03 異世界(偽)

世界転生した世界で独り、ショウは蘇生する…当人は異世界転移したと思っているが。座標的には元の世界の彼の住んでいた自宅が在った場所だが、再構築された世界は異世界の草原の真っただ中だった。ショウは現状把握していた所に戦闘音を聞いて歩き出す。巻き込まれるとも知らずに…

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- バックアタック -


ショウは絶体絶命の危機に晒されていた。目の前には豚面の巨人(推定2m前後)が斧を肩に担いでニヤついていて今にも振り下ろして真っ二つにされそうだ。


(やべぇ!…何とか逃げないと…)


だが、腰が抜けたのかその場から動けないでいた。辛うじて地面を濡らすまでいってないが現状を何とかできる訳でもない。


ギィンッ!


その時、甲高い金属音が響き、遅れてブンブンとこちらへと向かってくるような音が聞こえてくる。


〈ブギィ!?〉


豚面から豚っぽい驚きの声が聞こえたと思ったら、


ざしゅっ!


〈プギィ~~ッ!!〉


斧が目の前の豚面の首を斬り飛ばし、斬られた豚面は断末魔を上げながらどぅと倒れ込んだ。重そうな斧に圧されたせいか、幸いにも仰向けに倒れてくれたんだが…


ブシャァ~~~ッ!!


豚面…いや、恐らくオークだろうこの怪物の首から大量の血が噴き出ている。豚頭は後ろへと転がっていて自らの血を受けて真っ赤に染まっていった。まだピクピクと鼻をひくつかせていたが、その内に動かなくなった。恐らく少しの間生きていたんだろう。


「…こ、怖かった。漏らすかと思った…」


目の前の脅威から脱したことに気が抜け、うっかり小声ではあるが声を漏らすショウ。


「むっ…誰か居るのか!?」


離れた戦場から声が飛んでくる。ショウは返事をするべきどうか判断に困るが、


(足手まといが1人増えてもあっちだって困るだろうしな…逃げるか)


そんな言い訳を聞かれれば腰抜けといわれるだろう。だが、ただでさえ不利な状況で足手まといが増えれば彼らの生還の可能性は下がるかも知れない。座り込んでしまっているせいで見えない故に状況がわからないのだ。


(そうと決まったら退散たいさ…)


ぱきん…


ゆっくりと立ち上がり、後退ろうとしてお約束の…足元の小枝を折って気付かれるフラグをおっ立ててしまうショウ。付近をうろ付いていたのか、新たな増援を呼び寄せてしまったようだ…小柄な影が現れた!


(な…何てお約束なっ…!?)


三度の絶体絶命に頭を抱えるショウだった…



- 地球近傍・某所3 -


「これは…」


「異世界?」


2柱の元地球管理神が目の前の様子を見て呟く。茫然自失からは復帰したようだが、監視鏡から得られる映像を見て思考停止に陥りそうになっていた。


「…どう見ても地球…ではないな? 一体此処は…」


「う~ん…。別の地球…並行世界のですが…それ程次元が離れてないものに似ていますね…」


「そうなのか?」


「えぇ…こちらに着任する前に、近い次元の地球を参考に見て回ったことがありますので」


「ふむ…」


管理神は女神の言葉に考え込んだ。そして、ある可能性に気付く。


「ひょっとしたらじゃが…」


「はい?」


「あ、いや、推測じゃがな?…この地球の現状じゃが…もしかすると…」


並行世界の地球の1つを複写して再現された世界ではないか?…と、男性管理神は推測を述べる。だが、何故そうなったのか説明は付かないのだが…


「…まぁ、現状を鑑みるにそれが一番しっくりきますが…でも、突飛過ぎませんか?」


「そうじゃよなぁ…」


2柱の神は、困り顔を浮かべながら監視鏡を見ながらどうしたものかと思案にふけるのだった。



- 冒険者サイド -


「シィナ!もう手遅れだ、撤退するぞ!?」


真っ二つに絶たれたガイルの死体に駆け寄るエルフ…シィナに思わず叫ぶ。ガイルを惨殺したオークはニヤリと笑うと、シィナも襲おうと歩み寄る。あいつらは男は餌として問答無用で殺すが、女は仲間を増やす苗床として捕縛する。周りを囲みつつあるゴブリンどもも同様に他種族の女を犯す。コボルドは知らんがな…。


