第3話 『悪魔』で『天使』な『取り立て屋』②







 わざわざの御説明、ありがとうございます。


 ですが、どうにもこうにもなんともはや。


 きっと僕がバカだからいけないのだろうけど、内容を噛み砕こうにも理解が追いつかない。……頭の上に、たくさんのハテナマークを浮かべてしまう。

 なんせ、聞いたそのままに彼女の言葉を要約すると、なにやら僕は一世代前の自分から借金を背負わされているらしい。

 それでいて、その返済期日と相成ったので、彼女がこうやって催促に、いや、回収すべく足を運んだ。

 とまぁ、言わんとするところはわかる。わかるのだけど、……そう言われても。


「あ、あの」


「はい? 」


 どうされましたか? そう言った悪魔さんの星空を映したような瞳がキラリと瞬いて、くっそ、可愛いな。僕の胸は再度トキメキに震えてしまう。


「えっと、その……何が何やらで」


 どもりながらも負けじと問いかけては見たが、


「はい、負債を回収しに来ました」


「僕から?」


「はい。『僕』からです」


「どうして、ですか?」


「さぁ。どうしてでしょうね。経緯や理由は聞かされていません」


 思わず『はぁ、そうなんですね』と口が滑ってしまう。

 それほどまでにあっけらかんとした口調と、とびきりの笑顔だった。だけど、

 いやいや、ちょっと待ってくれよ。少しでいいから息継ぎぐらいさせてくれ。さすがに意味不明がすぎるってものだ。

 怒濤に押し寄せる情報量に、今にも溺れてしまいそう。


 そもそも、何故僕なのか。


 本当に人違いという線は残ってはいないのか。

 こんな僕で、どうしてファイナルアンサーなのか。

 まさに混乱の坩堝。混沌が蜷局を巻いている。


 だって、目が覚めるやいなや一発目からこの仕打ちだ。

 寝ぼけ眼が瞬時に開眼するほどのえげつない美人がそこにいて、それでいて、その美貌のまま、当たり屋顔負けの慣れた手際で身に覚えのない罪状を並べ立ててくるのだ。

 今しがた、初めて会ったヒトに『おい、兄ちゃん。前世で貸した金返せや』なんて言われれば、百人中百人が、何を言っているんだと困惑するだろう。

 この状況に、突然そんな話。当事者の僕は困るだけだし、なによりも、理解が出来ないことに、納得なんて出来るはずがない。

 とんでもない強引な筋書きに、ただただ狼狽えるばかりである。

 どこに、こんなストロングスタイルを『ハイ、わかりました』と、受け入れるヤツがいるだろうか。いるなら代わってくれ、あまりの美少女っぷりに後ろ髪を引かれはするが、ええい持ってけドロボー。今回ばかりは、のし付けて譲ってあげるから。


「あの、ですね」


 意を決した自分の声は、なぜだろう。震えていた。でも、人間、これ以上は引けない最後の一線というのがある。


 そもそも、スタートから間違えているのだ。


 神々しく光り輝いているからだとか、美少女だからとか。それで許されるというモノでもない。この人は、不当に部屋へと忍び込んだ不審者なのだ。

 借金がどうのという話をしたいのなら、まずはしっかりとアポを取り、そして堂々と玄関をくぐるべきだ。

 その時点でおととい来やがれと突っぱねるだろうけど、でも、たとえそうだったとしても、そこを真摯にこなしてからだと思う。

 それでもって、何故僕なのか。その経緯から、あらためて順を追って説明してもらいたい。

 なんて、いざ反論しようと身構えて、


「……あ痛たた」


 とうの彼女が小さく声を漏らすから。

 そういえばフローリングの上で正座しているのだ。ローブ越しではあるけれど、きっと華奢な御御足であろうことは彼女の線の細さからも見て取れる。となると、さぞや負担が大きいことだろう。


「っと、スンマセン」


 僕は枕代わりに使っている愛用のクッションを、彼女に手渡す。


「あ、どうも恐れ入ります」


 ちょっと薄いですね。なんて呟きつつも、クッションに座りなおし、彼女は笑みをこぼした。







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