第27話 質問会

「うぅ、は、恥ずかしすぎてあー君の顔見れないんだけど……」

「アタシも……。まさかここまで自分が初心だとは思わなかったわ」


 先程のキスを見たリルリアとシルハはなかなか収まりがつかなかった。


 恐らく僕とゆっくりと親交を深めていた所をぽっと出のゼノン教授に取られたのが悔しかったのだろう。


 やれアタシとはまだしてないのにだの、キスをされてニヤついてるのがムカつくだの言いたい放題だった。


 だから僕はその解決策として二人に言ってやったのだ。

 じゃあリルリアとシルハも僕とキスをしようと。


 その言葉を受けた二人は、一分程じっくりと悩みようやく決断を下した。

 する、と。


 まずリルリアは迷うことなくすぐにキスをした。

 唇にするのは流石に恥ずかしいという事で、ゼノン教授と同じく頬っぺたに。


 唇を一瞬だけ付けてすぐに離したリルリアは、それはもう面白いくらいに一気に顔が真っ赤になり、二階の自室へと逃げ去って行った。


 恐らく恥ずかしさで布団の上をゴロゴロと転がりまくっていた事だろう。


 お次はシルハ。

 シルハは予想通り、なかなかキスが出来なかった。


 最初から顔は真っ赤で、凄い照れよう。

 するよ?→やっぱ無理!という流れを五回は繰り返した気がする。


 あまりにも焦れったいから、あと十秒以内にしなかったら僕からするよと脅しをかけたら流石に覚悟を決めてくれた。


 リルリアと同様に、一瞬唇が頬に触れるだけのキスではあったが、それでもシルハにはかなりの恥ずかしさだったのだろう。

 ちょっと家の外走って来ると言って、町内を全力疾走で十周くらいして帰って来た。


「いやぁボクも自分を初心だと思っていたけど、二人を見ていたら勇気を貰えたよ」

「う、うっさいわね。誰にだって最初くらいあるのよ」

「あ、あーしから言わせれば、あーし達以外の人がエッチすぎるだけだし」


 同じ家に住むのだから遠慮は無しでいこうというゼノンの提案を受け、僕達は気安く話せるまでには仲良くなった。

 しかしゼノンについて僕らはまだ知らないことだらけだ。


 という事で、早速質問会を実施することにした。

 僕、リルリア、シルハの順番で質問を投げかける。


「なんで僕のことダーリン呼び?」

「そりゃボクの耳を触ったんだからダーリンだよ。ちゃんと責任取ってもらうからね?」


 本気で言ってるのかこのロリエルフ!?

 僕は耳を触っただけだぞ!?


「ゼノンって今何歳なの? アタシが生まれる前から賢者として有名だけど」

「百二十歳くらいかな? 細かい年齢は忘れちゃった」


「なるほど。てことはあーしらみたいな人間で言うと三才くらいって感じ……?」

「そうそうまだ産まれたてほやほやの三才……ってそんな訳ないだろ!? 人間で言ったら二十歳くらいだよッ!」


 どうやらこの世界でもエルフは長生きする生き物なようだ。

 百二十歳で人間換算二十歳ってことは、五百歳くらいまでは生きるのかな?

 ちょっと羨ましい。


「そう言えば、僕を殺そうとしておいてよくダーリンなんて呼べるね。本当に死んでたらどうするつもりだったの?」

「ダーリンが不思議な防御技を持っているのは知ってたから、死ぬことは無いと確信していたよ? もし死んじゃってたら、まぁそれはしょうがないよね」


 しょうがないで済まさないで欲しいんだけど!?


 やはりこの世界の人間の死生観は狂っている。


「ゼノンって火と氷の二属性持ちで有名だけど、空間属性まで持ってるの? さっきの瞬間移動は空間の魔法よね?」

「あぁ、それならこれの力だよ?」


 ゼノンはそう言って左手の人差し指に嵌めた指輪を見せてくる。


 全体的に黒っぽくて地味な指輪だ。

 だがその装飾とは反対に、中に嵌まっている石は目がくらむような輝きを放っている。


「この指輪は転移の指輪だ。魔力消費は激しいけど、この指輪を持つ者は自由に空間属性である転移の魔法を使用できる」

「なにそれ、凄すぎじゃない……?」


 あまりにも破格すぎる能力だ。

 こんなものいち個人が持っていて良いのだろうか?


 転移の魔法なんて使えたら、女子更衣室や女風呂だって覗きたい放題できる。

 もし見つかってもすぐに転移で逃げ出せばアリバイもバッチリだ。


 ……今度僕に貸してくれないかな?


「勿論、これはボクのモノじゃない。エルフ族の国宝だ。今はボクがその保管を任されているだけ」


 国宝の保管を任されるって、どんだけ信頼されてるんだよ。


 どうやらゼノンは、人間社会だけでなく、エルフ社会においても重要な人物として認められているらしい。


「ゼノンってぶっちゃけいくらくらい貯金があんの? 賢者ってやっぱ儲かる?」

「ふむ……資産のほとんどは土地とか建物に変えてしまっているけど、全部合わせると大体十億は下らないかな?」


 じゅ、十億!?


「やぁ、マイワイフ。調子はどう? ちょっと僕今お金無くてさー。ほんの一億で良いから貸してくんない?」

「この男、十億を聞いていきなり目の色を変え始めたわ!」

「それもほんの少しとか言いながら、一億も要求するとか図太すぎてヤバい」


「ごめんね? 資産はいっぱい持ってるけど、僕が自由に使えるお金はそんなに無いんだ」

「ちっ」

「お金が貰えないと分かるなり舌打ちしたわよ、コイツ!?」

「いっそ清々しいね。いやぁ、あーしの事はお金目当てじゃなくて良かったぁ」


 ごめん、シルハも最初はお金目当てだった。


「まぁそんなに無いとは言っても、一千万くらいはあるんだけどね」

「おぉ、愛しの妻よ~!」

「手のひらクルックルね」

「あーし、こんな人を好きでいて大丈夫かな?」

「ボクもちょっとこんな人を好きになっても良いのか不安になって来たよ」


 まぁかなり話が脱線したような気もするが、ゼノンに聞きたかったことは粗方聞けたかな。

 そんな僕達の雰囲気を察したゼノンは今度は自分の番だとばかりにこう言った。


「それじゃあ今度は君達の話を聞かせて欲しいな。ボクは君達への関心で今は頭が一杯なんだ」


 そうして僕達一人一人に視線を合わせながら続けて言う。


「レクリア王国元第二王女リルリア―ナ。冒険者協会のRランカーで九位のシルハ。そしてこの世のモノとは思えない謎の力を持つ少年アオ。こんな不思議な集団をボクは見た事ない。君達への興味が尽きないよ」


 ゼノンは僕達を見回し、ペロッと舌を出しながら怪しく微笑ほほえんだ。

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