第13話 高そうな剣ゲット

 泣きじゃくるリルリアをなんとか落ち着かせ、僕は誰にも喋らないと心に決めていた自身のチート能力をリルリアに説明した。


 相手にだけ情報を出させるのはフェアじゃないからね。

 するとリルリアはこの反応。


「はぁー!? なによそれ! 絶対に傷付かないって本当に言葉通りの意味だったの!?」


 そりゃそうだろう。

 もし僕が傷付く可能性が一ミリでもあるのならそれはもはや絶対ではない。


「じゃあ冒険者協会の認定戦で支部長を攻撃しなかったのって――」

「しなかったんじゃなくて、出来なかったんだ」

「さっきの甲冑を着た魔物を攻撃しなかったのも――」

「僕の力では本当に倒せなかったんだ」


 チート能力を知って、今更ながらに僕の行動の真意を悟るリルリア。

 そして頭を抱えながら言う。


「う、噓でしょ……? アタシ、てっきり自分がミスしてもアオが何とかしてくれるって思って安心してたのに。それがまさか本当にアタシだけが頼りだったなんて」


 勝手に何とかしてくれると思われても困るな。

 僕は頑張って勇気を振り絞っても盾になるくらいしか出来ないと言うのに。


「もっと早く言いなさいよ!」


 スパーンと僕の頭を叩くリルリア。

 いや、能力をペラペラしゃべるやつは負けるって相場が決まっているし……。


「はぁ~しっかたないわね。しょうがないからアタシがアンタのメイドさんと、ついでに剣になってあげるわ。だからアオ! あんたはアタシの事をちゃんと守りなさいよ?」

「あぁ、任せてくれ」


 僕とリルリアはそう言ってグータッチを交わす。

 なんだかリルリアとはこうして腹を割って話したことで、ようやく真の仲間になれたような気がする。


 それに僕がリルリアを守るという事はさっきみたいに、コアラよろしく全力で抱き着くという事だ。

 こんな役得な事はない。

 僕は文字通り喜んで君を守るよ。


「そう言えば、支部長は魔物が何かを守っているかもって言っていたけど、それらしいものは何もないよね?」

「そうね……この広間には特に何も無いし」


 僕達はその何かを探すため、それぞれ広間の探索を始めた。

 僕は壁際に隠し通路でも無いかと探し、リルリアはさっきの騎士の残骸を調べているようだ。


 リルリアは運が死ぬほど悪いから、多分探し物を見つける事なんて出来ないだろうな。

 そう思いながら壁沿いに手を付きながら調査していると、いきなり岩がスイッチのように引っ込んだ。


「え?」


 するといきなり岩壁がゴゴゴゴゴと音を立て道を作り出す。

 ……どうやらこの先に進んでみる必要があるみたい。



~~~~~~



 隠し通路は、洞窟の中とは思えないくらいきちんとした道だった。

 恐らくこれは人の手で作られたものだろう。

 僕達が歩くと、その移動に合わせて壁に置かれている篝火が次々と点火していく。


「これ、かなり偉大な魔法使いの仕業かもね。こんなの普通作れないもん」


 そう聞くとますますこの先に眠っている何かの存在が気になって来る。

 お宝だったら嬉しいんだけどなぁ。


 僕達は黙々と歩き続け、そしてようやくそれらしい部屋に辿り着く。

 そこにはローブを着た白骨化した遺体が二つと立派な剣が飾られていた。


「『我が永遠の友レジスがここに眠る』ですって。どうやらここはレジスという人物のお墓なようね」


 白骨遺体の傍あった手紙のようなものを手に取り、最初に書いてある言葉を読んでみせるリルリア。


「凄い! この手紙、時魔法が掛けられているわ! 時の魔法使いなんて黒の魔法使いと同じくらい希少なのに」


 恐らくその手紙を何としても誰かに読んで欲しかったのだろう。


 こんな森の中に、隠れるように作ったお墓だ。

 そのレジスという人物になにかが起きたのは明白。


 そしてこの白骨化した遺体の片方が、時の魔法使い。そしてもう一方が篝火を作った火の魔法使いといった所か。

 もしかしたら先程の火の魔法を使う騎士っぽい魔物も、この魔法使い達が何か関っているかもしれない。


「『この手紙を読んでいる者に告げる。時と空間の魔女に気を付けろ。奴は遊び半分で全てを破壊する。見掛けたら即座に殺すべきだ。……それと剣は自由にしてくれていい。願わくば、レジスの剣で魔女を葬って欲しいがそれは我儘というものだろう。君に……いや君達かな? 君達は好きなように生きるのだ。君達が魔女に全てを破壊される事なく、平和に生涯を終えられることを祈っている』か。なんかすっごいフラグを立ててくる手紙ね!」


 僕もそう思う。

 こんなの言われたら絶対に会っちゃうよね、時と空間の魔女。


 ただでさえ希少だと言う複数属性持ちで、明らかにレアな時と空間の二つの使い手。

 どう考えてもヤバい敵だ。

 絶対に会いたくない。


「それにしても、この剣カッコいいね! まさに名剣って感じ。売ったらいくら位になるかな?」

「え、それ売るの? 手紙でこんなこと書かれてるのに!?」

「そりゃ売るでしょ。だって僕ら剣使えないし」

「確かにそうだけど……なんかバチでも当たりそうじゃない?」


 それは言えてるな。

 こんなお墓を作って、そしてわざわざここで死んでいった人達が残した剣だ。

 雑に扱えば、とんでもない悪夢を毎晩見る羽目になりそう。


「それに! アンタは勇者なのよ? 勇者と言えば、強力な仲間も有名じゃない! 魔法使い役はアタシで良いとしても、剣士が今後アタシ達の仲間になるかもしれないでしょ? この剣はその子のために取っておきましょうよ」

「いや仲間を増やすつもりなんて微塵もないから」


 一人メイドさんがいるだけでも、今後の給料が支払えるか不安でいっぱいなのだ。

 これ以上仲間を増やしてどうすると言うのか。


 僕は魔女となんて戦うつもりは全くないし、お金の問題さえ何とか出来たら即座にニートになる。

 大体、剣士なんてニート生活のどこで役立つんだよ。

 強いて言えば雑誌の袋とじを開けてもらうくらいだが、そんなもののためにこの名剣を使ってもらうのは流石に腰が引ける。


「ま、まぁ? アタシも別に仲間なんて欲しくないし? アオがアタシと二人っきりが良いって言うならそれでいいけど」


 だがリルリアはちょっぴり仲間が欲しそうだ。

 二人でも良いと言いながら、剣を大事そうに抱えている。


 これ剣を売るつもり微塵もないな。

 きっと僕が剣を売ろうとしたら断固として拒否してくるだろう。


 この様子ではいずれ出来るかもしれない剣士の仲間のために、死ぬまで剣を抱えているかも。

 ……どれだけ仲間欲しいんだよこいつ。


 魔法のせいで人々から疎まれ続けた反動だろうか。


「取り敢えずここを出ようか? 依頼も達成したし、洞窟の探索も終わった。もうここに用は無い」



