「贖罪のかたち」
バイトンが
バイトンを
「……もし、あの時、バイトン
自分は生と死の
「でも、退くこともできなかった……閣下の
思えばゴッデムガルドに着いたその直後、バイトンはこの馬に乗ってニコルと対面した。あの時はまさか、この騎士が自分の直属の上官になるとは思っていなかった――たった、三週間
「……君も、バイトン正騎士が好きだったんだ……僕には馬が思ってることは、よくわかる気がするんだ。――気がするだけかも知れないけれど」
そう語りかけてくるニコルの顔を見て、馬は口の中で小さく音を鳴らした。ニコルへの敵意はなく、ただ、黒く大きくつぶらな目が、悲しそうな色をまとっているのが
「――僕を
自分の口から飛び出たそんな言葉に、ニコル自身も
バイトンが遺した馬が見つめてくる目、その視線に
「騎士にとって馬が戦友であるのと同時に、馬にとって騎士は戦友なんだ……僕は君の戦友を殺してしまった……。僕のこの罪は、どうやったら許されるのだろうか、君は教えてくれないか…………」
――死。
この一週間だけで、どれだけの死の情報を浴びてきただろうか。
それを受け止められない心が
側にゴーダム公がいれば、『考えるな』と言ってくれただろう。
だが、今はそんな
「わっ」
べろん、と長い舌で
「……君は、僕を
ぶるる、と息が
「……ありがとう。さすがバイトン正騎士が選んだ馬だ。
ニコルの体を軽く
「……そうだ。立ち止まってられない。まだ、やらないといけないことが色々あるんだ。騎士団に
「――
馬が歩く先――木々の
「そこに、誰かいるのですか?」
「…………サ…………!」
ニコルの暖められたはずの心が、さっという音を立てて冷えた。
いるはずのない人物――少女が、
「サフィーナ様…………!!」
◇ ◇ ◇
青白い月明かりを受けて、白い大理石で
ゴーダム公爵騎士団の長い歴史の中、騎士団に
その『騎士の棺』の前、火傷するに近い痛みがあるほどに冷たい大理石の上で、ゴーダム公爵その人が正座をし、騎士たちの
深夜に起こった殺人事件の
――それがわかっていながら、ゴーダム公はここに
「ゴーダム公爵騎士団の
大理石の地面に手をつき、ゴーダム公は深々と
「間もなく、この『騎士の棺』に新たな魂、悲運にも命を落とした騎士、バイトン・クラシェルの魂を納めさせていただく。
額を地に着けたまま、ゴーダム公は
「もしも彼、バイトン・クラシェルに
明日、バイトン・クラシェルの遺体は
その前に
「……先達たちよ、応え給え。その
永遠の眠りに
「騎士たちよ、騎士たちの魂よ、その意を我に示し給え。どうか、どうか、どうか……」
そんなものが
が、やはり当たり前のように、何も起こることはなかった。
「…………ダメか…………」
わかりきっていた結果を前にして、ゴーダム公がゆっくりと身を起こす。
「バイトン……私にできることは、これくらいなのだ。どうか私を赦し…………うん?」
夜空にすぅ、と幕が下りるような気配がする。月明かりが明度を弱め、地上に差させていた
「ああ…………?」
晴れていたはずの夜空に、薄く――うっすらとだが、黒い雲が覆わんとしているのを。
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