第20話 怪盗ラビット襲撃
誰もが寝静まり、静寂な雰囲気が広がる深夜。
僕達は作戦通り配置に付き、ターゲットである怪盗ラビットがやって来るのを今か今かと待ち構えていた。
リビングにいるのは僕とリルリアの二人のみ。
シルハは怪盗ラビットを油断させるため、自室でウサギさんのぬいぐるみを抱えながら寝たふりを敢行している。
窓から侵入されないよう、シルハの部屋の窓はしっかりと閉じた。
あとは怪盗がノコノコと玄関からやって来るのを待つばかりだ。
「なんだか緊張するわね。怪盗が本当に危険な奴だったらどうしよう。アオ、ちゃんとアタシのこと守ってよね?」
「うーん、なんなら今から抱き着いておく?」
「なっ! だ、抱き着くだなんて……ハレンチよ! ま、まぁ? アオがどうしてもって言うのなら別にしてあげてもいい、かな?」
マジで!?
怪盗もまだ来ていないというのにまさか許可が下りるとは。
リルリアとも大分仲良くなったと思っていたが、どうやら僕の想像以上に彼女は僕に心を開いてくれているらしい。
「それじゃ遠慮なく――」
女の子に抱き着ける機会なぞそうは無い。
僕は人生であと何度あるか分からない抱き着きチャンスをここで逃してなるものかと、リルリアに全力で抱き着こうとする。
しかし、その瞬間家の明かりが完全に消えた。
「キャッ! あ、明かりが……!?」
くそ! あともうちょっとだったのに!
怪盗ラビット、空気を読めよ!
いきなりの停電に怖がるリルリアが僕の手を握って来る。
家の光魔法と雷魔法がいきなり全て一斉に消えるなんて明らかに人の手によるものだ。
核だって、昨日入れ替えたばかりだし魔力切れという線も考えにくい。
これは間違いなく怪盗ラビットの仕業……!
ガチャ ガチャガチャガチャ
玄関の扉を何度も開けようとする音が聞こえてくる。
鍵がかかっているからそう簡単には侵入できないハズだが――?
ガチャガチャ…………ドガァァァアアアアン!!!
「「!?」」
突如玄関の扉から途轍もない衝撃音が発生。
その数舜後には玄関から足音。
し、侵入された!?
なんて強引な手段に出るんだ怪盗ラビット。
爆弾を使ったのか魔法を使ったのかは分からないが、鍵で扉が開かないからって扉ごとぶっ壊すのは無理矢理すぎるだろ!
全く以てスマートではないやり口だ。
怪盗じゃなくて強盗かテロリストとでも名乗った方がいいんじゃないか?
足音は少しずつ僕らのいるリビングへと近付いて来る。
シルハのいる二階に上がるには、リビングを通って階段を上らなければいけない。
だからこそ僕達はリビングで怪盗を待ち構えていた訳だが、こんな危険人物だとは思わなかった。
今すぐに逃げ出したい!
きっと隣りにいるリルリアも僕と同じ気持ちだろう。
少しずつ暗闇に慣れて来た目で、リルリアの様子を確認する。
するとリルリアは――――
「友達のため。友達のため。友達のため。友達のため。友達の――――」
必死に自己暗示をかけていた。
ちょっと! 友達のために体張りすぎでしょ!?
僕は早く窓から家の外に逃げ出したいというのに、僕の手をガッチリと握ったリルリアが僕の逃走を許してくれない。
そして遂に、怪盗ラビットの姿が見えた――!
全身真っ黒なローブを身にまとい、身体のラインはまるで確認できない。
頭にはウサギの被り物をしていて、その存在の異質さを一段と引き立てている。
男か、女か。
それすらも外見の情報からでは判断不可能。
まるでホラー映画にでも出て来そうなその怪盗は僕達を一瞥すると、瞬時に攻撃を仕掛けて来た!
