のようにも見える…


「はぁ、ふぅ…あ、あはは…負けちゃったわね。合格よ、ショウくん」


息が上がってる為、詰まり詰まりながらも返事を返すギルド職員。見れば顔からは滝のような汗が流れ落ち、上半身も汗だくで肌に服が張り付いている。ショウくんは気付いてないようだけど下着が…いえ、本人の為にも詳細はいわないが吉か…


「はぁ~…冒険者登録試験なんて久しぶりだったからなぁ~。腕がなまっちゃったかな?」


なんていいながら体を捻ってぽきぽきと骨を鳴らしてストレッチをするギルド職員。そんなことよりさっさと出張所の小屋に戻って汗拭いたり着替えた方がいいと思うんだけどなぁ…。他の男性職員や冒険者たちに見られて恥ずかしい思いをするのは貴女なんだし…。あ、ショウくんが透けてる下着に気付いたのか、照れて視線だけそっぽ向いてるし…


「じゃあ、これお願いね? 報告に行ってくるから、後からカウンターまで来てね~」


納得するまでストレッチを終えたようで、それだけいうと小屋へと走って戻る。ショウくんは頭を下げて見送った後、


「…元気な人ですねぇ…」


と、しみぢみと呟いていた。まぁ体力はありそうな人ではある、かな?…さっきまで息切れしてぜーぜーいってたけど!


「まぁね。じゃ、片付けてらっしゃい?…カウンター前で待ってるから」


私もそれだけいうと、使った道具を片すように指示してから受付嬢の待つカウンターへと戻ることにした。これ以上此処に残っててもやることはないしね。



「「「おめでとぉ~!」」」


ショウくんが戻って来たと同時に、私と受付嬢とギルド職員の3人でお祝いの言葉を贈る。登録試験の結果は想像通り、合格の2文字だ。


「見事に合格です! では、これをどうぞ!」


受付嬢からショウくんへ冒険者の証であるギルドカードを手渡される。それは金属製で白色で塗られており、黒い文字が刻まれている。


「ランクF冒険者証…」


ショウくんがギルドカードを両手で持ち、じぃ…と見ながら見たまんまの感想?を漏らす…いや、心の声が漏れ出ただけかな?


「あぁ、そうそう。表でも裏でもいいから、魔力を浸透させて。血液を一滴垂らす方がいいんだけど、交換する度に痛い思いをするのはヤダ!って声が多くてね。魔力でも個人登録をできるようになってるの」


受付嬢がそういうとショウくんが「え?」という顔をしている。この作業はギルドカードに個人情報を登録する行為。魔力を体外に放出できる人なら魔力浸透でいいんだけど魔力操作が苦手な人や種族特性で全く魔力を放出できない人などは血を垂らす必要がある。


(私は種族特性上、得意なので問題なかったんだけど…エンバートは針を刺さなければならなくて大暴れしてたっけ…「俺は先端恐怖症なんだよ!」とかいいながら…あれは傑作だったなぁ…)


思い出しして顔がニヤけてしまうが小さく咳払いして顔を引き締める。


「はい!ちょっと貸してね?登録するから」


思い出し笑いをしてる間に魔力の浸透が済んだようで、受付嬢からギルドカードを寄越せとショウくんがせっつかれていた。カードを受け取った受付嬢がカウンターの下の魔導装置で登録作業を行っている。「何をしてるのかな?」とショウくんが覗き込もうとしてたので補足してあげる。


「魔力浸透させたギルドカードを、ギルドのとある装置に登録してるのよ。これが終われば、各種手続きができるようになるから」


余り大きな声でいってもアレかなと思い、ショウくんの耳の傍で小声で説明していたらショウくんがくすぐったいのか、私の口の傍から逃げようとする…耳が弱いのかな?


「はい、処置が完了しました。では、今後とも宜しく!」


私の時も同じこといってたような…。他の受付の人はもうちょっと違ういい方してた気がしないでもないんだけど…まぁいいか。


「宜しくお願いします」


ショウくんが礼儀正しく頭を下げる。ギルドカードを受け取った後、付いているチェーンに気付いて首に掛ける。私の時はそんなサービス無かったような…。差別?…うぅん、違うわよね?…考え過ぎ考え過ぎ…


「じゃ、仕事に戻るね。じゃぁね!」


ギルド職員がいきなりそういうと、カウンターの向こう側へと去って行く。お祝いの言葉を贈った後にすぐ去ったと思ったんだけど、まだ居たのか…。去って行く顔を見ると、如何にもストレス発散していい気持ちだ~!…てな表情をしている。…まぁいいんだけど。



「じゃあ、何か依頼でも受けてみる? 初仕事だから、あんまりキツイのは選ばなくて大丈夫、だよ?」


気を取り直してショウくんにそう提案してみる。


「え…結構疲れてるんだけど…依頼受けないとダメですか?」


若いんだからそんな年寄りみたいなこといわないの!…と、口に出さないで心の中で返しながら掲示板へと歩く。


「そうね…薬草の採取とかどうかしら?」


初心者冒険者の初依頼といえばこれが定番でしょ!…と、また心の中でいいながら依頼票を見る。


(薬草10束を取って来るか。これなんか良さそうね…)


シィナの後ろ姿を見ながら、ショウは(今日は夜まで休めそうにないなぁ…)と諦めの表情を浮かべるのだった。


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夢中になると人の話しを聞かないシィナさん…ってことで、11話のシィナさん視点でした。

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