シィナさん視点の第1章のおさらい

16 その1

今回は「猛き探索者たち」パーティの紅一点のシィナさん視点です

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時はショウに出会う以前に遡る…



「ねぇ、村の付近の探索って依頼だけど…大丈夫なの?」


私はリーダーのガイルに不安になって訊いてみた。つい先日レベルアップしたからといってもパーティ戦力としてはまだまだ不十分だと考えている。盾役のリーダーのガイル。遊撃役のエンバート。後方にて弓か魔法での支援攻撃役、兼、斥候役の私。矢張り、専属の斥候や回復織が欲しいところだけど、回復織は人気職業なだけあってなかなか見つからない、どころか…


(こんな村じゃ2人しか居ないからなぁ…)


村専属で1人。別パーティ所属の者の2人しか居ないのだ。


「…気が進まないのはわかるけど村からの依頼だし、誰かが受けないといかんからさ…たまたま暇になったうちらが受けただけで、さ」


それはわかっている。もし、村への襲撃を狙っているとすれば早めの対処は必須だし、見つけ次第間引くなどの対処も必要だと思う。


「でも…私たちのパーティが率先して受けなくても…」


と、ぶちぶちいっているとエンバートが笑いながらからかってくる。


「とか何とかいって、怖いんだろう?…がははは!」


カチン!となって、つい周辺の索敵を怠ってエンバートと口喧嘩を始めてしまう。ガイルが「おいおい…仕事中に何やってんだ…」と、ため息を吐いて仲裁を始めようとした。それがいけなかった…



「はっ…ガイル!」


視界の隅に異変を感じて振り向くと、いつの間にか接近していたオークが斧を振り上げている所だった。


「ん?…何ぃっ!?」


私の態度に異変を感じて振り向くも、手に持っている盾を構えようとしたが間に合わなかった…。一旦は盾で攻撃を防いだものの、よろけた状態で下から返す斧で剣と盾をカチ上げられて万歳の体勢に持って行かれてしまうガイル。


「がっ…」


強引に剣と盾をカチ上げられたガイルが苦悶の呻きを口に出す。オークはニヤリと口の端を歪めて力強く斧を振り下ろす。無残にも肩口から反対側の腰まで雑に切り裂かれて斜めにずり落ちるガイルの上半身。断面から大量の血液と肺腑がどばどばと溢れて来る…。そこまで息をするのも忘れて見ていた私は、今更ながら我に返り…


「きゃあああっ!ガイル!?」


と叫んで弓矢をかなぐり捨ててガイルの亡骸に縋りつく。…そう、既に絶命したリーダーの有様を直視した私には、オークたちの対処などできずに叫ぶしかなかった。後ろからはエンバートが何か叫びながら近づいてくるが、私はリーダーの亡骸に駆け寄って泣くことしか…



目が覚めたら腹部に疼くような痛みを感じていた。目覚めた場所は…


「ギルドの…医務室?」


周囲をゆっくりと首を巡らして見回すと専属の先生が居た。例の村専属の回復織の1人だ。


「あら、起きた?…大変だったわねぇ…」


口頭でだけど、現在の状況を先生から聞く。うちのパーティリーダーが今回の依頼中に殉職したこと。エンバートが私のお腹を殴って気絶させ、撤退してきたこと(道理でお腹が疼くと…)パーティ外の人間がたまたま遭遇し、気絶した私と倒したモンスターのドロップ品などを運んできてくれたこと…


(外部の人間?…誰かしら?)


依頼は失敗かと思ってたけどオーク2体にゴブリン1体は倒せたそうだ。逃亡はゴブリン3体とコボルド4体だそうだが、今回の依頼内容は村周辺の索敵が主であり、可能なら倒せとのことだったので…結果だけを見れば依頼条件はクリアしてるんだけど…


「一応気絶したままだったから、ここで寝て貰ってたのよ。体はもう大丈夫かしら?」


先生が書類仕事をしながら訊いてくる。私は体のあちこちをぱたぱたと触りながら「多分…大丈夫」と答える。相変わらずお腹だけは微妙だが、激しく動かなければ大丈夫、だろう。多分、きっと…


「そう。じゃあベッドは1つしか無いし、そろそろ出てくれるかしら?」


いつ何時、急患が運ばれてくるかも知れない。それは理解しているが、大丈夫とわかった時の手のひら返しはいつ聞いても「それってどうよ?」と思わないでもない。それでも、彼女が居てくれるだけでも生存確率が上がる訳だし、感謝しかないし、文句なんて以ての外だ…


「あ、はい。有難う御座います…」


それだけいって辞退しようとすると、


「あ、そうそう。エンバートさんには文句いっておいたわよ?…あなたの純血獣人種の力でエルフの脆弱な腹部を殴るなんて内臓破裂させる気!?…ってね。あなたは純血種じゃなくて、多少人族の血が入ってるとはいえ、脆弱なのには変わらないんだし、気を付けなさいよ?」


聞いていて血の気が引く。お腹が無事で多少疼く程度…ということは、かなり加減されて殴られたんだと思うけど…自業自得とはいえ、ガイルの後を追う所だったと思うと…


「あの…その…お手を煩わせて申し訳ありませんでした…」


深々と先生に頭を下げて謝罪する。


「いえいえ。じゃあ、お大事にね!」


取り敢えず受付カウンターで聞いた話では、リーダーの…ガイルの亡骸は既にこの村には無いとのことだった。家族が居ないと本人から聞かされていたのに、一族の墓地へ埋葬するとのことで既に運ばれたと知った…


(家族は居ないというのは肉親というか両親や兄弟姉妹が居ないというだけで、一族というか…親戚は居たんだね…ガイル)


何だか嘘をつかれたような気がしたが…そう考えると自分も似たような境遇だったなと思い直し、受付嬢に礼をしてからトボトボと帰途につく。沢山の情報が頭の中に詰め込まれ、少々熱を持った頭を冷やしながら歩いていると定宿の姿が見えてきた。


「ここも長いよね………」


(考えたらこの村で3人が出会ってから、もう半年以上経ったっけ…)


思い出を胸にこれから生きて行くとか、まるで未亡人みたいな想いをさせるなんて…とセンチな気持ちになったけど、宿の出入口から彼女の顔が見えた途端に全力で駆け込んで思わず全力でグーパンチを顎の下から放ってた。いや、エンバートに殺されかけたって事実を思い出しちゃってね…はぁ、つくづくシリアスに向いてないなぁと思い知らされた日だった。


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2~5話のシィナさん視点のお話でした。ショウくん視点では語られてないガイルの台詞とかが少しだけ語られてましたね!

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