第23話 三人目の仲間

「それじゃシルハちゃん、そのフィアンセのアオくん、メイドのリルリアちゃん。またいずれどこかで会いましょ? それではアディオース!」


 まるで嵐のような人だった。

 突然、犯行予告状を出したと思えば家にカチコミをかけてくるし、そして暴れるだけ暴れたら即帰宅だ。


 フィアンセという発言には声を大にして異論を唱えたかったが、その前にシルハママは颯爽と夜の街の中へと消え去ってしまった。

 なんて逃げ足の速い。


 確かに僕はシルハを貰い受けた。

 だがそれは結婚とかそういった意味合いでは決してなかったはず……。

 僕的にはビジネスパートナー的存在として一蓮托生でやっていきましょうという認識だったんだけど……もしかしてそう思ってたのは僕だけ?


「フィ、フィフィフィアンセ!?」


 いやシルハもそこまでは考えていなかったという反応だ。

 もしやそういう意味だったのか?と顔を赤らめて僕の反応を伺う。


「いやそんな訳無いだろ。僕達まだ会ってからそこまで日も経ってないよ?」

「そ、そそそうだよね。パパに挨拶もまだしてないし、もう少し同棲を続けてからの方が……」


 同棲を続けてから!?

 いやなに結婚に前向きになってるんだよ!

 そもそもこれ同棲じゃなくて、ただの下宿だからね!?


 僕はまだ十七歳。

 結婚とかを考えるには早過ぎる。


「歓迎するわ、シルハ! ようこそ我がファミリーへ」

「ありがとうリルリア。お世話になるわ」


 そして何故か握手をして歓迎の意を示すリルリア。


 我がファミリーってなんだよ。

 うちはイタリアンマフィアかなにかか?


「でもアオ! アタシの事も……その、忘れちゃダメなんだからね? 一番最初にアオのものになったのはアタシなんだから!」


 え? リルリアって僕のメイドさんではあるけれど、僕のものではなくない?

 そう思ったが、リルリアの表情を見るにリルリアの中ではそういう事になっていたらしい。


 僕は空気を読める日本男児。

 だから余計な口を出さずに、リルリアの言葉に素直に頷いておく。


 しかし意外だ。

 リルリアは僕に対して独占欲のようなものを抱いていたと思うのだが、どうしてシルハを笑顔で迎える事が出来るのだろう。


 そうリルリアの反応を訝しんでいると、リルリアがボソっと呟いた。


「……理想を言えば二階の部屋が埋まるくらいの人数が欲しいわね」


 嘘だろ!?

 僕にどれだけ仲間を増やさせるつもりだよ!


 僕は近い将来ニートになる男だ。

 仲間を増やしてもすることは毎日ダラダラと遊ぶことくらいだというのに、リルリアは仲間をそんなに増やして一体何をつもりなのか。


 ニート軍団を作っても誰にも自慢は出来ないよ?


 どうやらリルリアは僕に対する独占欲よりも、仲間や友達を増やしたいという気持ちの方が強いようだ。

 まぁだとしてもこれ以上仲間を増やすつもりはないけどね。


「残りの仲間の事は今はいいわ。問題は、この崩壊し切ったリビングをどうするかよ!」


 確かにその通りだ。


 こんな惨状では日常生活も送れない。

 部屋の明かりもさっきからずっと付かないし、照明器具そのものが破壊されていると見て間違いないだろう。

 このままでは、またご近所さんに通報されて衛兵を呼ばれてしまいかねない。


「シルハ、今お金いくらある?」


 だから僕は緊急的な措置として、シルハのお金に頼る。

 僕とリルリアは手持ちのお金がほとんど無いから、今頼れるのはシルハだけなのだ。


 きっとお金さえあれば、この惨状も業者さんが何とかしてくれるハズ。


「あーしは……三百ゴールドくらいかな?」

「……驚くほど少ないわね! シルハって九位だからもっとお金持ちかと思ったわ」


 さ、三百ゴールドだって!?


 僕もてっきりシルハはお金持ちだと思ったからシルハをシルハママから貰い受けたというのに、まさかそこまで貧乏だったなんて。

 あまりにも想定外すぎる。


 ……もしかしてシルハを貰うよりも、普通に弁償代を請求した方が良かった?


 今更ながらに先程の契約を後悔するがもう遅い。

 シルハに寄生してニート生活を送るという僕の夢が今、早くも砕け散ってしまった。


 それにしても手持ちが三百ゴールドって僕の小学校の頃のお小遣いよりも少ないが、一体シルハは明日以降どうやって生きていくつもりだったのか。


「いやぁ、あーしあんまり依頼とか積極的に受けるタイプじゃないし……。流石にそろそろ依頼を受けよっかなって思ってたんだけど」


 冒険者のランク付けは低ランクこそ協会への貢献度などが考慮されるが、シルハのようなRランカーともなればその強さのみがランク付けの指標となる。


 だから冒険者はランクが上にいけば上にいくほど、冒険者協会という組織に囚われることなく好き放題する人が増えるそうだ。


「はぁー仕方ない。じゃあしばらくはこのままの状態で過ごすしかないね。明日にでも二人で冒険者協会に行って依頼を受けて来てよ」

「いや、なに自分は家でお留守番する気でいるのよ。アンタも来るのよ、アンタも!」


 えぇ……?

 めっちゃ行きたくない。


「せっかく仲間が増えたんだから、いい具合に役割分担して行こうよ。リルリアとシルハは二人で依頼をこなす。僕はここで自宅警備をしている。ほら完璧だ」

「……アオの役割、必要なくね?」

「一体どこの誰が、こんなボロボロの何もない家に泥棒に来るってのよ。盗めてもガラスの破片くらいよ?」


 ……確かに。

 あまりにも仕事をしたく無さ過ぎてテキトー言ってしまったが、冷静に考えるとこんなボロ家で自宅警備する必要性をまるで感じない。


 むしろ何故か家の中にポツンといる僕の方こそが衛兵さんに職質されてしまいそうだ。


「まぁ明日の事は明日考えよう。さて、僕はもう疲れたし眠ろうかな」


 チートのおかげでまるで身体に疲労感は感じないが、なんだか精神的に疲れた……気がする。


 僕はニートはニートでも、生活リズムを決して乱さない健康ニートを目指しているのだ。

 こんな所で夜更かしをする訳にはいかない。


「もう、あの程度で疲れないでよ。勇者として情けないと思わないの?」

「勇者!?」


「全く思わないね。それにリルリアだって、王女として貯金の一つもしていなかったことを情けないと思わないの?」

「王女!?」


 僕とリルリアの会話に驚きっぱなしのシルハ。

 口をあんぐりと開けて、僕らの顔をきょろきょろと凝視している。


 本当の仲間になった事だし、僕らはシルハになら聞かれても構わない。

 そう思い、これまではシルハの前ではしてこなかったような会話も普通にする。


「ちょ、ちょっと二人共! どういうこと!? 勇者!? 王女!? あーしにもちゃんと説明して欲しんですけどー!?」


 どうやら今日はまだ眠れないらしい。


 混乱しっぱなしのシルハを落ち着けて、僕達はそれぞれの秘密を全て彼女に打ち明けた。


 僕が異世界から勇者として召喚された事。

 そしてチートを持っている事。

 リルリアが実は元王女な事。

 そして黒の魔法使いである事。 


 結局、彼女が事態を飲み込むことが出来たのは、日付が変わった後のことだった。

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