「橋の上の対峙」
一歩、バイトンが自分の宿舎を出ると、天空のてっぺんに
「満月か」
深夜。
自分の
大きなズダ
「――いや、少し欠けているか。欠けゆく月だ、お前は……そうだろう?」
月は
問いかけを無視されたことが
バイトンが足を向けたのは、その反対の方向だ。ゴーダム
その川に
十五分ほど歩くと建物の気配も消え、深い林の間を通る細い道だけがバイトンを
小川というには少し
「やはりおいででしたか」
一呼吸を待ち、声を投げた方向の先で大きな赤い
軍服を着た
「バイトン。軍紀違反だな」
赤い光に焼かれているような姿を見せているのは、ゴーダム公爵そのひとだった。
「
「騎士団を裏切っている私に、軍紀違反も何もないでしょう?」
バイトンは振り返らなかった。ただ、手綱を引いて連れていた馬の背を
「こちらに足を向ければ、閣下がいらっしゃると思っていました」
「全て承知というわけか」
「閣下とて、私とおひとりで対面されたいがために、あのような暗号めいた命令書を送ってきたのでしょう。閣下の考えのなさり方はよく理解しているつもりです」
「残念だが、ひとりではないぞ」
そのゴーダム公の言葉に応えるように、バイトンが目を向けている方向――橋の出口の向こうで、ゴーダム公が
炎の色の中に、やはり軍服姿のニコルが浮かび上がった。
バイトンが
「ひとりであれば、私は橋の向こう側にいる」
「……そうでしたね。私が
「
「それは……ある意味光栄なことというか……」
橋の真ん中で
入口と出口を
「それで、事情は話してくれないのか、バイトン」
「申し訳ありませんが……」
バイトンの背からズダ袋が
そのまま青年の足がゆっくりと前進し、ニコルとの
「私もこうするしかないのですよ」
「――バイトン正騎士!」
ニコルがわずかに腰を落とし、剣の柄に手を置く。身構えずにただ歩くバイトンの体から静かな
「あなたは本当に
「今、私の口からそう言ったろう。現実を
「…………何故そんなことを!!」
「事情を話せば、お前は私を
「私がやったことは、盗賊団による数十件の
十歩の間合いを取ってバイトンが止まる。ニコルは剣を
「そしてマルダムの死にも、私は無関係ではない。
「っ!」
ニコルの心の中に、
「どうだ、ニコル。私はマルダムの本当の
「……赦せない」
カッ、と血の温度が増す
「赦せるものか! あなたがしたことは全て取り返しがつかないことだ! それなのに、騎士団から逃げ出そうとしている! あなたを逃がすわけにはいかない!」
「それで、私の前に立ちはだかるか。ニコル、忘れていないだろうな――私とお前の
バイトンの手が腰の剣に触れる。その自然な動きにニコルは反応できない。
「――閣下、私を背中からお斬りにならないのですか」
バイトンは一度も振り返らず、背中にいるゴーダム公に向かって語りかける。そんなバイトンに、剣を抜きもしていないゴーダム公は静かに応えた。
「ニコルは
「その結果、ニコルが死んでもいいと?」
「そうなったら、ニコルの仇は私が取る」
「……わかりました」
バイトンは意識の全部を前にするように、視線の全てをニコルにだけ注いだ。
「――そういうことだ、ニコル」
柄を
木剣であれほどの切れ味を見せる
「ニコル、今ならまだ間に合う。そこを
「……断ります」
「退くんだ。お前が私の行く手を
「断ると言ってるだろう!!」
死の
足の裏から大地に根を
「僕の使命はあなたを逃がさないことなんだ! その使命を果たすことなく退くなんてことはできない! 僕はまだ
「――残念だ…………」
柄に触れていたバイトンの手が、柄をゆっくりと握り
勝負は一瞬で、決まる。
一度の踏み込みと一度の振り抜きが確実に、命を断ち斬るだろう。
それがニコルかバイトンか。ふたり共には、考えられない――。
「お前とは短い付き合いだったな……。お前を一目見て、きっといい騎士になると確信した……期待していた……」
バイトンの沈む腰と
「成長したお前の姿をこの目で見たかったが、それがかなわないのが残念だ……」
「――――っ!」
満ちた
その
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