17 その2

前回は2話~5話のシィナさん視点を書いてみました(当然起きて見ている間のことだけなので、一部飛んでいるのは仕様です。ご了承ください)

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- 一夜明けて -


翌朝。いつもの時間より早めに起きる。昨夜はパーティの危険に遭遇したと聞いた男の子を、定宿である「鴨とあひる亭」の…ガイルの部屋に泊めたと聞いて何となくモヤモヤしていたのもある。宿の名前がアレなのはこの際置いておくとして…いや、私も初めて目にした時は「何て長閑のどかな名前なんだろう…」とは思ったけどね…んんっ、えっと…


「エンバート。あの子の名前、何ていったかしら?」


「あれ?…いってなかったか?…「ショウ」っていうんだと」


「ショウ…ショウくんね…(よし、覚えた!)」


エンバートの興味がないといった態度はいつものこととして、私は取り敢えず忘れないように心のメモにしっかり書き込んだ。自慢じゃないけど…異性の名前って覚え難いのよね…エルフだからってこともあるんだろうけど、その美貌のせいで「一目惚れしました!」…って、行く先々でプロポーズされることが多かったしいちいち覚えてらんなくて…って、それはいいのよそれは…。どうやらショウって男の子はうちのパーティーの恩人らしいから、名前すら知りませんでした!…ってことになったら、エルフってのは恩知らずなんだな?…なんて思われ兼ねないし…はぁ、何か今更心臓がドキドキしてきたわ…


「じゃ、起こしに行くぞ?…これ以上待ってらんないからな」


「え?…あぁ、わかったわ」


既に宿では朝食が用意されている頃合いだ。一応、疲れているだろうと起きてくるのを待っていたんだけど、エンバートの腹の虫が我慢できずに鳴り響いている…一応年頃の女性だというのに相変わらずのようだ。


「おい、いつまで寝てるんだ?起きろ!」


「んぅ~、母さん、後5分…」


「俺はお前の母親じゃね~っての!」


寝惚けたショウという名の男の子がお約束のボケをかまし、エンバートに毛布を引っぺがされる。幸い、裸や下着を着ただけで寝ているということもなく、目の毒にはならなくてホッとする。村でもよく見かける装いだけど、紐で結んでおらず、不思議な模様をした線が服の真ん中を走っている。あれは何だろう?


「こら!…まだ成人し立ての子供に乱暴はよしなよ…」


極めて常識人を装ってたしなめる。エンバートはこちらをチラと見て溜息を吐き、やれやれとジェスチャーをする。


「えと、すいません。朝は弱くて…顔洗ってきます…」


ショウ…くんがそれだけいうと、部屋を…ガイルに割り当てられた部屋を出て行く。取り敢えず、彼が戻るまでここで待つことにする。



「さて…昨日の続きでもするか?」


「それよりご飯食べない?…少し遅いけど、女将さんまだ朝ご飯出せるって」


ショウくんが戻ってくるまでに朝ご飯がまだ用意できるか女将さんに聞いてきた所、まだ大丈夫だと聞いたので取り敢えずお願いしてきた。


「そうだな…ショウは何か好き嫌いあるか?…まぁ、余程のことじゃない限りは出された物は食うしかないがな!」


エンバートが何が出ても食べろよ?…と、不遜な笑顔で睨みを利かせる。そんな顔してたら怯えちゃうじゃないの…もう。と、食事の用意ができたらしく、宿のお手伝いの少女が言付けに来たので朝ごはんを受け取りに部屋を出る。


「ほら、エンバートも運ぶの手伝いに来て!」


「やれやれ…面倒なことだ」


宿の食堂で食べれば面倒が無いのにとぶつくさいうエンバートに苦笑いしながら、私たちは用意された朝ごはんを運んだ。確かに面倒だけど、宿の食堂は既に清掃済みで、後片付けの2度手間を考えると部屋で食べた方がいいと思ったんだよね…



「さ、食え。遠慮はいらんからな?」


「いただきます…」


「あ、はい…有難く、いただきます…」


自分が作った訳でもないのにやたらと偉そうなエンバートをスルーして食事にありつく。少々威圧的な態度でいるもんだから萎縮しちゃってるし…まったく子供相手に手加減って言葉、知らないのかしら?


(黙々と食べてるけど…ちゃんと噛んで食べてるのかしら?)


ショウ…くんはもそもそと食事しているけど、エンバートはいつもの通りに豪快にバクバクと皿から口へと放り込んでは咀嚼して飲み込んでいる。いつもながらこちらの食欲が減退する程によく食べる。お陰でパーティーの食費が馬鹿にならない原因となってるのだけれど…流石獣人といった所かしら?(褒めてない)…そうこうしてる内に全員が食事を終え、食器を片付けをしているとエンバートが口を開く。


「腹ごしらえは済んだな?…じゃ、俺は昨日の処理が残ってるからよ。シィナ、こいつについててやってくれ。頼んだぞ?」


昨日の処理…というのはガイル関連だろう。まだ色々と残っているのかそれだけいうとエンバートは部屋を出て行った。この部屋はガイルの寝所でもあるがパーティー間でのミーティングなどをする関係上、ベッドと簡素な家具が置いてある私やエンバートの部屋よりも大きめになっていて全員で食事ができるテーブルも完備されている。ガイルが居なくなってエンバートも用事で去ってった今、ショウくんと私だけの2人だけが残った。心なしか妙に部屋が広く感じて…


