第28話 バレた

「れ、レクリアの元第二王女? オホホホオ、何の事かしら?」


 突如ゼノンにその正体を看破されたリルリアは誰がどう見ても分かるくらい、あからさまに動揺していた。


 いや、もうその態度が正解ですと言ってるようなものじゃないか。


 どうやらリルリアは元王女様にも関わらず、腹芸は得意としていないらしい。


「簡単な推測だよ。最近他の国からダーリンと二人でロージにやって来た。君達三人の中では何故か一人だけ冒険者として登録していない。だが戦う力はかなりのものらしく、武器も持っておらず鍛えている訳でもない事から魔法使いであると推測されている。さらにダーリンと九位からはリルリアという名前で呼ばれている」


 ゼノンはそうして一つ一つリルリアを王女と推測した根拠を述べていく。


「十年以上前、レクリア王国の第二王女リルリア―ナは突如表舞台から姿を消した。それが何故かはボクも不思議に思っていたけど、これらの情報から導き出される答えは一つ。リルリアーナ王女殿下? 君、禁忌魔法かそれに近い忌避される魔法の適性でも発現したね?」


 流石は賢者と呼ばれるだけの事はある。

 僕達がロージに来てからまだそこまで日は経っていないというのに、僕達の事をそこまで調べ上げ、そして数少ない情報から真実に辿り着いて見せるとは。


 リルリアもそこまでバレているのでは仕方ないと、半ばやけくそ気味に自身の正体を明かす。


「もう、なんでそんな簡単に分かるのよ! そうよ! アタシこそがレクリア王国の元第二王女にして、黒の魔法使いでもあるリルリア―ナよ! そして黒の魔法適性がバレて家族にも見捨てられた哀れな女ですッ! どう、これで満足!?」

「なんで逆切れしてんのさリル……」


 シルハもリルリアの逆上っぷりに少し引いてる。

 リルリアの言葉を聞き、ゼノンはやはりそうかと頷きながら口を開く。


「黒の魔法か……。それは、なんともまぁ不運な事だ。国民からの支持を受けなければいけない王族がその魔法を持つなんて最悪の組み合わせと言える。戦時ならまだ戦果を挙げる事でどうとでも誤魔化せるが、今はそうじゃない。君のこれまでの苦労を察するよ」

「それは……どうも」


 礼は言っているが、今更それを理解してもらった所でどうにもならない。

 それよりもリルリアは、秘密を知ったゼノンがこの情報をどう扱うのかが気になっているだろう。


 レクリアに情報を売るか、それとも自身の所属するロージにそのまま報告するか。

 どう扱ってもゼノンは利益を得る事が可能だ。 


 そして不利益を被るのは当然、僕達。

 そんな僕達の不信感を肌で感じ取ったのか。

 ゼノンは笑いながら言葉を付け加える。


「そんな目でボクを見ないでよ。ボクはここに下宿しに来たことからも分かるように、君達と仲良くなりたいんだ。そしてあわよくば、ボクも君達の仲間に入れてもらいたいと思っている。決して情報を売ったりはしないと誓おうじゃないか」

「ホントかなー? 賢者として名高いアンタがあーし達と仲良くなっても得られる事なんて何も無いと思うけど」

「そんな事はないよ! 君達は不思議の塊だ。ボクは君達が近い未来、何かどでかい事を成し遂げると確信しているんだ。ボクはそれを是非近くで一緒に体験したい」


 どでかい事を成し遂げるか……。


 僕がこの先成し遂げる事と言ったらニートになる事くらいだが、本当にそんな瞬間を一緒に体験したいの?

 多分、達成感もそこまでなければ、見ていて面白いものでもないよ?


「勇者は必ず大事を成し遂げる。これは歴史が証明してきたことだ」

「「「!?」」」


 まさかゼノンの奴、僕が勇者として異世界から召喚されたことにも気付いているのか!?


