「報告書」
その日のゴーダム
そしてこの時、執務室にはもう
黒い背広の男だった――
この領地の中で最も高い地位にある公爵を前にして
「
「我々は
その全く対等な物言いに生意気な、とゴーダム公爵は口走りそうになったが、理性でそれを
『影狗』。
エルカリナ王国国王直属の
その『情報』にはエルカリナ王国を支える貴族たちの事情も
自分たちの腹の中を
何せ、
「しかし、この報告書はなんだ。私は有罪と思われる人間の報告書を上げろとは言った。だがこの中身は、無実の証明しかない」
ひとりの人物の行動を数日間に
「確かに我々も彼には注目した。作戦立案に関わる
「ですが、その調査の精度に自信がないために我々を
黒服の男はまだ冷めていない紅茶を含み、
「この数日の観察では、彼自身は全く
「彼はそういう男だ。だから
「そこが怪しいとは思いませんか? 怪しくないのではなく、怪しくなさ過ぎるのです」
相手の反応を
「ここまで怪しまれる要素を
「だが、だからと言って彼が間者であるという
「
「最後の頁……」
ゴーダム公は自分が机に投げ出した報告書の、最後の紙を手にし、その内容に目を走らせた公爵が――絶句した。
額から目元まで、血の気がさっと引いて
「まあ、本人自身に怪しいところがなければ周りから調べるまでです。その点『彼』は楽でした。『身内』と呼べるのはひとりだけでしたから」
最後の頁には、『彼』の『身内』についての情報が
「
「その時期も、例の
ククク、という忍び
「彼が死んだと周りに告げていた『身内』は生きていた。ええ、
「…………」
ゴーダム公はその最後の頁を何度も何度も
そもそもこの『影狗』に作りたくない借りを作って調査を
「ご質問がなければ、我々はこれで失礼させてもらいますよ。我々も
よく
「……手間を取らせた。国王陛下……ヴィザード一世陛下にはよろしくお伝え願いたい」
「ええ、必ず。陛下も王都、王家
「その日のうち……私は領内に『影狗』の出張所の存在を認めた覚えはないのだが」
「我々は狗です。狗は走りが速いもの。時には馬を上回りますよ――では、失礼」
黒背広の男はひょいと立ち上がり、軽く頭を下げただけで
後には、ひとりだけの公爵が残された。
公爵は机の上に広げられた報告書に厳しい目を向けながら、それをひとつにまとめる。
まとめ終わった
「入れ」
「失礼いたします」
年かさの
「早馬が入りまして、間もなくチャダ中隊が
「帰ってきたか。
ゴーダム公は
執務室からゴーダム公の姿が消え、
後には、
その執務室の机の上に、静かな
――『報告書』のいちばん上の頁には、『バイトン・クラシェル正騎士についての調査報告書』と記されていた。
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