「初陣・――咆哮の終わり」
少年が見る世界は、血の色をしていた。
目の毛細血管が破れたかのように
ニコルの意識に思考はなかった。その意味では、
ニコルにあるのは、『敵』を識別する本能だけ――『味方』の
敵とは、
もしも
それが今のニコルの意識、
「う、ああ、ああ……」
敵を
そんなものは
「い、いい、い、いい……」
行け、一度に斬りかかれ――そう号令をしようとするが、
だから、二十人が一度に飛びかかるか、一斉に弓で
「あ……あ、あ、あ、ああああああぁぁぁぁ――――!!」
死ぬ、とわかっていて、
「――――ふぅっ!!」
小剣の間合いが
「うああああああああああああああああああああああああああああ――――――――!!」
温かい血の新たな洗礼を受けてニコルが
そこからは、
「うああああああああああああああああああああああああああああ――――――――!!」
ニコルの
木偶人形が
「か…………」
「かかれェ――――!!」
その
仲間がたったひとりの少年に
「い、行くぞ!!」
隊の後方についていた
「ニコル!!」
目の前で背中を見せている盗賊を、アリーシャが一刀の元に斬り伏せる。飛び出していったアリーシャの勢いに引きずられるように
「うわあ!」
「やめ――やめて! やめてくれ!」
「斬れ! 斬れ、斬れ、斬れ!」
自分でも何を
瞬く
――そして、斬り倒してきた人数を数えるには両手両足の指を足しても足りなくなってきたニコルは、最後に立っている盗賊の姿を目の前に
「ひぃ、ぃぃ、ぃぃ、ぃ――――!」
盗賊が
体から黒い
「ま――待て! 待ってくれ!」
背中を壁に、
「降参だ! 降参する! だから命だけは、命だけは――ぶふぅっ!」
全身を波打たせた盗賊が口から血の
「お前か」
最初の雄叫びを上げてから初めて、ニコルの口から言葉が出た。
「マルダムを
「マ……ル、ダ…………?」
「マルダムを射殺したのはお前か」
「ぐぶぅっ!」
引かれたサーベルの刃が、
「ふぶぅっ!」
「マルダムを射殺したのはお前かって聞いているんだ!!」
斬り
背中を壁に預けて倒れている盗賊、その前に立ちはだかったニコルが彼の腹に何度も剣を突き立てている。鋼鉄の刃が腹に突き
「こいつ――なんでまだ声を出せるんだ」
銀色のはずの甲冑を
「なんで死なないんだ! なんで!! 死ねよ、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!!」
「ニコル!!」
いつかの手加減した平手打ちなどではない。完全に本気を込めた
物も言わずにニコルの体が
「もういい! もうそいつは死んでる!! ニコル――ニコル、しっかりしろ!!」
「う…………あ…………」
ニコルの瞳の奥にあった
「ア……アリーシャ、
「ニコル、もういいんだ。
何がこの少年に取り
そんなことは少年が正気を取り戻してくれたという現実の前ではどうでもいいアリーシャが、血の臭いにむせる甲冑の上から少年の体を
「先輩、マルダムは……」
「死んだ」
事実しか告げられないことに胸を切り
「マルダムは死んだ。お前をかばって死んだ。お前はマルダムに生かされたんだ。だからニコル、お前は自分を失っちゃいけないんだ。わかってくれ、ニコル……」
「ああ…………」
制圧という名の
その中で欠けている顔は、マルダムの、ただひとりだけだった。
「マ……マルダム…………」
ここからは姿が見えない戦友のことを思って、ニコルは泣いた。
三十数人の騎士団が六十人以上の盗賊たちの
そして、死者が一名――。
「うう、う、うう…………」
戦いの経過から考えれば軽すぎるという損害だ。大勝利と言っても過言ではないだろう。
それでも。
そんなことがニコルの心を
ただ、頬を
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