第19話 犯行予告状

 その日は珍しく早朝に目が覚めた。

 途轍もない爆音が聞こえて来たのである。


「はぁーーー!? あっりえないんだけどッ!!」


 どうやらシルハが騒いでいるらしい。

 一階の僕の部屋までその声が届いていることから、よっぽどの何かがあったようだ。


 ドタドタドタ


 駆け足で階段を降りてくる音。


 あ、なんか嫌な予感がする。

 そんな僕の予感は見事的中。

 僕の部屋のドアがドンドンドンと何度もノックされる。

 うぅ、まだ起きる時間には早いから二度寝したいのにー。


 ドンドンドン


 ドンドンドン


 ダメだ。こんなにドンドンされたら眠れやしない。

 僕は二度寝を諦め、ドンキー〇ングみたいにドアを叩きまくっているシルハに呼び掛ける。


「はーい。なにー? こんな朝っぱらからどうしたのー?」


 シルハは僕の声を聞くと、ドアをバンと凄い勢いで開け、手に持っていた手紙を見せて来た。


「アオ! あーしの枕元に朝起きたらこんなのがあったんだけど、これアオの仕業じゃないよね!?」


「手紙?」


 僕はその手紙を受け取り中を確認する。

 するとそこにはこう書いてあった。


『親愛なるシルハ様。今宵あなたのウサギさんのぬいぐるみを頂戴しに参上します。by怪盗ラビット』



~~~~



「へぇ、そんな事があったのね~」


 朝食の時間。

 いつも通り一番遅くに起きて来たリルリアがパンを食べながら言う。


「ていうかあの騒ぎで起きなかったの?」

「騒ぎ? アタシは普通にさっき起きたばかりだけど?」


 どうやらリルリアはゾウ並みに鈍感なようだ。

 一階にいた僕ですら飛び起きたのに、隣りの部屋にいて気が付かないって一体どうなってんだよ。


「あーしの……あーしのうさちゃんがまた獲られる」


 そしてシルハは朝からずっとこの調子。

 前はぶっ殺すとまで言っていたのに、いざ怪盗と対峙するとなり一気に弱気になってしまっている。 

 子供の頃のことが大分トラウマになっているらしい。


「それにしてもシルハってまだぬいぐるみとか持ってるんだね」

「……あったりまえっしょ? あーしだって女の子なんだからぬいぐるみの一つや二つ……八つくらい持っててもおかしくないし」


「八つ!? もうそれ部屋中ぬいぐるみだらけじゃん!」

「はぁ、分かってないわねアオ。部屋中ぬいぐるみだらけ。それがいいんじゃない。アタシだって前に住んでいた所では、それはもう沢山のぬいぐるみに囲まれて過ごしていたのよ? ……ていうかぬいぐるみしか話し相手がいなかったし」


 リルリアが前に住んでいた所というと、レクリアのお城か。

 魔法が発覚してからは居ないものとして扱われたとは聞いていたが、まさかぬいぐるみに話し掛けていたレベルだったなんて……。


 そりゃ友達や仲間が欲しくなるよね。

 僕は想像以上のリルリアの不遇っぷりに涙が出そうになる。


 リルリアもその頃の事を思い出してしまったのか、ずぅーんと下を向いて落ち込んでしまった。

 そんなに思い出したくないなら話さなきゃいいのに。


「でもどうやってその犯行予告状をシルハの枕元に置いたんだろうね。窓とか開けていたわけでは無いんでしょ?」

「ううん。開けてた。あーし星を眺めながら寝るのが好きだから」


 なんて不用心な!

 そしてなんてロマンチック!


 それじゃ手紙を置こうと思えば比較的誰でも置けちゃうんじゃ……?


「でもあーし、寝ている時に敵が近付いて来たらすぐ目が覚めるように訓練させられてるし、普通こんな真似されないんだけどな~」


 なにその漫画みたいな訓練! 超カッコいい!

 僕も前世ではハンター〇ンターのGI編を見てよく訓練をしたんだけど、全く身に付かなかったんだよね。

 もしかして異世界でなら僕もその技術を習得できる……?


「九位のシルハに気配を悟らせないとなると、かなりの実力者ということになるわね」


 そして比較的早くリルリアも精神的ダメージから回復したようだ。

 テーブルの下で密かに僕の手を握りながらそんな分析をする。


 ……これ絶対、今はアオがいるからボッチじゃないもん!的な立ち直り方したよね?

 ますます僕への依存が強まりそうで怖いんだけど。


「それに今宵参りますってことは、間違いなくこの家に怪盗がやって来るって事じゃない! どう考えてもアタシもアオも巻き込まれるわよ?」

「シルハと怪盗ラビットの超人バトルに巻き込まれたら……多分死ぬな」


 リルリアが。


「ごめんね二人共。迷惑はかけないって言ったのにこんな事になって」

「ううん。そんなこと無いわ。アタシも言ったはずよ? 手伝ってあげるって。こうなったらシルハも断ったりしないわよね?」


 ちょっと待って。

 その手伝う人員に、もしかして僕も入ってる!?


 僕はいくら友達のためとは言え、そんな危険な真似はしたくないのだが!?

 そして危ない真似をするなら家の外でやって欲しいのだが!?


「ありがとう、二人共。あーしはこんないい友達を持って幸せだよ」

「と、友達……! うん、任せてちょーだい! アタシもアオも友達のためとあらば、たとえ火の中水の中草の中森の中だよ!」


 あの子のスカートの中ならばいくらでも突入してやるが、それ以外はかなり嫌だな。

 多分僕のチートならば、火に飛び込もうが水に潜ろうが普通に生きていけると思うが、敢えて自分からそんな事はしたくない。 


 そしてリルリア、友達という単語に心揺さぶられ過ぎである。

 友達に飢えすぎていて、こっちが心配になってくるよ。


「それじゃ、朝食を食べたら対怪盗ラビット戦の作戦をみんなで練るよ~!」

「お~!」


 ええ? 本当に僕もやるの……?

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