「ハーモニカの行方」
ゴーダム
『裏切り者はバイトンだ』
レマレダールの街で聞いたゴーダム公の言葉が、ずっとニコルの胸に消えない
今、自分はその裏切り者を前にしている――品行方正で
何かの
「――――ふぅ…………」
目を閉じたバイトンが
次にニコルが
「――バイトン、正騎士?」
「閣下もなかなかお茶目な性格をしておられる」
読め、と目で
開く
紙片には、次のように書かれていた。
「……バイトン・クラシェル正騎士、この命令書を受け取った当日から合計八日間、
――休暇?
出頭命令なのだろうか、という予測を完全に
「休暇を取らせるためにわざわざ
「あれ、とは……?」
「
「引き継ぎ、ですか」
「主計官がいなければ部隊に物資は供給できない。まあ、私ほどではないが別の者でも業務が
バイトンはそう言うと、背を反らして青く遠い空に目を向けた。その横顔にニコルは、それまで
「……それでは、
ニコルは
――だが。
「待て、ニコル」
背後からかけられたその声にニコルの
「これを持っていけ」
「……バイトン正騎士?」
「お前にやろう」
「……バイトン正騎士は、これを
「
バイトンの返事は簡潔で明快だった。
「……もう、それを吹いていても楽しくないんだ」
バイトンの口元に
「ニコル、お前が持っていてくれ。
「は、はい……」
「そもそも、お前は口風琴を吹けたか?」
「え……ええ、吹けます。王都で昔、兄貴分にみっちり
実家の
「
「そうか。じゃあ、一曲吹いてみてくれ。たまには他人が吹いているのを聞きたい」
「曲は……」
「何でもいい」
バイトンは小さく
「お前が好きな曲なら、何でもいいよ」
「はい、それでは…………」
ニコルは両手に
唇は思っていた以上に感覚を覚えていて、最初の音から思い通りの音が出てくれた。
高い音を主にした、
「
バイトンはそれだけを口にして、ニコルが吹く曲に耳を
演奏は七分か八分続いた。意図的に盛り上げようとしている箇所のない、
「聞いたことのない曲だ。なんという曲名なんだ?」
「僕も曲名は聞いていません。ただ、知り合いがよく鼻歌で歌っている曲なんです」
緑の豊かな
「あまり
「いや、
「え?」
「それを鼻歌で歌っていたのは、女性だろう?」
ニコルの口が開くが、声は出なかった。出せなかったというのが正しい。
「それを吹いている時の顔、とても
バイトンがニコルに背を向け、ゆっくりと主計局の建物に向かって歩き出した。
「私の留守中は、
そう言い残し、正騎士の姿が裏口の
『……あんな人が、本当に閣下を、騎士団を、僕たちを裏切っている……本当に、何かの間違いじゃないのか…………?』
間違いであってほしい、と
が、その少年の
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