11 初めての…

冒険者登録が終わりました!

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- 初めてのお使い…ではなく、薬草採取 -


「あの…シィナさん?」


「ん?なぁに?」


現在、俺はシィナさんと連れ添って歩いている。それはいい。唯…


「何で手を繋がなくちゃならないんですか!?」


恥ずかしくてぶちぶちいいながら精一杯の抵抗を試みるも…


「だって、何か危なっかしいし?」


…と、保護者視点で躱される。結局、村を出るまで…いや、目的地付近まで手を繋ぎっぱなしで、通行人に見られては冷やかされる羽目に逢うのだった。何この羞恥プレイ…



羞恥で顔を伏せながら歩く俺に気を使うでもなく手を引くシィナさん。かなりのご機嫌の様子だが…


「はい、この辺に群生してるから頑張ってね!」


いきなり手を離して振り向くな否や、両腕を開いて周りを見回す。


「あの…ここら辺全部、ですか?」


「そうそう。頑張って採取してきてね!」


そういうと、シィナさんは何処ともなく歩き出す。俺は、


「ここら辺っていわれてもなぁ…」


と、ぼやいてると鑑定スキルが自動発動して周囲の…唯の草に見える物に被さるように鑑定窓が現れる。


(これは本当に唯の草か…。これは回復薬の原材料の…。あれは解毒薬の…)


中には毒草も僅かに混ざっているが、鑑定結果を見ると調合次第では諸症状に有効な薬になるようだ。


「じゃ、じゃあ採取してきます」


確か、依頼の内容は「回復薬の原材料となる薬草を10束」だったなと思い出し、宙に浮いている鑑定窓を見ながら真下の草を引っこ抜く作業に没頭し始める。



…あれから30分経過。目標数の10束はとうに集め終えたのだが、多ければそれだけギルドでも助かるだろうと持てるだけかき集めていた。


「そろそろいいかな?…袋も一杯になっちまったしな」


最初は素手で持ってたんだが、気が付いたらそこらの草を素材にしたであろう麻袋っぽい何かが現れてたんで…有り難く使うことにしたって訳だ。


「これ、何束入ってるんだろうなぁ…」


取り敢えずシィナさんを探してキョロキョロしていると、鑑定窓がカシャッと現れる。


「は?…ってあっちか…。鑑定スキルって探索能力まで備えてたっけ?」


無論そんなことはない。拡大解釈し過ぎなのだがその時点では気付くことができない俺だった。



「あれ、もうギブアップ?」


シィナさんがこちらに気付いてニヤニヤしている。最初に別れた位置から移動していて今は大きい岩に腰掛けて本を読んでる。腰掛けるなら岩より木の方がいいと思う。腰を冷やしたら体に悪いだろうし…なんて考えていると、


「む?…今変なこと考えてなかった?」


「え?…あ、え~と…岩に腰掛けてたら冷やすから体に悪いんじゃないかな…って」


そこまでいうと、シィナさんは顔を赤らめながら


「へ、変なこといわないの!」


と両手で頬を押さえてそっぽを向く。俺は何か失礼なことでもいったかな?と思ったが「失礼しました」と謝罪するしかできなかった。昔、母親にそう聞いてたからそう思っただけなんだが、変なことなのかな?



「で、どうだった?」


どうとは、薬草採取の結果のことだろう。


「はい、これだけ集められたよ」


麻袋を手渡すと、「あれ?こんなの持ってたかな?」てな顔をしながら袋の中に手を入れて数えだすシィナさん。どんどん取り出して、どんどん脇へと置いて行く。10束づつ置いてはどんどん表情が変わっていく。どことなく、その表情は青褪めてる気がしないでもない。


(そーいやこの麻袋、見た目より入ってた気がするな…)


鑑定すると、こんな表示がされてた。



【鑑定結果】

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名 前:拡張済の麻袋

効 能:見た目より多くの物が入る。見た目の3倍収納可。重量は見た目の容量分しか感じられない(角が生えたり赤く塗られてはいない)

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(えっと…どう見ても魔法の袋(拡張)と変わらないよな?)


シィナさんが背中に背負っているナップザックタイプの背負い袋がそれだ。もっとも、あちらは1.5倍の容量拡張しかされておらず、背負えるから扱い易いってだけで性能はこちらの方がいいっていう…というか、最後の()内の補足って必要か?


