第15話 阿久間と申します。④
「なぁ、紹介してくれよ」
またか。
今日何度目になるだろうか、せっかくの休み時間だというのに、どいつもこいつも勘弁してくれよ。
次の授業まで、自分の席で寝たふりの一つでも出来れば楽なんだけど、やんごとなき理由からそういうわけにもいかず、こうやってウロウロと教室内を徘徊中。
今までなら、僕なんかがひとり、片隅で何をしてようが誰も彼もがなんとも思わなかっただろうに、――今日ばかりはやはり勝手が違うわけで。
「なぁ、いいだろ。なあって」
僕の周りには、たくさんの男子生徒が詰めかけていた。
あれは、ほんの数時間前。
突如として転校してきた少女があまりにも美しすぎて、あの瞬間からずっと、教室はちょっとしたお祭り騒ぎが継続中。
しかも、あそこまでおおっぴらに僕みたいなモブと仲良くするもんだから、『なんでアイツと』『そういえば、アイツの名前なんだっけ』なんて、いちやくこちらも有名人の仲間入りと相成ったわけだ。
その結果、まぁお察しのとおりである。
やれ、すぐに紹介しろだのあの子とオマエはいったいどんな関係なのかだの、今まで話したことのない生徒まで僕のもとに押し寄せて、今や、すったもんだの押しくらまんじゅう状態。
これが女子に囲まれたとあっては男子高校生としては名誉なことだろうし、僕としてもまんざらでもないのだけど、いかんせんこの状況は拷問に近い。
僕のクラスは男女比がほぼ半々。
その半数の男連中が、ほとんど入れ替わり立ち替わりでやってくるもんだから、目の前を覆い尽くす男の壁に、いよいよ男臭くてどうにかなってしまいそうだ。
「頼む。俺、本気なんだ」
これで、各々が面白い世間話の一つでもしてくれれば別だけど、代わる代わる、口を開けば同じ台詞ばかり。
もちろん、彼らは僕と話がしたくてやってきたわけではないのだから仕方ないけれど、それでも、延々と同じ台詞を聞かされるほうの身にもなってみろ。耳にタコだ。
「このとおりだ! きっと彼女は運命の人なんだ!」
まぁ、あれだけの美人だ。
どうにかして彼女とお近づきに、ないしは仲良くなりたいと、そしてゆくゆくは次のステージへと、そんな彼らの気持ちもわからんではないからさ、邪険に扱うのも憚られるのだけど、でもだとしても、当然、僕の口から出るのはたったの一言。
「ただの知り合いだから」
――力にはなれないよ。
だって、そうさ。なんせ彼女は天使で悪魔で借金取り。
どう受け取られようと、たとえ勘違いされようと、僕ら二人の関係性を詳しく説明するつもりはないし、なんといってもまず僕は、例の『洋紙』でもって脅されている。
もし、迂闊に彼女を紹介なんざしてみろ。少しでも彼女の機嫌を損なえば、また自分自身どんな目に遭わされるかわかったものではない。
そりゃ、言えるもんなら全部言ってるさ。上記のしがらみややっかいな制約がなければ一切合切洗いざらいにキレイさっぱりと。
あの子がいかに残念な子で、メチャクチャで、しかも挙げ句の果てには悪魔なんだぞって。
だからやめとけって、ろくな事にはならないから。きっと周りを不幸にするだけだからって。
僕はそんな呪いのアイテムみたいな子を、平然と他者に紹介するほどひねくれてはいない。それに、――なんてったって、彼女は悪魔なんだ。
……そう。何度も言うけど、悪魔なんだぜ?
覚悟を決めて僕が必死に白状したとして、どうせ誰も信じてくれないことは目に見えている。
非現実すぎて『なんだそりゃ』って、誰もがなるだろう?
