19 その4
前回は7~8話シィナさん視点を書いてみました(当然起きて見ている間のことだけなのですが、当日はちゃんとフルタイム意識があるのでそのまんま描かれているのは仕様です。ご了承ください)
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「そうですか…はい、わかりました。それで…そちらの方の冒険者登録、ですか?」
(ん?…彼女の視線がこちらを向いてない?…ははぁ、知らない子が居るから気になるのかしら?)
私は(後で説明した方がいいかな?)と思いつつも受け答えをする。今日はショウくんの冒険者登録をしに来ただけ。先輩として導いてあげなければならないのだし!
「そうそう。彼の登録をお願いするわね?」
そういうと、受付嬢はショウくんに顔を向けて説明を始める。
「じゃあ君、こっちへ来て。読み書きはできるかしら?」
ショウくんがカウンターへ近付き、微妙に固まってから返事をする。
「あ、大丈夫みたいです」
(…今の間、何だったのかしら?)
「…みたい?」
「あ、いえ何でもないです。急いで書きますね…」
受付嬢も不審な目で見ているが、私もあれ?とは思う。まぁ、読み書きができるようで良かった。受け答えはちゃんとできるのに読み書きができないなんてこともあるという可能性は頭に無かったからなぁ…。
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「これしか書ける所が無かったんですが、構いませんか?」
後ろから覗き込むと、登録申請用紙には次のように書かれていた。
【冒険者登録願】
氏 名 :ショウ
住所・出身:
職 業 :
(う~ん…名前だけ、か…。職業は無職だから書きようが無いのはわかるけど…何で出身地も書かないのかしら?…正確な名前を憶えてないから?…う~ん、そういえば聞いたことがなかったわね…)
「大丈夫ですよ。逆に住所不定なのに適当に書かれたり、就いてもない職業を書かれて調査の手間を掛けられるよりは余程マシですし?」
(遠回しに辛辣な…まぁ嘘を書かれるより正直にわからないならわからないと書かない方が手間は減るものだけど…)
知り合いとはいえ冒険者ギルドに勤める正式な受付嬢だけあり、仕事に対しては手を抜かないのはいい…けど、少し物言いがきつい気がする。成人したばかりなのは見ればわかるのに、もう少しこう…言い方があるでしょうに…
「では、冒険者の登録に当たって適性の有無を調べる為に試験をします。こちらにどうぞ?」
ショウくんはこちらをちらと振り返り、軽く頷くと受付嬢の差した方…他のギルド職員の元へ行く。私も後を追いながらふと思った。
(出張所のような人員の少ない所でも登録処理を行ってたんだなぁ…)
…と。いや、本当に今更だけど、ね。
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「では、まずはこの水晶球を触って貰おう」
ショウくんの目の前には魔力測定用の水晶球が設置されている。転げ落ちないように台座に設置されているのだけど、それにしては少し大きいような?
「えと…座った方がいいですかね?」
「どちらでも構いませんよ。中には立ったままの方が自然体になれるって人も居ますから」
(うん、普通は机があって椅子があれば座るものだけどね)
心の中で突っ込んでいると、ショウくんは座ってから水晶球を触ることにしたらしい。深呼吸をして心を落ち着かせているけど…大丈夫かな?