~~~~~~



「そう言えば、今思い出したんだけどさ」


 僕とリルリアは二人、洞窟の元来た道をトコトコと歩いてた。


 剣はリルリアが頑として僕に渡してくれないので、今はリルリアが右手でそれを握っている。

 そして左手は、僕の右手と繋がっていた。

 なんだかこうしたい気分なんだそうだ。


 僕としても女の子と手を繋げるのなら是非もない。

 手くらい喜んでいつでも貸そうじゃないか。


「何を?」

「支部長の話だと、ここの魔物から逃げるのはそう難しい事じゃないって話だったじゃん?」

「う、うん。そうね」


 現にあれほどの強さの魔物が相手なのに死者は一人も出ていないそうだからね。


「でも、僕達が会ったあの魔物は、とても逃げられる雰囲気じゃ無かった」

「そ、そうかな……? 頑張れば逃げれたかもよ?」


 どこか動揺している様子のリルリア。

 握っている手も焦りからか少し汗ばんできた気がする。


「もしかして、リルリア原因知ってる?」

「ギクッ」


 いや自分の口でギクッって言うなよ。

 何か隠しているのがバレバレじゃん。


「ほら、吐け。君の知っている情報を全て吐くんだ」


 空いている左手でリルリアのほっぺをつねる。

 丸く円を描いたり、上下に揺すったりしてほっぺを弄ぶ。


「わ、分かったわよ。言う! 言うから! ほっぺいじらないでぇ~!」


 ようやく白状する気になったか。

 僕はリルリアの要求通りほっぺをいじる手を止める。


「実は、さっき露店で買った指輪なんだけど……」

「そう言えば買ってたね」


 リルリアは右手の薬指に付けたその指輪を僕に見えるように掲げる。


「あの店員さんはダイヤって言ってたんだけど、よくよく見たらこれダイヤじゃいっぽいの」


 そりゃあんな露店でダイヤの指輪なんて売ってる訳がない。

 子供でも少し考えれば分かりそうなものだけど、元お姫様で世間知らずなリルリアは人の言葉を疑うという事を知らないらしい。

 

 こんなあからさまな詐欺に引っ掛かっていたとは……。

 このメイドさんに買い物を頼むのは当分やめておこう。 


「へぇ、じゃあなんていう石だったの?」

「アオは知らないかも知れないけど……魔石っていう魔物を引き寄せる効果がある石だったみたい。さっき魔物の死骸を漁ってたら、魔物の核がこの指輪に引き寄せられたから間違いないわ」


 てことはなにか?

 本来ならば楽々逃げおおせるハズの魔物があそこまで僕達を執拗に、そして攻撃的に追いかけたのはその指輪のせいって事?


 僕はとんでもない事をしでかしてくれたリルリアに無言でジト目を向ける。


「……てへっ」


 笑って誤魔化そうとしても駄目だよ。

 僕はそのまま静かに彼女の頭をペシッと叩いた。

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