今朝の母との一件でもそうだったんだ。
なにが、悪魔だ。
彼女と僕がどういう繋がりかなんて、そんなこと真面目に言おうもんなら、間違いなく僕は頭のおかしいヤバいヤツだと思われる。
僕自身、他人からそんな話を面と向かって聞かされてみろ。
『あぁ、この人、だいぶ仕上がってんな。見事なまでに空想と現実が入り交じってらっしゃるし、なんだか妙なことに巻き込まれそうだ。距離を置くのが無難だな』
なんて、そう考えるだろう。
さらには高校に入学してまだ一ヶ月なんだ。ただでさえ冴えない日陰者なのに、これから先の長い学校生活を考えれば、必要以上のレッテルは貼られたくない。
「――やっぱりあの子と付き合ってんのか?」
「それだけはない」
――神に誓ってもいい。
いったい何の神に誓うのか。
我ながらはなはだ疑問ではあるけれど、彼女と恋仲なのか、それに関しては即答できるしウソなどつこうもんか。ありえない。
言えない事は多々あるけれど、これだけは言える。だから、安心して欲しい。
不意打ち気味の質問だったからさ、少し喰い気味な返答になっちゃったけど、僕からの明確な否定が聞けたからだろう。周りを囲む男子達が皆一斉に安堵の溜息を漏らした。
だけど、……おい、僕の言葉の後に、『そりゃそうだろ』って鼻で笑ったヤツだれだ? 他にもつられるようにして僕の容姿に関する暴言吐いたヤツが何人もいたな? おい。ふざけんな、顔見せろ。
「じゃぁ、いいじゃんか。紹介してくれよ」
誰かの一言を皮切りに、どいつもこいつもそうだそうだと相づちを打ってくる。
……今日何度目だろうか。深い溜息が出た。
だから、それが出来ないんだと、力になれないと、さっきから繰り返し言っているだろうに。
というか、……こいつら結局あの子の外見に踊らされているだけなのだ。
確かに、悪魔さんは外側だけなら満点だ。それこそ僕の好みのど真ん中。なんならこの人しかいないとすら言いきれる。
でも、それだけだ。
オマエも彼女を狙ってるから、だから皆に紹介しないのか。中にはそう言ってくるヤツもいるけれど、……あのな。
僕は彼女と特別な関係になろうという腹づもりはない。絶対にない。
僕は知りすぎたんだ。悪魔だの借金取りだのはひとまず忘れるとしても、ハーレムだの性欲だの、さらには下着の色がどうのこうのと言うようなとんでもないヤツなんだぜ。
トドメは、ことあるごとに例の『借用書』を使って僕に言うこと聞かせようとしてくるのだから、たまらない。
いいか。女の子は見た目ではない。とても高い授業料だったけど、朝のドタバタで僕は心底学んだんだ。
それにさ、皆からは僕みたいなのが何を偉そうにと笑われそうだけど、僕としてはもっとこう清楚で礼儀正しい、上品な子がタイプなのだ。
せっかく外見で稼いだ大きな加点を、悪魔さんはそのクソみたいな内面でゴッソリ削りきったのだから、この評価は当然。
彼女のほうもそうだ。
わざわざ尋ねなくてもわかる。悪魔さん側にも、僕とどうにかなろうだなんて、そういう甘酸っぱい考えなんてあるはずがない。
ただ取り立て先にいたのが僕というだけで、その際、打算的な考え、かつ楽しそうだという理由から手助けをしてくれることになったけど、……理由としては、ただのそれだけ。
そう。朝の一件から今までを見てもわかる。
僕にとって彼女は『敵』だけど、彼女にとっての僕は、きっと『玩具』なのだ。
――だから、僕はそれ以上のことをクラスメイトの誰に聞かれても、言うわけがない。
ほら、見てみろ。今だってそうだ。
ふと視線を感じた先には彼女がいて、むしろ、定期的に目が合うんだ。
そのたびに、性懲りもなく僕の胸は高鳴るんだけど、ええぃ、騙されないぞ。そこに色恋の情などあるわけがないのだから。
