今年最後のねじ巻き祭り
カレンダーをめくると、12月36日に赤で丸がつけられている。
その下に小さく、ねじ巻きまつり!!と
『ねじ巻き祭り』
一年に数回行われる祭りで、開催日はその年々によってまばら。
今年は珍しく、年の終わりにねじ巻き祭りが行われることになる。
「もーいーくつねーるーと、ねーじまーき」
子どもたちが歌う声が住宅街に響く。
母親たちは微笑ましくそれを見守る。
ただ、僕らにはそれがとても不快なものに感じられた。
ねじ巻き祭りが近づく。
まるで死のカウントダウンがチクタクとなっているようだ。
僕は基地へと辿り着いた。
数日前からネット上に拡散された、"反ねじ巻き勢力"の中心基地だ。
この場所を知るには、多くの情報網を掻い潜った精鋭である必要がある。
僕はたまたま運良くこの場所を知れただけで、僕以外の構成員は誰もかもが特A級の化け物揃いだ。
僕に与えられた
なんでも、過去に実在したある男の名前から来ているんだとか。
僕が会議室に入ると、そこには殆どの構成員が揃っていた。
皆、速すぎるか遅すぎるかの両極端で、指示された時間通りに来る僕のような奴は少ない。
「時間か…」
リーダーの斜め坊主さんが話を切り出す。
今回の招集は、来たるねじ巻き祭りの対策だ。
……恐らく、これが最後の作戦になるだろう。
当日の作戦の細かい詳細に、それぞれの意気込みなど多数の意見が飛び交う。
「さて、これくらいでいいかな」
話は終わる。
僕達はそれぞれの帰路につき、決行日までを過ごす。
ねじ巻き祭り当日に顔を合わせない者は、この別れが最後の別れになる。
「斜め坊主さん、今までありがとうございました」
「いいっていいって、それに、俺のことは佐藤って呼べって言っただろ?」
「す、すいません…まだ慣れなくて…」
いくつかの会話を交わす。
彼との他愛ない世間話も、これで最後になる。
「ありがとうございました」
そう言って、彼との別れを済ませる。
今までの感謝を込めて、深々とお辞儀をする。
「鋼達磨さん」
もう一人、感謝を伝えておきたい人物がいた。
それがこの男、鋼達磨である。
「おぉ、ヨンイチじゃねぇか!久しぶりだな!」
「はい、ご無沙汰してます。鋼達磨さんも元気そうで」
彼はこの場所で最初に僕に話しかけてくれた男だ。
不安を孕んでいた僕の緊張を解きほぐしてくれた。
話に花を咲かせ、かなり長い時間話してしまった。
僕は歩き出す。
恐らく僕がこの基地を最後に出る者だろう。
血まみれの鋼達磨を背に、僕を歩き出す。
12月36日
ねじ巻き祭り当日。
僕は所定の位置につく。
狙撃銃のスコープを除く、絶好の位置だ。
数分後、"彼が"ポイントに現れる。
僕の仕事はただ引き金を引くだけ、当てようが当てまいがどちらでも良いのだ。
とても長い数分だった。
世界崩壊までの短い数分だった。
スコープに佐藤が映る。
僕は躊躇うことなく引き金を引いた。
『ある男の日記』
11月25日
部長から指示を与えられた。
内容は"反ねじ巻き勢力"への潜入。
とても重要な司令らしいが、あまり実感がわかない。
11月48日
とうとう奴らの本拠地に潜入できた。
N.401だなんて巫山戯た名前をもらったがまぁいい。
当分は観察が目的らしい。
12月9日
リーダーの男に作戦を伝えられた。
ねじ巻き祭り当日に騒ぎを起こし、どさくさに紛れて国王を暗殺するつもりらしい。
部長にこのことを伝えたら、
「逆にリーダーの男を殺してしまえ」と言われた。
それが指示なら、それに従うまでだ。
12月29日
トラブルが起きた。
鋼達磨に僕の手帳が見られてしまった。
スパイであることがバレてしまったので、仕方なく口封じをした。
幸いにあの場所にはもう誰も行かないし、世を離れた男が一人居なくなったところで、誰も気にしない。
12月36日
ねじ巻き祭り本番だった。
国王は豪華絢爛なパレードを開き、国民皆歓喜に満ちている。
リーダーの男は狙撃によって死んだ。
それ以前に奴らの作戦は穴だらけで、万に一つも成功の可能性はなかったが、不穏を消すため仕方ない。
引き金を引いた感覚はまだ手に残っている。
弾は出なかったが、未だに腕が痺れている。
明日は早い早く寝よう。
『ある男のボイスレコーダー』
「失敗した…
全て奴らの作戦のうちだったのだ。
この国はもう終わる。
"消滅措置"が取られたことで、世界の滅亡とはならなかったみたいだが……
どのみちこんな国、なくなっても誰も悲しまないか。」
「もう、幾つ寝ると、ねじ巻き」
ダレカが謳うこエガキこえる。
ヒトびとはそれを微エマしく見守ル。
僕らにはそれがとても不快なものに感じられた。
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