06 一夜明けて…

木10数本犠牲にして荷車を作成して死体と気絶したシィナさんを運んで村に帰還した。

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- 起床 -


「おい、いつまで寝てるんだ?起きろ!」


「んぅ~、母さん。後5分…」


「俺はお前の母親じゃね~っての!」


翌朝、起こされた時に無意識で返事してダミ声で怒鳴られながら乱暴に毛布を剥がされる。まだ寒いせいでブルブルと震えてると…


「こら!…まだ成人し立ての子供に乱暴はよしなよ…」


と、聞いたことのない女性の声が続く。


(ん?…成人し立て?…)


俺はショウ。この世界で苗字を名乗るのは危険かなと思って名前しか名乗ってない。元の世界では高校2年生の16歳だった(多分)。どうやらこの異世界では16歳で成人扱いらしい。


「えと、すいません…朝は弱くて。顔洗ってきます…」


ちなみに、家で寝てた時の寝間着代わりにしてるジャージの上下と何故か履いていた運動靴…普段から履き慣れているシューズだ…を履いていた。村人に似ている形式の服を着ている人が居たので、素材はともかく変な目で見られなかったのは幸いだろう。彼らのジャージ?は、ジッパーではなくて紐で何か所か結わえるタイプだったが。



「さて…昨日の続きでもするか?」


「それよりご飯食べない?…少し遅いけど、女将さんまだ朝ご飯出せるって」


「そうだな…ショウは何か好き嫌いあるか?…まぁ、余程のことじゃない限りは出された物は食うしかないがな!」


エンバートが「嫌がらせか!?」と思うようなことをサラリといってのけるが、特に好き嫌いは無いので「ない」といっておく。村の様子を見る限りはゲテモノ料理を出すほど文明レベルが低くはないと思えるから大丈夫だとは思うが…多分。


(ま、出されたら「住んでいた村では口にするのはご禁制の品でしたので」とか何とかいってエンバートに食って貰えばいいか…って、我ながらひでぇな…)


苦笑いしながら回避策を練っていると、シィナさんとエンバートが俺の分の料理を運んで来てくれた。ふわっと鼻をくすぐる匂いが俺の胃袋を刺激して、思わず腹の虫が騒ぎ出すのであった。その様子を目敏く目つけたエンバートは、


「さ、食え。遠慮はいらんからな?」


と、どうだ?感謝して食いやがれ!…といった感じで鼻高々になっていた。


「いただきます…」


シィナさんは特に気にした風でもなく、食前の挨拶?を口にしただけですぐに食べだす。こちらの世界では食前に神様に何かに祈るのかと思ったけど特にそんなこともしないようだ。ま、僧侶とかの神職なら話しは別なんだろうけど…。エンバートに限っては目を瞑って軽く頭を傾けただけですぐに食べ始めていた。


「あ、はい…有難く、いただきます…」


俺も慌てていつもより丁寧に食前の挨拶をしてから食べ始めた。尚、食事内容は黒パン2つに葉野菜が少々と何かの具入りスープが深皿に1つと水がコップに1杯のみ。スープだけは小鍋で持ってきており、余っていればお替りはできる模様…とはいっても、既にエンバートが2杯目をお替りしていて、中を覗くとシィナさんがジロリとこっちを牽制してきた…はいはい、残りは自分が食べるってことですね…はぁ。


(そういえば、昨日は疲労が溜まってたのかベッドに横になってそのまま爆睡してたんだよな…)


朝起きたら何処とも知れない場所の地面に横たわってて、それから飯も食わずに荒事に遭遇して…腹も減る訳だ。考え事をしながら食べていたら、あっという間に用意された食事は消えていた。味もわからぬまま、異世界初の食事は胃袋に収まっていた。


(しまった…もっと、味を噛み締めながら食べるべきだった…)


そんな状況で食べ終えたせいで味の程はさっぱりわからなかった。多分不味くはないんだろうけど…。ちなみにコップの水は…まぁ日本の水道水よりはマシかな?ってレベルだった。カルキ臭くないだけ普通に飲めるっていうか。馴らされてるよなぁ…俺ら日本人って奴は(フッ素とか毒性のある薬剤も混ぜられてるって聞いたことあるし…)


「腹ごしらえは済んだな?…じゃ、俺は昨日の処理が残ってるからよ。シィナ、こいつについててやってくれ。頼んだぞ?」


エンバートはそういうと、食器をまとめて部屋を出て行った。シィナさんは暫く無言を貫いていたが、やがてこちらを向いてこういった。


「…で、何を知りたいんだっけ?」


…そう、俺はこの世界の殆どを知らない。出てきた村の中のことしか知らないってていで色々と教えて貰うことにしたんだ。ただ、エンバートは頭脳労働には向かないってことで、シィナさんが先生となるのは必然だった。亡くなったガイルさんの方が物知りだったらしいけどね…。



「…ってことなの。どう、わかった?」


「あ、はい…」


取り敢えず、冒険者ギルドの出張所にある図書室で必要最低限の知識を2~3時間掛けて詰め込まされた。どう考えても小学校レベルの読み書き計算ができれば問題なさそうな知識なんだけど。ちなみに見てる文字数字はどう見ても日本語じゃなく、喋る言葉も聞こえる言葉と口の動きは合ってるようには見えない。恐らくだけど異世界転移でのお約束の自動翻訳が効いてるんじゃないかと…。後、自分が話してる言葉も書く文字も相手に理解できる言葉・文字に自動変換されているようだ。ちなみに、最初は初めて見た文字が読めなかったんだが、


(…読めないな…って、あれ…日本語…になった?…いや、まてよ)


となり、変に思ってステータスボードを呼び出してスキルの一覧を確認すると…


【技術】

固有:錬金術Lv1 武器精錬Lv1 道具精錬Lv1 薬精錬Lv1 鑑定Lv1 全言語読み書きLv1(NEW!)