にんまりとしたあの柔らかな笑みはきっと『余計なことを言ってはダメですよ』その手の意味合いか。
いつでも見てるからな、余計なことをするんじゃないぞ。油断するなよと、僕を監視しているような、いや、きっと彼女の目の届かないところなどないのだろう。……あぁイヤだイヤだ。恐ろしい。
――それは、昼休みになっても変わることなく同じで。
休み時間がはじまる度に、ちょっとイス借りるぜ。なんて、クラスのイケメンから席を盗られ、自分のクラスながら陰キャの僕には居場所がない。
なぜかって、どいつもこいつもお目当ては僕の席のその隣。例の悪魔さんさ。
ついでに、休み時間ごとに僕がウロウロと徘徊している理由はコレなのだから、我ながら情けない。
そりゃまぁ、イヤだと断れば済む話だろうけどさ、それが出来れば苦労はしないし陰キャと認識されもしない。
むしろ、そんな自分の意見を堂々と言えるヤツは真の陰キャではない。マイルドかつファッションな、なんちゃって陰キャだと断言できる。
でも、そんな情けない理由で、お弁当を片手に教室の隅をうろつく僕のところまで、たくさんの男子達が、彼女との仲を取り持ってくれと、代わる代わるである。相も変わらず彼らは懲りずにやってくるのだ。
もう勘弁してくれよ。
僕も善人ではないからね、ちょうど昼時でお腹が空いているということも手伝ってか、まったく腹が立たないわけではない。
きっと、藁にも縋る思いで、中には並々ならぬ勇気を振り絞ったヤツもいるだろう。
でも、それでも僕と彼女はただの知り合いだ。このスタンスは崩さない。
ただの知り合いなんだ、それだけだ。それ以上でも以下でもないし、だから手助けなんて出来ないよ。
そこをなんとか頼むよと泣きついてくるヤツもいれば、舌打ちをお見舞いしてくるヤツ、なかには悪態をつくヤツもいた。
いよいよ、お前ら男ならまっすぐ彼女の方に行けよと鬱陶しくも思ったが、……とはいえ行かない理由もわからんではない。
なんせ、向こうは向こうで違う意味での人だかり。
中でも、そのルックスの良さから今やクラスの中心となっている男子があの手この手で奮闘中。
『へぇ、お弁当の包みも可愛いね』
『ありがとうございます』
『でさ、阿久間さんは、今日ヒマだったりする?』
『いえ。越してきたばかりなので、今日は色々と』
『じゃぁさ、今度の休みは空けといてよ。俺が良いトコ案内するからさ』
『すみません。しばらくの間、休みは予定が詰まっていまして』
等々。
いわゆるスクールカースト上位の人間が、悪魔さんを取り囲むよう、男女問わず勢揃い。
確かに、あんな陽キャ集団の中に混ざろうなんて、僕なら心臓にニトロでもぶち込まないと無理な芸当だろう。
『え~、それならどこ住んでんの? 近くに行ったとき遊びに寄れるじゃん』
『ふふ、内緒です』
今日一日で何度も熱心に話しかけるイケメンの顔と、お弁当の包みを手に、ニコニコと笑う悪魔さんの顔を交互に眺めながら、あぁ、聞いてるようで聞いていない。お前の頑張りは全部聞き流されているぞ、ご愁傷様と心の中で手を合わせる。
『ならさ、せめて連絡先だけでも教えてよ』
『ふふふ』
『ねぇ、それぐらいならイイっしょ。個人的にも連絡取りたいしさ、ねぇ』
……うざっ。
ふいに、彼女の心の声が聞こえたような気がした。
同時に、お弁当を持つ悪魔さんの手に少しずつ力がこもっているような気がしてならない。
あれだけの大食漢だ。朝っぱらから掃除機のようにごはんを平らげる様をまざまざと見せつけられた身としては、たぶんこのお昼時、彼女は相当に腹が減っているはずだ。
それをこんなしょうもない話で妨げられたとあっては、食べ物の恨みは恐ろしい。とは少し違うけど、食いしん坊の食事を邪魔すると、非常に手痛いしっぺ返しが飛んできそうだ。