(ちっ、このままじゃジリ貧だ。さっさと撤退せんと…)


ガイルは残念なことをしたが、死んでしまってはどうにもならない。あそこまで雑にぶった切られてしまっては、蘇生の奇跡を受けたとしても即死んでしまうだろう。かといって傷を治す回復魔法は生きていてこそ効き目があるが、死んでしまっては意味がない。死体に手術を施しても傷が治らないのと同じことだ。縫合すれば見た目は繋がるがな。


「シィナ、頼むから撤退…」


「嫌ぁ~っ!?」


「くっ!」


オークは俺をうるさいと思ったのか、シィナの捕縛より俺を殺すことに決めたようだ。シィナの横を通り過ぎ、斧を振り上げた。


ぶおっ!


斧が風切り音を上げて振り下ろされる!


ガィンンンンっ!!


俺は手にした長槍ロングスピアを思い切り振り抜いて振り下ろされた斧を弾き飛ばした。そして、弾き返すと共に体を回して胴薙ぎに振り抜く。


〈プギィ~~ッ!〉


驚愕の表情を浮かべた豚面をそのままに、オークの体は斜めに斬った腹を滑って上半身と下半身が泣き別れになった。


ずずぅ~ん…


ぶんぶんと回転しながら弾いた斧が落ちた方からもオークの断末魔が聞こえて来た。どうやら目前の個体以外にも居たらしい。いよいよ撤退しないと退路を断たれ兼ねない…


(仕方ない。無理矢理にでも引き摺って行くしかないか…?)


余り手荒な真似はしたくないが背に腹は代えられん。その時、断末魔が聞こえてきた方から人間の声が聞こえてきた。小声なのだろう、余りはっきりとは聞こえなかったが獣人たる耳には届いてきた。


「むっ…誰か居るのか!?」


囲もうとしていたゴブリンどもは敵わないと判断したのか慌てて去っていった。コボルドどもも少し悩んだ末に逃走を選んでおり、見える限りには敵は存在しない。2体の主力オークが倒されたことに脅威を覚えたのだろう。やや静かになった…シィナが泣き叫んでいる為に静かとは言い難いが…戦場で声が聞こえた方に向かって叫ぶが、返事はない。


(…気のせいか? いや、確かにあれは人の声だった…)


俺はガイルの死体に泣きつくシィナの腹を気絶する程度の力を込めて殴り、ぐったりしたその体を担ぎ上げて歩き出す。無論、捨て置かれたシィナの弓矢も忘れない。ガイルの死体は持ち帰るのは無理なので剣と鞘、本人と確認がとれる小物を取り出して持ち帰ることにした。ガイルには悪いが、金目の物も抜き取った。可能性は低いが、後で人手を派遣して死体を持ち帰る費用に充てる為だ。


ぱきん!


木の枝が折れる音が響く。矢張やはり、誰か居るようだ。人間であれば友好的な人物であることが期待できる。勿論、悪人も多いだろうが怪物モンスターよりはマシだろう。手助けをして貰えるならば、シィナか荷物を運ぶ助けになる可能性もない訳ではない。


(む?…この気配…臭いは…)


どうやら早い増援が到着したようだ。この俺、エンバートの手に負える相手であればいいのだが…。シィナはこの状況では戦力にならない。起きていてもガイルが殺されて混乱している現状では…無理だろう。


(向こうにいる人物が戦力になれば、いいのだがな…)


俺は背の高い草に遮られて悪い視界の中、名も知らぬ人物の元へと駆けだすのだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

ガイル…人族男性(死亡)、シィナ…エルフ族女性(気絶)、エンバート…獣人族(生存)、ショウ…ホモサピエンス♂(生存…って、何故そこで表現が変わるw)

※ここでエンバートの性別や種族名を書いてましたがやっぱり不詳としておきます

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