矢張やはりか…)


全言語読み書きスキルが生えていた。そこは最初から標準装備してるもんじゃないのかっ!?…と、全力で突っ込みたかったが控えておいた。尚、異世界語の同時通訳はスキル一覧には無いが機能している。どう違うのかはさっぱりだけど…話しが通じないよりは通じた方がいいのでスルーすることにした。


(スルースキルばかりレベルアップしてる気がする…)


後は…冒険者登録するだけだ。後少しでお昼になる為、登録するのは宿に戻ってお昼を取ってから出直すことになる。流石にお昼前に登録申請を出すというのは出張所の人にも迷惑になるらしいので…


(うん。迷惑だから相手のことも考えて、午後1で行くことにしよう)


尚、冒険者登録するには筆記試験などはなく、登録申請書に名前、年齢、出身地、あれば職業などを書くだけでいいらしい。残すのは…


「実技かぁ…」


「そうね。後は体術や剣術、使えるなら魔術かな?」


「それと、体力測定もあるんですよね?」


「そうね…。ま、成人になる頃の男の子なら問題ないと思うけどね?」


(それ、この世界の子供って前提ですよね?…都会のもやしっ子だと、無理がありそうなんですが…)


一応訊いてみた所、俺くらいの子供の平均は20kmくらいは余裕で走破し、重さ30kg程度の荷運びも難なくこなすらしい。体力がない子供でも、その半分は何とかこなすとか…。尚、荷運びは村の端から端まで、大体5kmを運ぶんだとか…うへ。俺からすれば、物凄くハードなお使いなんだが…。


「…大丈夫?顔色が悪いけど」


「あ、いえ…俺、村でも特に体力無かったんで、その…」


「あぁ、だからあんな荷車を持ってたのね」


別に荷車を引っ張って来たんじゃないけどね…。まぁそう思って貰ってた方が楽っちゃ楽か。


「えっと、まぁ、そんな感じです…はは」


ドーピングでもすれば、多少はマシになるんだろうけどな…などと思っていたら、いきなり目の前に淡く光る窓みたいなもの…VRMMOなどでよくあるステータスボードみたいなモノが現れた。


(え?あ?…いきなり何!?)


俺が慌てていると、「どうしたの?」とシィナさんが顔を覗き込んでくる。近い近い近い!…と思っているとステータスボードを突き抜けてシィナさんの手が俺の額に触れてきた。


(え?…触ってもなんともないのか…つか、見えてない?)


シィナさんは自分の額にも手の平を当てて「別に熱は無いわよね?」と非常に平常心を保っている。こちらはいきなり触れられて心臓がバックンバックンしてるっつーに…美形のエルフの女性がパーソナルスペースに突っ込んでくるとか、DT童貞の俺は平常心で居られる筈もな…って、いきなりDTカミングアウトしてどーする!(大丈夫、大抵の高校生はDTだから…多分?)


(はぁ、ふぅ…平常心平常心…はぁぁぁ~~~…よし!)


取り敢えず手は引っ込められたので、ステータスボードを見てみる。


(つーか、ステータスオープン!とかいった覚えもないのに…)



性能諸元ステータス表

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名前:ショウ(男)

職業:元高校生

Lv: 2

SP: 5

HP: 9/ 9+

MP:13/13+

頑強: 9+ 筋力: 7+

精神:13+ 知識:15+

器用:10+ 運 :21+

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【技術】

固有:錬金術Lv1 武器精錬Lv1 道具精錬Lv1 薬精錬Lv1

汎用:なし

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【装備】

出刃包丁 出刃包丁の鞘 ジャージ上下 運動靴 荷車

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まだLv2…いや、ゴブリンを1体倒しただけで上ったのか?…いや、そもそもこんなゲームライクな世界なのか?ここって…。


(というか、幾つかの項目に+マークが出てるな…。これってタップすると数値が上がるってことか?…さっき、「ドーピングでもすれば…」って思った途端にこれが出た。ということは…)


Lvの下にSPとあり、そこには5という数字がある。恐らく、ステータスに割り振る数字ってことだろう。俺は頑強と筋力に3と2を割り振ってみた。5ポイントを割り振り終えると、


〈決定しますか? Y/N〉


と、空いてるスペースに小窓が表示される。Nをタップすれば解除されて割り振る前に戻るのだろう。


(とりあえず、Yesっと…)


Yに指を触れると、増加された数値で固定される。途端、体力が漲ってきて体が軽くなった気がした。


「ん?…ひょっとしてレベルアップした?」


シィナさんが聞き捨てならないことを聞いてきた。


「え?…えっとレベルアップですか?」


「うん。今、ステータスボードを操作してたんでしょ?」


どうやら、この世界ではVRMMOみたいなステータスボードが一般装備のようです…。ゲームかっ!?…って叫ばなかったことを褒めて貰いたい心境でした。


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戦闘直後など、敵襲を警戒してる所ではステータスボードの操作は危険なので、安全な場所で操作するようにしましょう!


・全言語読み書きを取得!…異世界転移ものなら標準搭載されているスキルですね!(例外はあり)

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