第14話 マイホーム

「まさか本当に倒してきてくれるとはな! それもこんな短時間に!!」


 冒険者協会に戻った僕達は、支部長室で支部長に依頼を達成したことを伝えた。


 どうやらこの世界の魔物には、体のどこかに核と呼ばれる丸いビー玉のようなものがあるらしい。

 甲冑騎士のそれをいつの間にか回収していたリルリアは支部長にそれを見せると、支部長はすぐに依頼の達成を認めてくれた。


 これ僕一人だったら、核なんて気付かずに絶対スルーしてたな。

 もう一度森の洞窟に行く羽目にならなくて良かったー。


「それにしても本当に厄介な魔物だったようだな。この核も十センチくらいあるんじゃないか? どうりでうちの冒険者たちじゃ歯が立たなかった訳だ」

「僕はもう疲れちゃったよ。早く帰りたいからお金ちょうだい? あ、あと激安物件の情報も教えて欲しいな」

「まぁ待て。金の方は今うちのものに手配させている。物件についてもちゃんと教える。その前に、その核はどうする? それも売るか?」


 支部長はリルリアが手に持っている魔物の核を指差し言う。


「いえ、これは売らないわ。これほどの大きさの核なんて希少だから、指輪かネックレスにでもしようと思ってるの」


 リルリアに聞いた話によると、魔物の核には魔力を貯めておける特性があるんだそうだ。

 核が大きければ大きいほど、その貯められる魔力も大きくなる。


 魔法使いにとって魔力はとても重要だ。

 いざという時に魔力のストックがあるかないかで生死が分かれる事も少なくないらしい。


「そうか。まぁそれが良いだろうな。それにしてもリルリア君。君も冒険者にならないのか? 君ならすぐにでもアオと同じB級にまで駆け上がれると思うのだが」

「アタシはそういうの興味は無いから。それにアタシはもうこいつのメイドさんっていう立派な職に就いているの。他の仕事をするつもりなんてないわ」


 嬉しい事を言ってくれる……と一瞬思ったが、君メイドさんらしい事一つもしてないよね?

 ここまで一緒に行動してきてリルリアが僕のためにしてくれたことと言えば、魔物を木っ端微塵に虐殺したことと、母親から貰ったブローチを質に入れたことくらいだ。


 ……もしや僕よりも先にニートになるのはリルリアなのでは?


「はっはっはっは。それは残念だな。アオ、可愛い彼女のためにも今後も頑張るんだぞ」

「も、もう! 彼女だなんて。アタシとアオはまだそんな関係じゃ――って何言わすのよ!」


 スパーンと僕の頭を気持ちよく叩くリルリア。

 何言わすって、自分で言ったんじゃないか!

 いくらダメージが無いからと言って、これで殴られるのは流石に理不尽すぎる……。


「さて、それじゃお待ちかねの激安物件の紹介だ。ここは元々私の祖母が住んでいた家でな? 祖母は兄弟姉妹が多かったから部屋の数も多い。そして――――」



~~~~~




「うわぁーーー、おっきーい!」

「そしてぼろーい」


 支部長に教えてもらった住所へ向かった僕達。

 そこには支部長の言葉通り、とてもボロっちい大きな家があった。


「ここが今日からアタシ達の家になるのよね。なかなか悪くないじゃない!」

「まだお金払って無いから僕達のものではないよ?」


 今の僕達はただの見学者だ。

 勿論気に入ったら購入するつもりだが、このボロボロな外装を見て僕の中の第一印象はマイナスに振り切れてしまっている。

 これ地震とか来たら一瞬で崩落しそうだけど、大丈夫なんだろうか。


「まずは中に入ってみましょうよ!」


 そう言ってリルリアは僕の反応を待たずに、走って家の中へと入って行った。

 やれやれ、いくら夢のマイホームとは言えテンション上がりすぎだろ。


 当初は家の購入に積極的でなかったリルリアだが、今はもうそんな事忘れてしまったらしい。

 家の空いた窓からは、リルリアのご機嫌そうな鼻歌が聞こえてくる。


 リルリアの後を追い、家の中に入ると内装は案外綺麗だった。

 壁に多少のキズは入っているものの、そこまで気にならないレベル。


 一階部分はリビング、ダイニング、キッチン、トイレ、お風呂と大きな部屋が一つ。家として必要なものが全て揃っている。

 二回にはそこまで大きくは無い部屋が六つ。

 いわゆる7LDKというやつだろう。

 これで支部長は100万ゴールドで譲ると言っているのだからかなり破格のお値段だ。


 特に僕が気に入ったのはお風呂!

 かなり広めに設計されていて、四人くらいまでなら普通に入れそうなサイズ感。

 これならお風呂というよりも小さな温泉と言った方が的確かも。

 この家を設計した人はかなりのお風呂好きに違いない。


「アオ! アタシ決めたわ! この家に住む!!」


 どうやら僕と同じようにリルリアもこの家を気に入った様子。

 どこからかほうきを見つけ出してきて、早速掃除を始めている。

 うんうん、メイドさんとしての自覚が出てきたようで何よりだよ。


「そうだね。僕もこの家なら買っても良いと思う」


 外装はちょっと酷いが、中は立派なものだ。

 これなら虎の子の百万を支払う価値は十二分にある。


 ただ一つ疑問なのが、こんな良い家なのに何故支部長は自分でここに住もうとしないのか。


 支部長という役職がどれほど凄いのか僕には分からないが、まぁかなりの好待遇で働いているのは想像にかたくない。

 もしかしたら、ここよりももっと豪勢な屋敷にでも住んでいるのかも。


 しかしたとえそうだとしても、ここを100万という激安価格で譲ろうとするのは何故か。

 この家は素人の僕がパッと見ただけでも100万以上の価値は確実にある。

 もしかしたら僕達はまだ重大な何か見落としている――?


 考えても考えても僕には分からない。


 結局、僕は少し喉に引っ掛かるものを感じながらも、この家を購入し念願のマイホームを手に入れた。


 うーん、僕の思い過ごしならいいんだけど……。

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