だから、余計なお世話だろうけどさ、そろそろそのくらいにしておいたほうが良いと思うけどな僕は。
『じゃぁ俺の連絡先渡しとくから、ヒマなときにかけてよ。二人きりで話したいことあるからさ』
歯の浮くようなテンプレの口説き文句と、数多の女子が陥落してきただろう悩殺スマイルに、おい。だからその辺でやめておけ。……いよいよ悪魔さんの笑顔の奥が怖いものになっていた。
それと、もうひとつ。
……はじめに言っておくが、僕としては、このイケメン君に悪い印象は持っていない。
日頃から変に威張り散らすわけでも、それこそ僕みたいな陰キャをいじめて面白がったりなんてこともない。
むしろ、こういうヤツがリーダーシップを取ってくれると、その他大勢のひとりとしては、言われたことだけやってれば良いからさ、大いに楽が出来るのでありがたいとさえ思っている。
だから今日一日、僕の席を奪い続けている事には閉口するが、結局はこのイケメンも人の子だ。悪魔さんが放つ美貌にあてられたとしても何もおかしな話ではないし、惚れた腫れたにいちいち茶々入れるほど僕も無粋ではない。
無粋ではないのだけど。
ただ、一言だけ、不細工な僕が偉そうに言わせてもらえるならば、だ。
この行動は、悪魔さんを抜きにしても、もうちょっと考えるべきだったのではないかなと、今のこの、周りの雰囲気を鑑みるに思うわけだ。
聞き耳を立てているわけではないけれど、イヤでも聞こえてくる彼女たちの会話に胸がざわついて仕方ない。
嫌な予感と言い換えてもいい。
なんせ、これは一種のナンパだ。
教室内で堂々と口説こうとしているのだから、同じ男として恐れ入る。
まぁ、結果としては誰が見ても明白で、残念ながらこれっぽっちも相手にされていないのだけど、――それでもめげないイケメンの心は、きっと鋼で出来ているのだろう。
ただ、問題はまさにそこで。
何度も言うが、この男、イケメンである。それこそ同性の僕から見てもテレビや雑誌に出ていてもおかしくないほどには容姿が良い。
ということは、そういうことなわけで。
その異変に気がついたのはもちろん僕だけではない。
『うわっこえぇ、……取り巻きの女子達、笑い顔こえぇ』
『……なぁ、でもアイツ、彼女いるって噂なかったか?』
『おい、やめろ。その話すると女子達の機嫌悪くなるだろうが』
このイケメンに彼女がいるだのいないだの、しょせん噂だしどうでもいいのだけれど、コソコソと聞こえてくる声のとおり、確かに周りの女の子達が幾分顔を引きつらせているようで、
……教室の空気が、文字通り穏やかなモノではなくなりかけていた。
きっとあのイケメン自身、御多分に漏れず彼女に一目惚れでもしたのだろうけど、それにしても、いささか周りが見えてなさすぎる。
僕みたいな冴えないブサイクならいざしらず、ある程度の美形が惚れた腫れたをするならば、もっと慎重になるべきだ。
恋愛はもちろん個人の自由だけど、美形に限ってはそう言ってもいられない。
色恋沙汰なんて、落ちるのは一瞬だけど、同時に拗れるのも一瞬だ。
それに気がつかないからここまで強引に行けるのだろうけど、無自覚のモテ男は、創作の世界だけで充分。現実世界ではただの迷惑な火種でしかないのだ。
お前に向いたデカい矢印が、その意味を変えて、切れ味鋭く彼女に飛んでいくのは時間の問題だろう。
せっかく――今のところはだけど――彼女もクラスメイトからは良い心証をもたれているわけだし、なんだかんだと僕はこのクラスを意外と気に入ってもいる。
くだらない恋愛のいざこざのせいで、せっかくはじまったばかりの高校生活が面倒な事になるのはどうなのかなと、こんな狭い教室にいらぬ波風を立てるのは、精神衛生上良くないのではないかと、外野で眺めるだけの僕はそう思ってしまうわけで。
