02 世界転生

巨大隕石が地球に衝突し、一度は地球は消え去った。だが…地球は再生した。内包する文明は全て別のものに替わってしまう。唯1人、主人公のショウを除いて…

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- 目覚め -


「ん…」


俺は地面の上で目を覚ました。確か、さっきまでは自宅の部屋に居た筈だが…?


「ここは…?」


ゆっくりと立ち上がり、周囲を見ようと首を巡らす。が…、そこには自宅どころか住宅地の筈なのに住宅のじの字もなく、草原が広がるばかりだった。


「え…どうなってんだ?」


風が優しく吹き抜けていき、空気が…匂いすら違うことに気付く。


「…意味がわかんねぇ…まるで田舎の空気っつーか…」


簡単にいえば空気が美味しいのである。雑味や排気ガスの臭いが無い、都会ではあり得ない程の新鮮で澄み切った空気…


(ん?…何か聞こえるな…何だろう?)


風の吹く音や木々の枝の葉の音しか聞こえないような環境の中、遠くから金属の鳴らす甲高い音が響いてくる。少年の住んでいた世界であれば、工事現場か事故の瞬間でしか聞く機会が無いであろう、金属同士が叩かれた時に聞ける音だ。戦場であれば、常に聞くような音かも知れないが…


(うーむ…状況を鑑みるに、ひょっとして異世界転移した、とかか?…異世界転生は無いな。俺は俺のままだし…とすると、あれって戦闘音だよなぁ…余りお近付きにはなりたくないけど…)


ショウは自身の恰好を見ながらそう判断し、そして先程から耳に届いている金属音が響いて来る方を見ながらここが何処なのか確認した方がいいかもと考えたが…


(取り敢えず、隠れながら様子を見てからの方がいいかな…。運動音痴って程じゃないけど、喧嘩だってまともにやったことのない男子高校生には戦闘とか無謀過ぎるし…)


と考えつつ音の聞こえて来る方へと歩く。お気付きだろうか?…彼は意識を失う前は高校生ではなかったという事実に…。それはさておき、隠密行動が取れる筈もない高校生が慎重に歩いて気付かれない筈がない…が、余程激しい戦闘を繰り広げているせいだろうか、幸か不幸か気付かれずに目視できる距離まで接近できてしまった。


(…あれか。って、えぇっ!?)


目前に広がる光景に思わず声を上げ掛けるが何とか息を飲むだけに留めることに成功するショウ。彼の目前に繰り広げられている光景は現代日本では有り得なかった。寧ろ、ファンタジー世界で繰り広げられるべき光景だろう。


(人間側?…は、人と…あれは獣人か?…それと耳が長い…エルフ?)


まさかの人外な2種族が2名、人族と思われる人物と共闘していたのだった。


(敵側?…は、あれって…どう見てもゴブリンとかコボルドとかオーク、だよな?…鉄板過ぎてうけるんだけど…)


まるでラノベで描かれる中世ヨーロッパ風味の異世界冒険譚そのままだった。ファンタジー系のライトノベルは好きで色々と読んでいるショウだったが、まさか現実リアルで目の当たりにするとは思わなく、だが耳に入る剣戟の音は、矢の刺さる音は現実であり、そして敵側が叫ぶ怪物モンスターたちのダミ声は、人間側の叫ぶ声は…耳に入って来るそれらは現実リアルだったのだ…。


(…見つかる前にここから退散した方がいいよな。うっかり巻き込まれたら死に確定だし…)


その場を離れようと後退し始めたその時、人族の男の手から剣がかち上げられ、構えていた盾が弾かれて無防備になってしまう。そして、返す刀で(敵であるオークの持つ獲物は斧だったが)袈裟切りに切り伏せられてしまう…というよりは、斜めに分断…そのまま斬り倒されてしまった。


「きゃあああっ!ガイル!?」


女性の金切り声が響き渡る。どうやらエルフは女性のようだ。この世界のエルフは由緒正しく胸が薄いらしく、ショウは声を聴くまでどちらかわからなかった。


「くっ!」


獣人が前に出て長柄武器…見た目からして長槍ロングスピアだろうとしかわからないが…オークの振るった斧を受け止める。


ガィンンンンっ!!


エルフの女性は構えていた弓を放り出して切り伏せられた人族の男性の元へ走り出す。


「シィナ!もう手遅れだ、撤退するぞ!?」


オークの振るう斧を防ぎながら数体のゴブリンとコボルドを牽制する獣人族。明らかに多勢に無勢だ。早い所撤退しなければ退路を断たれて捕まるか殺されてしまうだろう。だが、エルフの女性は…シィナは地面に倒れ、死者の世界へと旅立ってしまった男性の骸にしがみついて泣き叫んでいる。恐らくは恋人同士だったか、そうでなくても親密な仲だったのだろう…


(…悲しいのはわかるが、さっさと撤退すりゃいいのにな…)


ショウは他人との繋がりが希薄な生き方をしていた為か、そんなことを思いつつも後退っていた。だが、こちらもこちらで立ち去るには少々遅かった…


どんっ


(え?あれ?…壁なんかあったか?)


恐る恐る後ろを振り返ると…そこには豚面をした怪物モンスター、オークが斧を肩に担いで豚面の口の端をニヤァ…と、ご丁寧にも歪ませて笑っていた。ショウはサァ~っと血の気が引き、逃げようとするが腰が抜けたのかぺたんと地面にへたり込む。


(ちょっ!?…何この絶対絶命な状況!!)


様子を見に来たはいいが丸腰の上に身長2mオーバーのオークに見下ろされているショウ。2回目の死亡を体験してしまうのか?…前回は運良く蘇生できたが、今回も生き返ることができるのか!?


(くっ…逃げ、逃げないとっ!?)


だが、彼の腰からは力が抜けたままで、幾ら立ち上がろうとしても動くことはなかったのだった…


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絶体絶命の危機…捕まったら最期、斧でぶち殺されて食料コースでしょう(男だから)

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