僕は咄嗟にリルリアの前に出て彼女を守る。
この前の甲冑騎士に比べれば、そこまでは怖くない。
ズドォオオオン
僕の顔面に怪盗の拳がクリーンヒット。
その衝撃でリビングにある家具や小物が吹っ飛んでいく。
ど、どんだけ威力のあるパンチなんだよ……!
自慢の拳を受けても僕がノーダメージだったことが不思議なのか。
怪盗は僕の顔を見て不思議そうに頭を傾げる。
そして気持ちを切り替え次は蹴りを繰り出す。
今度は確実にダメージを与えようと、金的狙いだ。
カンッ
しかし残念。
チート持ちの僕は、股間も弱点たりえない。
「さ、流石にそれはどうなの……?」
後ろのリルリアが、股間に思いっきり蹴りを入れられてもビクともしない僕を見て、少しドン引く。
別に良いじゃないか!
確かに見てる方は違和感を感じるかもしれないが、金的なんてまともに食らったらマジで吐きそうになるんだから。
男として金的を超越した僕は、新人類と言えるかもしれない。
怪盗も、まさか金的が効果なしだと思わなかったのだろう。
びっくりした様子で僕の股間をガン見している。
「さぁリルリア! 今の内だ!」
「わ、分かったわ」
作戦第一段階。
僕が怪盗の攻撃を受け止め、注意を引き付けている内にリルリアが魔法で攻撃する。
生物と無機物を破壊する事のみに特化した魔法。
それが黒の魔法だ。
制御を少しでも誤れば簡単に死人が出るそれは、本来ならばその危険性故練習など出来るはずも無い。
しかし、防御チートを持つ僕の前ではいくら黒の魔法だろうと無力。
ここ数日、リルリアは自身にだけ魔法の効果が及ばないよう最大限の注意を払いながら、森の中で僕相手に何度も魔法の練習を行った。
僕の近くにあった木や岩を破壊してしまうこともあったが、それでも魔力が尽きるまで何度も何度も。
恐らく、これほどまでに生身の人間相手に特訓を行った黒の魔法使いは世界初じゃかろうか。
最終的にはほとんど制御を誤る事も無くなっていたし、これなら実戦で使える。
僕とリルリアはそう判断し、こうして対怪盗作戦に黒の魔法での攻撃を組み込んだ。
リルリアは精神を統一し、魔物を相手にする時の何倍も集中する。
狙いは足首。
他の部位では命を奪うリスクがあるし、足ならば少し制御をミスっても致命的な一撃とはならないだろうという考えだ。
流石にぬいぐるみを盗んだだけの相手を本気で殺しにかかるのはマズい。
「バンッ」
そして魔法を発動。
だが怪盗はなんとジャンプしてそれを躱した。
怪盗の真下の床はズタズタに剥がれ、見るも無残な光景になっている。
か、買ったばかりのマイホームが……!
しかしリルリアを責める事は出来ない。
リルリアは怪盗の足首に向けて魔法を発動し、完璧に制御して見せたのだ。
まさか魔法をリルリアの視線を見て躱すとは。
怪盗の実力は僕達なんかじゃ想像も出来ないくらいの高みにあるらしい。
だが作戦はまだ進行中。
怪盗の裏を取るため玄関からゆっくりと忍び寄って来ていたシルハが、飛び上がった怪盗に強烈なパンチを繰り出す。
作戦第二段階……ていうか最終段階。
リルリアが魔法を放つ。そこで確実に生まれるであろう隙を、裏を取ったシルハが突く。
僕達の狙い通りにここまできた。
後はシルハ次第だが、シルハならきっと決めてくれる!
ズドォォオオオオオオォン!
やったか――!?
シルハのパンチの衝撃が離れている僕らにまで届いて来る。
流石は九位の攻撃だ。
これは怪盗もタダでは済まないだろう。
そう思い、怪盗の様子を伺うと――――
――怪盗は僕達の方に視線を向けたまま右手を背中に回し、背後からきたシルハの重い拳をまるで何でもない事のように受け止めていた。
つ、強すぎだろこの怪盗……!!
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