(心にも隙間ができちゃったのかな?…はぁ)


「…で、何を知りたいんだっけ?」


昨日、ショウくんは住んでいた所から殆ど出たことがなかった為、色々なことを知りたいといっていた。流石に全員疲れていたこともあり、この話は明日ね…といって休ませたのだ。私自身も疲労感もあり、ベッドに入って即寝てしまったんだけど…



「…ってことなの。どう、わかった?」


「あ、はい…」


我ながら詰め込み過ぎたかな?…と思わないでもないが、僅か2~3時間の内に必要最低限の一般常識(要らないかな?とは思ったんだけど、知らずに恥をかかせるのも何だったので一通りは教えることにした。里を出て数年の自分がいうのもなんだけど、ちゃんと覚えて貰えたと思う。自分の復習や再確認にもなったし!)、冒険者としての…わかる範囲内の知識や覚悟など。加えてこのハイミト村周辺の地理やモンスターの分布・注意することと討伐の方法などなど…


(メモを取りたいからっていうので紙とペンを渡したけど…私より上手に文字を書くのねぇ…)


出身地に学び舎まなびやでもあったのかしら?…と思える程に奇麗な文字を書き、成人したばかりの男の子にしては丁寧な対応と言葉使い。後者は冒険者ギルドではマイナスに作用することがある(舐められたりとか)ので矯正は必要として…


「後は…実技かぁ…」


話し終えてメモ書きするのを待っていると、呟くように言葉が口を突いて出ている。こちらも、何となく質問として捉えて返事をする。


「そうね。座学は問題なさそうだし、後は剣術や魔術かな?」


「それと、体力測定もあるんですよね?」


「そうね…。ま、成人になる頃の男の子なら問題ないと思うけどね?」


見た目はひょろそうな体格だけどこの世にはステータスという物がある。貴族の人たちならステータスというときらびやかな装飾品や自身の家格などになるけど、冒険者のそれは違う。見た目に惑わされない己の肉体を補強する力だ。


「えっと…念の為聞いておきたいんですが…」


質問の内容は自分と同じ年代の子供…成人したての人たちはどの程度の力量を持っているのか?…ということだった。スキルに目覚めていた場合、その有無によっては比較しても意味はない。取り敢えず一般的な力量というか…体力測定に不安があるんだなと思い、記憶を掘り起こして述べていった。確か…


・20kmくらいは余裕で走破できる(全力疾走ではなく、軽く走る程度で)

・30kg程度の荷を背負って運ぶことができる(徒歩)

 ※体力がない子でもその半分の量くらいは何とか運ぶことができる

・荷を運ぶ距離は、この村の端から端程度(5kmくらい?)


だったかな?…と思い浮かべて喋り終えると、ガクーンとテーブルに突っ伏しているショウくんが目の前に…。えっと?


「…大丈夫?顔色が悪いけど」


「あ、いえ…俺、村でも特に体力無かったんで、その…」


「あぁ、だからあんな荷車を持ってたのね」


何で空荷なのにあんな荷車を持ってたんだろう?…と思っていたが納得だ。きっと、ガイルの遺体と気絶した私を運ぶ時に荷を放り出してしまったんだと思う。放り出した荷は取り戻せるかわからないけど、お昼を食べたら探しに行かないと…と思う。可能であれば弁償してもいいし…


「えっと、まぁ、そんな感じです…はは」


ショウくんは頬をぽりぽり掻きながらそっぽを向いた。きっと照れてるんだと思う。かわぃ…はっ!?


(いけないいけない…私に年下趣味なんか無かった筈なのに…)


純潔種でもないエルフだけど、こんな私なんて人族には分不相応だよね?…と日頃想ってた癖に、ガイルが亡くなってすぐ乗り換えるなんて尻軽なっ!…とか色々な思考が頭の中を飛び交っていると、ショウくんがどんよりとした表情で下を向いていた。


「どうしたの?」


思わず顔を近づけて訊いてみる。本心から心配しての行動だったが、内心は


(きゃーっ!?わ、わた、私なんでこんな大胆な行動してるのっ!?)


…とパニックを起こしてたりする。表面上はそうは見えないと思うけど…バレてないよね?そんな内心を隠そうと次の行動に移す私…額を触って体温を測ろうと手を伸ばす。


「別に熱は無いわよね?」


自分の額にも手を触れて比較してもそう大した違いはない。手を戻してどうしたものかと思案していると、ショウくんは空中で何かに触れるような手の動きをしている。それは自分にもよくある行動で、ひょっとして…。


「ん?…ひょっとしてレベルアップした?」


思い切って訊いてみる。ショウくんは驚愕の表情でこちらを見返し、


「え?…えっとレベルアップですか?」


「うん。今、ステータスボードを操作してたんでしょ?」


一応、内心は「おお!ショウくんレベルアップしたんだ。おめでとう!!」…とお祝いしたいのを我慢して、何てことないよ?…と平静を保って訊く。冒険者にとって、レベルアップはこの上ない喜ばしいことだから…それは自らを強化する手段でもあり、生き残るには必須のものなのだから。


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6話のシィナさん視点でした。結構合間を補足しながら書くと長くなりますね…(7話も入れようと思ったけど長くなるので次話に回すことに…)

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