「兄弟になった日」
『……………………』
『おばさん、おばさん……目を……目を開けてくれ……来たよ、俺と、エヴァンスが…………』
『――
『…………ええ……どこも、どこも、痛くも、苦しくもないわ……もう、痛みも、苦しみも感じなくなっているから……。もう、
『おばさん、冷めたこというなよ。おばさんの
『ええ、ええ……エ、エメスのお
『おばさん、もっとがんばれよ。息子は
『ふふ、ふふふ……。お、夫を早くに
『母さん、しっかりしてくれよ。――今、母さんがここで死んでしまったら
『俺、ではないですよ、エヴァンス……。あなたはれっきとした公爵閣下、ご当主様。そんな
『あ、ああ、聞くよ、おばさん。それくらいさせてもらうよ。長い付き合いだもの……』
『ダ……ダリャンさんも、エヴァンスと知り合い、もう十何年……この子のことは、もうよくわかっているとは思いますが、この子は体は大きいのに、本当は気の小さい子……。今は、そう見せないようにできてはいますが、人前を外れればそうできない……
『か、母さん……俺は……私はそんなに泣き虫ではないよ……』
『ふ、ふふふ……もう今、ここで泣き出しているのに、
『……おばさん』
『母さん……』
『こ、この子は、エメスのお嬢様の前でも、
『おばさん、これ、指輪……おばさんと
『ダリャンさんには、エヴァンスのために、とてもしんどいことを、ずっとさせてしまう……だから私も、その
『これは、息子が
『ダリャンさん、お願い……どうか、これを受け取って……』
『……兄ぃ、ダリャンの兄ぃ、受け取ってやってくれ。私に
『――ならひとつ、おばさんにお願いがある。それを聞いてくれたら、受け取るよ……』
『こんな……こんな私に、できること……?』
『おばさんにしかできないことだ。――俺を、おばさんの息子にしてくれよ』
『……兄ぃ?』
『だったら、俺にもそれを受け取る資格ができるよ。そうだろ? ……それに、指輪のことを
『ダ……ダリャン、さん……手てんん』
『……俺が生まれたてのころ、両親に、母親に捨てられたっていう話は、もうとっくの昔にしたと思う。
――俺、ずっと、親ってものを
だから、ひとりで
でも、エヴァンスと
春は、野に
夏は、
秋は、
冬は、雪の日に雪だるまも作ったな……覚えているかい……?』
『よく……よく覚えて、いますよ……全部、昨日のことのように……』
『――俺、おばさんを、俺のおっかさんのように思ってたよ。
こんな優しい人が、俺のおっかさんだったらいいなって。
ひょっとしたら俺の母親も、おばさんくらい優しくて……やむにやまれない、どうしようもない事情があって、俺を捨てるしかなかったのかなとも……。
それに、母親が俺を捨てないと、俺、ここに来ることもなかった。エヴァンスと
だから俺、今、本当の母親のこと、恨んでない。死んだあとで天の国に行った時に、俺をどうして捨てたのかその事情を聞けば、知ればそれでいい。
俺、おばさんのおかげで、そう思えるようになったんだ。
……おばさん、あんまり気持ちよくない話だろ? こんな見てくれもよくない男に、こんな風に思われてさ……』
『……ううん、ううん。そんなことないわ。ダリャンさん、私もあなたのこと、エヴァンスの本当のお兄さん……私の息子同然だと思っていたわ……本当よ……』
『なら、
『……今日一日だけなんて、
『母さん……』
『お、おばさん……』
『ふ、ふふ、ふふ……おっちょこちょいね、ダリャンは……おっかさん、て呼んで良いのに……』
『――おっかさん……』
『ふ……ふたりとも、もう
でも、それでいいの……人はね、自分の本当の涙を見せられる人が、誰か、誰かひとりでもいなければ、生きていくことが辛いのよ……。誰かひとりでもいれば、それだけで人は幸せになれる……生きていくことができる……。私には、こんな時になっても、ふたりもそんな人がいた……優しい息子たちが……』
『……母さん……母さん……』
『おっかさん……』
『あなたたちは、ふたりとも、私の息子……兄弟分なんかじゃない、本当の兄弟なのよ……。ダリャン、エヴァンスを支えてあげて……。エヴァンス、ダリャンを
『ああ、母さん、わかってるよ……』
『……う、うう、うう……お、おっかさぁん……』
『い……いい人生だった……本当に、いい人生だった……。優しい息子を持てて……命が
『――母さん?』
『おっかさん!』
『…………ぅ…………ぅ……………………』
『母さん……母さん……!』
『おっかさん……おっかさん!』
『――――――――』
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