だから、僕が今からとる行動は正当性しかない。
決して、さっきから困ったようにチラチラと彼女が僕を探して目配せするからではなく。
別に、そろそろ自分の席が恋しくなったわけでもない。
間違っても、あのイケメンが彼女の手を強引に握ろうとしたから、なんて事は、全ての神に誓っても良い、あろうハズがない。
僕は、トイレだと嘯いて、むらがる男どもの波をかき分け、そして、
――ただ、彼女に向けて目で合図しただけだ。ちょっとおいでと軽く目配せし返しただけなんだ。
別に深い理由なんて無いさ。ただあのままではろくな事にならないと、そう思っただけなのだから。
いいか、他意は無いんだからな。
彼女が『ちょっと、失礼しますね』弁当袋を片手に突然立ち上がったのも、イケメンの手が空を切ったのも、全て偶然。
『どこ行くのさ?』
用事なら俺も一緒に、と言うイケメンに、
『彼が呼んでいますので』
その綺麗な瞳をきらめかせ、僕に向かって待ってましたと言わんばかりに微笑んだのも、特段、含んだ意味は無いはずだ。
僕は悪魔さんの合流を待たず足早に教室の入り口へと向かう。
なぜなら、彼女の行く先に視線は集まるのだから、その先に僕がいるわけにはいかないだろう。
悪目立ちするのは。心底ゴメンだ。
「……これが、ヤキモチですかねぇ?」
彼女は追いついてすぐ、僕の考えをすべて見越したとでも言いたいのかね、小声で馬鹿にしたように笑うのだからたまらない。
「言ってろ」
冗談だろ。なぜ僕が、悪魔さんに妬かねばならないのか。
「あれれ~、図星ですかぁ」
さぞ愉快そうに、そうだな、お気に入りの玩具で遊ぶ子供のような態度に、僕としてはこれ以上鬱陶しくなりそうなことは言いやしないさ。
「適当にメシ食って、時間潰して戻るから」
「お。学校デートのお誘いですか、意外とやりますね」
「あーもう。うるさい」
ああ言えばこう言う。しかも何が楽しいのか、教室内と打って変わってご機嫌なのだから意味がわからない。
今日、帰りに甘いもの食べて帰りましょうよ。とか、今度の終末は街を探索したいので、連れてってください、とか。
弁当を手に二人並んで歩く廊下。目的地もないままなのだけど、僕の肩に自分の肩をぶつけながらウキウキと勝手に予定を押しつけてくる始末。
僕としては、周囲の視線が痛いからどうか大人しくしていて欲しいのだけど、
――結局、自分自信、あーだこーだと理由づけても、あのイケメンと根っこの部分は変わらないわけか、忌々しい。
「楽しみにしてますんで」
そう笑う悪魔さんの顔に、……やはり僕は弱いみたいだ。
善処する。とは言わないけれど、そうだな。せめて、今日の晩にでもお年玉貯金の残高を確認するくらいはしておこう。
どうせ、僕がイヤだと突っぱねてもどうにもならないだろうから、そうだ。あの母のことだから、悪魔さんの名前を出せば、いくらかの軍資金を期待できるかもしれない。
そうでなくとも、こういうときは男が払うものだと聞いたことがあるし、あれだ、悪魔さんがどうのではなく、異性に格好つけたいと思うのは、男として別段おかしな事ではないだろう。
教室から、あんな抜け出し方をしたんだ。後々面倒なことになるかもなと、どこか頭の端で考えながらも、僕は誤魔化すように溜息をついて見せた。
「……今日の帰りは200円までだからな」
「ほう。太っ腹ですね」
彼女は、その黒髪を耳にかけながら、
「それなら私、こんびに? に行ってみたいです」
隣の僕へと、優しく顔をほころばせた。
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