第9話 認定戦
「あれが新人か、案外ちっこいな」「なんでも九位の推薦らしいぞ」「ドラゴンをぶっ殺したんだとか」「バッカ、そんなの嘘に決まってんだろ」「なよなよしていてまるで筋肉がついてないが、もしかして魔法使いなのか?」
僕と支部長は冒険者協会地下にある修練場でお互い向かい合っていた。
そして何故か周囲には人だかり。
どうやら僕と支部長の戦いを見に、多くの冒険者たちがここに集まっているらしい。
「ふむ、ここまで観客がいるのは想定外だが、まぁいいだろう。始めようか!」
そう言って支部長は身の丈ほどもある大剣を担ぐ。
「武器や防具は本当にいらないのか?」
「いらない。それよりも早く始めようよ」
そして早く終わらよう。
こんな見世物みたいな戦い、一般庶民の僕にはとても耐えられない。
そもそも戦うなんて野蛮だし、それを好奇心から見物に来る客はもっと野蛮だ。
だが僕にはこの戦いをこなさなければいけない理由がある。
それは、冒険者として名前だけでも登録することだ。
先程僕はドラゴンのウロコを売ると言ったが、どうやら冒険者協会では冒険者として登録した人物でなければ物の売買は出来ないという決まりになっているらしい。
それならどっかテキトーなお店にでも売りに行こうと僕は当然考えた。
しかし、それにリルリアが待ったをかけたのだ。
なんでも商会を通して売ると、売却価額の四十パーセントもの金額が手数料として引かれてしまうのだと言う。
さらにドラゴンのウロコともなれば、売却にかなりの手間がかかるため店によってはそれ以上の金額を取られるというのだから驚きだ。
僕は泣く泣く、手数料を10%しか取らない冒険者協会でウロコを売却することに決めた。
「ははは。その威勢がこけおどしでない事を祈っているぞ」
支部長はそう言うなり一瞬にして僕まで間合いを詰める。
大柄な体格に見合わない俊敏性だ。
そして両手で抱えている大剣を一気に僕へと振り下ろす!
シュン カン
しかし僕のチートは破れない。
大剣はなにか硬いものにでも弾かれたような音を立て、その勢いを一気に失う。
「なんとッ!」
支部長もまさか渾身の一振りが防御も何もしていない僕に弾かれるとは思いもしなかったのだろう。
驚いたように目を見開き、サッと僕から距離を取った。
「支部長の剣を防いだぞ!」「なんだあのガキ、すげええ!」「支部長が一振りで決めれなかった所なんて初めて見た!」「流石は九位の推薦だ」「いやでもまぐれって可能性も……」
思い思いの言葉を吐き、盛り上がる観客。
予想以上の僕の健闘ぶりに驚いているのが伝わって来る。
さて……この後どうしよう?
僕はチートのお陰で攻撃を防ぐことは出来る。目を瞑っていてもだ。
でも他は?
攻撃なんて全く出来ないし、そもそも支部長の動きに目が追い付かない。
それに合わせて動くだなんて天地がひっくり返っても無理だし、そもそも多くの人に見られているせいで緊張してさっきから足が一歩も動かせない。
……これは詰んだかな?
僕も、そして支部長もね。
僕は攻撃能力が皆無でまるっきり攻撃できないし、支部長はどれだけ攻撃しても僕にダメージ一つ負わせられない。
完全に千日手であった。
「少年。どうやったのかは知らないが、剣を弾き返した瞬間こそ、君が攻撃する最大のチャンスだった。……なぜそれを見逃した?」
勝負の最中だと言うのに、支部長が僕へ話し掛けて来た。
何故って言われても、反応できなかったとしか言えない。
僕の反射神経と運動神経はどちらもおじいちゃん並なのだ。
「その理由は、一度剣を振るった支部長にはもう分かっているハズだ」
そう、僕が弱すぎるのである。
支部長ほどの戦士ならば、きっと僕の目が支部長の動きに追いついていない事など明白だろう。さらに僕の体つきを見ればまるで鍛え上げられていないただの一般人であることも理解出来るはず。
「そうか、そう言う事か……」
「そういう事だよ」
どうやら支部長は僕の言いたいことをちゃんと理解してくれたらしい。
何故か僕のような一般人がこんなところで公開タイマンみたいな真似をさせられているが、本来僕はこんな所にいるべき人間では無いのだ。
僕がいるべきは、マイホーム。そして自室。
そこでゲームと漫画、アニメに囲まれながら、悠々自適と寿命まで過ごすのが僕という人間のあるべき姿。
だからもうこんな争いなんてやめて、早く最低ランクの冒険者として認定しておくれよ。
そうしたら二度とこんな危ない場所には足を踏み入れないで、幽霊冒険者として生涯を過ごすからさ。
「隙など突かなくとも、私を攻撃するなどいつでも出来る。そう言いたいんだろ……?」
いや違うよ!? 何言ってんの!?
どうやら支部長が僕の言いたい事を理解してくれたと思ったのは僕の早とちりだったようだ。
まるっきり見当外れな事を支部長は言い出した。
「ははは。確かにオレにも理解出来た。剣を弾いたあの技、あれは異質過ぎる。そして異常だ。あんなものオレにはとても太刀打ちできる気がしない」
そりゃチートなんだから簡単に太刀打ちはできないだろう。
しかしそうか、たった一太刀で支部長は僕の持つチート能力の存在に、違和感という点だけでも気が付いたのか。
この人きっと本当に強いんだろうな。
「そして恐らく、その異質な技を利用した攻撃も当然出来るのだろう。あれを攻撃に利用する。危険だ。危険すぎる。……実際に攻撃されていたら、きっとオレは塵も残さず死んでいただろう」
んな訳ないだろ!
僕がそんな危険人物に見えるか!?
僕のチートは攻撃性能なんて皆無の微妙チートなんだよ!
そして僕自身のスペックはスライム以下なんだよ!
そう声を大にして言いたいが、自身の能力を公にするなどバカのすることだ。
情報は金よりも価値がある。
僕のチートが誰かに破られる心配は今の所していないが、もしかしたらいつの日かチートが破られる日がくるかもしれない。
そんな日が来ないように、僕は極力敵を作らない事、そしてチートの話は誰にもしない事を心に固く誓っている。
「ふっ、オレも老いたかな。自身よりも格上の人間を目の前にしても、かつてのような嫉妬が湧いてこない」
いや、もうそんな独白とかいらないから、早く冒険者として認めて?
そして僕にお金頂戴?
「冒険者アオ! 君を冒険者協会ロージ支部支部長ガンズの名の下に、B級冒険者として認める! 見ているお前らも異論ないな!?」
「うおおおお! 新人がいきなりB級に認められるなんて俺初めて見たよ!!」「異論なんてねぇ! こいつはいずれA級に至る傑物だぁあ!!」「支部長も年の割には頑張ったぞー!」「こうしちゃいられねぇ。あの子をパーティに勧誘する準備をしないと!」
僕、瀬川青は……何故か突っ立てただけなのに、B級冒険者として認められてしまった。
いやおかしいでしょ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます