「初陣・――彼の帰還」
ジネドの村人たちは、自分の村を
一度は、
一昨日にいきなり現れて鉱山の労働者を
それが
もうひとつは、盗賊たちを
六十人以上の規模を
最後のひとつは、中隊の指揮官と
◇ ◇ ◇
ジネドの村で
正騎士や
准騎士たちは騎士見習いたちが
三台となった荷馬車のうち、借りた二台は
一台の荷馬車には矢の
そして、もう一台の荷馬車。
こちらには重傷者は一名しか乗っていなかった。
だが、乗っていたのは重傷者だけではない。
その真ん中には、マルダムの遺体を納めた棺が
盗賊討伐の
だから
ただ、
そして、一人の重傷者とマルダムの棺が横たわるその側で。
傷を受けてはいないが、
◇ ◇ ◇
『――これを、
『……覚えてないのか?』
『覚えていません』
盗賊団が壊滅した直後、アリーシャの
二十四人をひとりで
ニコル本人が覚えていることといえば、最後に生き残った盗賊の腹に
アリーシャの代わりにチャダ正騎士もニコルから事情を聞こうとしたが、ニコルには答えようもなかった。本当に
『……
それは、一晩が明けて部隊がジネドの村を
親友で戦友を失った心の傷を抱えてうずくまるニコルに、重傷者の看病をしている騎士見習いも話しかけようとはしなかった。自分が
ある意味、マルダムを除けばこの戦いで最も深い傷を負ったのはニコルかも知れない。
彼の心に刻まれた傷は、治るのにどれだけの月日を要するか、それがわかる医者もいなかった。
「うう…………」
キュルルル、と
口に
「肉がいけないんだ…………」
よく
「しばらくは、まともに食事はできないな…………」
だが、それがなんだというんだ――自分の
その中に入っているマルダムはもう、何も食べることなどできないのだ。
その時の笑顔を思い出す度に、ニコルの心の内側に新しいささくれが生まれた。
「マルダム…………」
思えば、半月をやや
これから数年の間、共に騎士を目指して
その
自分が生きているのかどうかも自信が持てなくなり、魂が肉体に定着していることにすら疑いが持たれてきたころに、馬車はゆっくりと減速して停車した。
「…………ここは…………?」
開け放たれている幌の入口をニコルはゆっくりと見る。空の色からしてまだ昼だ。どこかの村らしく、家々が
確か、強行軍をしてゴッデムガルドに向かうはずではなかったか。どこの村や町にも寄らず、休みなく歩き続けば今日の深夜
「ニコル、下りろ。マルダムを……マルダムの棺を下ろす」
幌の入口にアリーシャが顔を見せて中をのぞき
「
移動してきた時間からもここがゴッデムガルドなはずがないと思えたし、実際、
「ああ、お前は聞いてなかったか……。帰還の道筋に近かったんで、少し寄り道をすることにしたんだ」
「寄り道って、ここに寄り道をする必要が…………?」
「あるよ。必要はある。大いにある。……マルダムをここで下ろしてやらないとな」
「どうして……マルダムはゴッデムガルドに連れて帰って、そこで
「
ニコルは拡散している瞳が納まる目を丸くして、アリーシャの顔を見つめ続けた。
「ああ、お前は知らなかったか。この村はな……」
次のアリーシャの言葉が、ニコルの心臓に細い
「――マルダムの故郷なんだ」
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