「ニコル対ダクロー」
「こんなもんは必要ないとは思うが、まあ、こちらもこれを着けて動きを
「…………」
バイトンによって
「無駄口はそこまでだ」
立会人と
「試合形式の一本勝負とする。
「転ばすほどきつい
「…………はい」
「
「――始め」
悪態にうんざりしたとばかりにバイトンが下がる。そんなバイトンに、
「どっちが……勝つでしょうか?」
「でしょうか?」
バイトンはさすがにその
「ダクローが負ける要因がひとつでもあるか?」
「う…………」
「仮にも
「はい…………」
アリーシャに反論はなかった。仮に自分が問われる立場でも同じ返答をしただろうから。
「それより前を見ていろ。勝敗の行方はともかく、勝負の内容については予想はできない」
いい見世物だと言わんばかりに、百人を
「ぐ…………」
構えの基本、
まるで根っこが生えているようだ、とニコルは
「さすがに勢いで突きかかっては来ないか。まあ、最低限の脳みそはついているようだな。無学な平民の割には賢いようだ」
「…………」
「剣っていうのは基本、上背がある方が有利だ。上背のある奴は
その尋の不利を
「お前と初めて会った時の朝、覚えているよな」
「なにを……」
「俺は剣を
「つ…………」
「いいのか。俺がお前の先手を取ればお前に勝ち目なんかないぞ。お前が勝とうするなら、一か八かで飛びかかってくるしかねぇ」
そんなニコルの内心を全て読み取ったダクローが軽く、
「来ないか。ならこっちから行くぞ。俺も腹が減ってるんでな――チビ!」
「っ!」
その、背に力強い風を受けたかと見まごうダクローの前進は、氷上を滑るかのようだった。
「うぐぅっ!」
ダクローの体がニコルの
「ぐ、ぅぅ、ぅぅ……!?」
体を折ったままよろけたニコルが、そのまま尻で道場の床を打つ。自分が斬り
「…………!」
見物として群がっていた
「勝負あり!」
バイトンの腕がダクロー側に上がる。
「ダクロー、お前の勝ちだ」
「そうか。まあそれはわかりきっていたことなんだが」
「…………!」
ダクローが床に腰を落としたまま立てないニコルに
「ダク…………!」
すう、とダクローの木剣が片手で振り
「じゃあ、ここから痛めつけさせてもらうとするかな――それが敗者に対する、勝者の特権ってやつだ!」
「やめろ!」
予感に飛び出していたアリーシャが割って入り、ニコルに
その場の全員が、一秒後の
「ぐっ!」
板張りの床が高い音を発して
ダクローの剣を
剣が振り落とされた勢いを利用し、大の大人ひとりを丸めるように空中で一回転させたバイトンが、ダクローの
「お、お前……!」
「勝負はついたはずだ。そこからの
「ちぃっ……!」
「決着は着いた。お前はニコルよりも強いと証明された。それ以上の何を望むのだ」
「――このガキの心をへし折ってやるのさ!」
ダクローが
「
「なるはずがないだろう。そんなにニコルが
ダクローは立ち上がろうとするが、かなわずよろけた。したたかに打ち付けた
「ニコルを憎む理由もだいたいわかっている。――ニコルに、過去の自分を見ているからだろう。お前が十四歳で騎士団に見習いとして入り、希望に燃えていたころの自分をな」
「
ダクローが兜を
「それに、今のお前がニコルの心を折ることもできない。ニコルの顔を見てみろ。お前に負けた男の顔をしているか?」
「なにィ――」
全てが冷静な騎士の言葉に、
「つ――――」
アリーシャが
「……こいつ……!」
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