「自分の剣」
「な……なんだったんだ……今のは……!?」
ニコルの手から、刀身の半分が『切り取られた』
その不可思議さを
「ニコル」
「え――――うわぁっ!」
静かな呼びかけの直後に
「訓練といえども気を
「ぐぅ…………ぅぅ…………」
胸を保護する厚い防具が一点を
「ニコル、ニコル、
「ア……アリーシャ
「ああ、あたしと同じ目に
「だ、大丈夫です」
「あああ」
「ニコル、見たか。今のが『
「私は自分の体を完全に
「さ……最適化…………」
「ニコル、お前は自分の体をまだわかっていない。自分の体を観察したことはないだろう。自分の腕の長さを、小数点第一位の単位まで把握しているか? 自分の一歩がどこまで
「あ…………ありません…………」
「お前が持っている第一の武器は、手に持つ剣などではない。お前の体だ。お前は自分の武器を知っていない。知らない武器を使いこなせるか? 自分の武器の利点も弱点も把握していないで戦えるか?」
バイトンが自分の木剣を手元に引き寄せ、その刀身を指でなぞった。
「この世に最強の武器なんてものはない。私が持つこの剣とて、
「……
「それはよくわかっているのだな。では、お前の体格の利点はなんだ?」
「それは…………」
自分の体格の利点――ニコルは苦い思いで考える。騎士団に入れる基準、ギリギリの
騎士団に入って自分の小柄さで苦労をすることになる。それはわかっている。しかし、生来のそれはどうしようもない。だから、自分は
「……わかりません……」
「わからないか。――おかしなものだな」
「え…………?」
「お前は
「え、
「わかっていないのなら、言葉にしてやろう。ニコル、お前の体の利点は、小柄で体重が軽いことだ」
「――――――――」
「わからないか? お前の小柄さは相手の的になる面積が小さくなるということであるし、体重が軽いということはそれだけ
「は、はい……」
「アリーシャはまだそれをわかっている。お前がアリーシャに対して歯が立たないのは、自分の戦い方をわかっていないからだ。いいな、ニコル。自分の戦い方を知れ。そうしなければお前は勝てず、生き残れもしない。お前は死ぬために騎士団に入ったわけではないだろう。体を
言葉を並べすぎたと、自分を
「騎士バイトン、ありがとうございます……」
「次に会った時、お前が
「はい」
「――訓練に水を差してしまったな。よし、合同の訓練はここで終わりだ。各自防具を片付け、
「なんだ、もう終わりか?」
道場の入口から聞こえてきた
同時に、その全員の目に
「もうちっと早く来ればよかったかな。ちょっとやる気になって顔を出したってのに」
この場にいる
「ダクロー…………」
「
右手に
「なんでお前がここにいる」
ダクローと同年代、二十
「ご
「挨拶にも毒が入るさ。
「意欲
「…………」
ニコルはそのダクローの言葉に、片眼を
「それに、ベノン正騎士
「事実だろう。四年前の
「ああ、覚えているさ。よぉく覚えている。――だがな、ベノン正騎士殿!」
ぶんっ、と風が
「…………!」
首筋にぴたりと木剣の刀身を当てられたベノンは
その動き、予備動作すら気配として感じることのできなかった訓練生たちが
ダクローがその気であれば今、この場でベノンの首はへし折られていた、
「俺が負けたのは
「……貴様……!」
「なんなら今ここでそれを証明してもいいんだぜ。でも
「ぐ…………!!」
「そうそう。本当の負け犬は
「それでダクロー、お前はいったい何をしに来たんだ。もう訓練は終わりだぞ」
ベノンに代わるようにバイトンがダクローの前に出る。先ほどまでベノンに当てていた剣を再び
「まあ俺も、久しぶりに稽古を受ける気になったんですよ。それで適当な相手が誰がいいかと考えてね。自分の小隊に入った新入りといっちょうやり合って、この
「訓練は終わったと言った」
「手合わせ一回する時間はあるでしょうさ。――なぁ、ニコル? 先輩が手合わせしてやるって言ってるんだ。女のアリーシャからの申し出はホイホイと受けておいて、俺のは
「い、いいですよ……」
軽蔑や
「先輩からの申し出、ありがたく
「――そう来なくっちゃな」
ダクローは歯を見せて笑い、防具が並べられている
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