「あ…基本的なことを聞くようで何ですが、これって何の試験でしょうか?」
思わずコケそうになるけど辛うじて踏み止まった。ギルド職員も微妙に体を傾けている所を見るとこちらと同じく「今更何を…」と脱力しているようだ。微妙に親近感を感じていると、
「…あぁ~そういえば説明してませんでしたね。これは魔力の量。魔力の質。得意・不得意な属性などを調べる為の水晶球です」
「へぇ…色々調べられるんですね?」
(へぇ…魔力量だけ測定できる物かと思ったけど、色々測ったり調べられるんだ…)
自分自身が登録した時は、あれ程大きい水晶球じゃなかったっけ?…と思い出しながら見ていると、測定結果が出たようでギルド職員が水晶球内部に浮かんでいるだろう文字を読み上げる。
「…ふむ、魔力量は普通。質も普通。得意・不得意属性も無しですね。きわめて平凡と…逆に珍しいですね。得意属性も不得意属性も無いなんて」
(…本当に珍しい。普通、得意属性は無くとも不得意属性は現れるものなのに…)
ショウくんを見ると、判明した結果を聞きながら「ふむふむ」と頷くだけだ。…こう、もっと感動がある筈なのに…まぁいいか。
「じゃ、次は体力測定と武器を用いた模擬戦になります。大丈夫、武器といっても刃を潰した練習用の武器ですし、今まで触れたことが無くても、その時に何らしかの武器が自分に合った物かわかるようになるでしょうから」
(いよいよ実技…というか体力測定と模擬戦かしら?…怪我しなければいいのだけど…)
自分の時は規模の大きいギルドで、大勢の登録申請者たちと共に訓練場を走り回ったり筋トレしたりした後、日を改めて模擬戦をやったものだけど。この出張所じゃそこまで大掛かりなことはできそうもないし…。ま、見学させて貰おうかしら?
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「では、この中から自分に合ってると思う物を選んでください。わからない場合は、小型の盾と剣をお勧めします。万人向けでもありますしね」
現在、裏口から出て少し歩いた場所にある倉庫に居る。その中でギルド職員とショウくんが模擬戦に使う装備を選んでいる。
(あれ?…体力測定はしないのかな?…それとも、装備をした状態で走り込みをするのかな…??)
戸惑いながら見ていると、ショウくんは木製の丸盾と標準的なショートソードを選んだようだ。刃は付いてないけど両刃の剣って奴だね。全部木で作られていて、柄の握りに革でぐるぐる巻かれていて滑り止めになってる奴。盾はやや小型の丸盾…ラウンドシールドって奴で、裏側に腕を固定する革のバンドが2つ張られていて表には金属の補強が入っているタイプ。どちらも成人したばかりの子供の体格にはぴったりだと思う。
「決まりましたか?」
「はい。これで試してみようかなと…」
試験官でもあるギルド職員に装備を見せるように掲げているショウくん。
「アドバイス通り、剣と盾を選んでくれたのね?」
「えぇ、武器とか触れたこと無いですし…。まずは様子見で」
台詞からわかる通り、ギルド職員は女性だ。公平を期する為か喋りが硬くて文字だけで見ると男性と思われがちだけどね。尚、彼女は装備箱から刺突剣を選択している。先端だけ木製のガードを付けた物で、それ以外は金属製だ。刺突剣…レイピアだと記憶しているその剣は、よく見ると刃は潰されているものの、殴れば怪我を負いかねない。
(大丈夫かな?…新人候補を大怪我させる程腕が悪いとは思えないけど…)
ひゅんひゅんと突きをしたり振るったりして調子を確かめているギルド職員の所作を見ながらやや不安に思い、いざとなったら介入して止めればいいかな…と思っているとそろそろ始めるようだ。
「えっと…」
ショウくんがそういって指を差す。きっと、突きを入れられたら危険そうだから…と思っているんだろう。私もそうは思うが、まずは1回戦ってからと思い、頭を横に振ってびしぃっ!と指差す。勿論、戦ってきなさい!…という意思表示だ。
「…はい」
一瞬、「そんなぁ…」と顔に出したが、やがて観念したのか項垂れながらもギルド職員に向き合うショウくん。
(私も辛いのよ…でも、頑張って!)
そう心の中でいい訳をして、「頑張れ~!」と応援をするのだった。
「じゃ、ルールを説明するわね?」
ギルド職員が説明を開始する。よくある模擬戦の試合ルールなのだが…。
(あれ?…体力測定はしないのかしら?)
ひょっとしてひょっとすると…模擬戦と体力測定を一緒にやっちゃうってこと?…合理的だけど、強引な………。手抜きと思ったら負けなのかなぁ?
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人員不足で省力化ってことでしょうか?…にしても、規模の小さい村でも冒険者希望者が居るようですね…という訳で、10話のシィナさん視点でした。
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