「あ、その表情。本当にダーリンが勇者だったんだ! いやぁ、これはますますダーリンから目が離せないなぁ」


 と思ったらまさかのカマかけだった!

 ちくしょう、思いっきり皆でえ?何で知ってるの?みたいな顔をしてしまった。


「き、汚いわよゼノン!」

「ふふ、やはりまだまだ青いねぇ。この調子では君達の秘密もいつまで隠し通せるか分かったもんじゃない。君達にはボクみたいな大人の助けが必要だ」


 確かにこんな簡単な手にあっさりと引っかかるのはよろしくない。

 僕達は死ぬまで秘密を隠し通して、平穏無事に生涯を過ごしたいと考えているのだ。

 ゼノンの言う事にも一理ある。


「ダーリンの防御技がこの世のモノとはとても思えない性能をしてるからね。もしや伝説の勇者なのかもって思ったら、まさか本当にそうだったなんて……!」


 やはり見る人が見れば、僕の防御チートはかなりおかしなモノである事が分かるようだ。

 今後はもっと注意して、防御チートを見破られないよう工夫しないとな。


 ゼノンは僕の両頬を両手で触れうっとりとしながら僕に囁く。


「勇者にボクの耳を触ってもらえるだなんて夢にも思わなかったよ。ボクは君と一緒ならきっと生涯退屈しないだろう。さぁ! 早く婚姻届けを貰いに行こうか!!」

「行こうか!じゃないわよ行こうかじゃッ! コイツはアタシのモノなのよ!? 結婚するならまずアタシがするに決まってるじゃない」

「あ、あーしだって結婚するなら一番最初が良い! それに母親への挨拶が終わっているあーしが一番この中で進展していると言っても過言じゃないし!」 


 僕はまだ誰とも結婚するつもりは無いんだけど……。


 立派なニートになるには、自身で家族を持つなぞ言語道断と言える。


 お嫁さんに養ってもらうというのもなかなか心惹かれる選択肢だが、それはもはやニートではなくヒモだ。それか専業主夫。

 家の家事なんてしたくない僕は勿論、そのどちらを目指すと言ったら当然ヒモになるが、ヒモと言うのはニート以上の高難易度職業だ。


 常にパートナーの機嫌を見極め、決して愛想を尽かされないよう細心の注意を払う。

 そしてたまに自分のお金でプレゼントを買ったりと、未来に希望を持たせるのも忘れてはならないだろう。


 そんな難しいタスクを不器用な僕がこなせるとはとても思えないし、何より目の前にいる三人が遊び呆ける僕を笑顔で養い続けてくれる事はきっと天地がひっくり返ってもあり得ない。


 ……やはり僕が目指すべきはヒモではなくニートか。


 そうして僕が何度目になるか分からないニートになる決意を固めていると、三人が何故か固く握手を交わしているのが目に映った。


 さっきまで醜い言い争いをしていたハズだが、一体どうしてこうなった?


「婚姻届けを提出するのは三人同時。それで良いわね?」

「「うん」」


 いや良くないだろ!

 何で僕の意見を碌に聞かずに、三人共が僕と結婚する事になってるんだよ。

 僕に結婚願望は無いっての。


 ていうかこの世界って重婚OKなの?

 当たり前のように全員で結婚するという結論に至っている異世界女子が恐ろしい。


 僕のようなチェリーボーイじゃ皆と結婚しても、すぐ三人に捨てられるのがオチだと思うんだが

……。

 いきなりバツ三が付くとか嫌だよ、僕。


 だが、こうして女の子と一つ屋根の下で一緒に暮らしてしまっているのも事実だ。

 責任を取るという意味でも結婚は確かにその選択しに入って来るが……まぁどうするかはきっと未来の僕が良い具合に決断してくれるさ。


 今の僕はただひたすらニートへと至るために日々を懸命に生きていればそれで良い。


 そんな何とも言えない不安な気持ちを抱えながら、僕達は当座の生活費を稼ぐため再び冒険者協会へと向かった。

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