「…しょ、ショウくん!」


「え、は、はい!」


何か、わなわなしながらシィナさんが怒鳴っている。周辺に声が届く範囲にはモンスターは居ないが、余り褒められた行為じゃないと思う。


「これは…何!?」


「え?…回復薬の素材の薬草、だと思いますが?」


何で怒ってるか見当もつかず、取り敢えず思ったことをそのまま述べてみる。


「それはいいのよ…薬草以外が混ざってないし…じゃなくて!」


(あ~、麻袋のことかな?)…と思い、いい訳を口に出そうとすると、


「何でこんな短時間にこんなに集められてるのよ!?」


「え…あ~…」


(そっちかよ…)


俺はどう説明しようかと考えて悩んでいると…


「たっ助けてくれ~っ!!」


「きゃあ~~~っ!!!」


と、突如として絶叫が木霊するのだった。誤魔化すのにいいイベントが発生したなと思うと共に、


「あ…俺、武器が包丁しかないや…」


(それに、攻撃向きの魔法も覚えてない…)


と呟き、前途多難な状況に考え込んでいるとシィナさんは反射的に立ち上がり、声のした方を睨む。


「不味いわね…。ショウくんは急いでギルドまで戻って応援を呼んで来てくれるかしら?」


「え…シィナさんは?」


俺が戸惑いながら訊くと、


「私は彼らを助けに行くわ!」


「えぇっ!?…何が現れたかもわからないのに…」


「いいから!…なるべく急いでね。私もむざむざやられるつもりはないけど…」


それだけいうと、シィナさんは駆けだした。俺は麻袋に薬草をかき集めて入れた後(放置するのは勿体ないしな)、鑑定窓を見ながらこう念じた。


『薬草の草原にてゴブリンとオークの集団が現れた。薬草採取の冒険者が襲われている。至急、救援を乞う』


念じた後、救援要請の文面は空中で光の文書から実体の有る用紙へと変じると小鳥の姿に変化して飛び立って行った。


「…」


間違いなく冒険者ギルド出張所の方へと飛び去ったのを確認すると、鑑定窓を再び見つめる。そこにはこう書いてあった。



【周囲探索結果】

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名称×人数(状態・名称など)

ゴブリン×10(興奮状態)

オーク×3(興奮状態)

薬草採取冒険者×4(一部怪我を負っている)

中級ランク冒険者×1(シィナ)

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「さて…武器か…包丁だけじゃ心許ないし…何か作れないかな?」


ふと、シィナさんが腰掛けていた大岩が目に映る。


(金属って岩とどう違うんだろうな…。物質の密度が高いか低いかの違いしかないような気もするけど…)


俺は物は試しと大岩に近づき、手を触れる。そして武器精錬スキルを発動する。大岩は光を発しだし、その大きさが徐々に小さくなって行き…


「ふぅ、こんなもんか?」


その手には包丁より長くて切れ味の良さそうな…片刃の日本刀に酷似した形状の武器が握られていた。次の瞬間、周囲の草と地面がごっそりと削られていき、左手にはそれに見合った鞘が現れる。


〈武器精錬がレベルアップしました! Lv1→Lv2〉


鞘は武器に入るのかな?…と思いながらシステムメッセージっぽい告知窓を眺めながら思う。


「刀か…用法を考えると盾は使い辛いよな…」


折角生えた盾術が無意味になったかなぁ…と思いながら、鞘に日本刀を収めると走り出す。向かうはシィナさんの向かった方角だ。


(無事でいてくれよ…)


レベル2である自分のことは棚に上げて祈る俺だった。


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エンバートは書類仕事と事実確認を終えると、ハイミト村へ戻るべく町から出て歩き出した所だった。何となく虫の知らせを感じたのか、今は全力疾走中である。だが、種族柄それ程長距離を走れる訳でもなく、半分の距離を残してへばる運命さだめだった…


【本日の錬成品】

・大岩から日本刀を精錬。周囲の草と地面から鞘を精錬。スキル経験値が溜まり、武器精錬スキルがレベルアップ(1→2)


はい、初めてのチュウ…ではなく、初めてのスキルレベルアップでした(初めての依頼でもあるけどw)

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