「第六の女性」
早朝の医務室は無人だった。
無人というだけあって、医師もいなければ寝台に横たわっている
「ちっ。相変わらず医者のいない医務室なんだな。これじゃ
毒づきながらアリーシャは寝台の上にニコルを下ろす。続いてニコルの
「ああ、あたし、もう行かなきゃいけないんだ。というか
「お
「い、いいんだよ。
桜色、というよりは
「だから困ったらあたしを呼ぶんだぞ。すぐに
「でも、先輩にご
「いいから言うとおりにしろ。先輩命令だ。
「は、はい」
寝台の上で布団に包まれるニコルは首を
「ったく、用事がなかったらお前が元気になるまでここでつきっきりで看病してやるんだが、
ひとりで物事を進めながらアリーシャは立ち上がった。
「元気になったらあたしに報告しに来るんだぞ。必ずだぞ。それまで
「アリーシャ先輩、ありがとうございました」
「うっ」
背中を見せて去ろうとしたアリーシャがぐらついた。
「な、なんか
ぶつくさといいながらアリーシャは医務室を出て行く。それでようやく、十何時間ぶりかの
「アリーシャ先輩か。強くて
思考の
早朝の訓練の後に朝食、そこから日常の仕事に移るのが
食堂はどこなのかまだ建物も見ていない。
「お
「失礼します。アリーシャという方に言いつけられて来ました」
引き戸が
「ありがとう…………わざわざすみません……」
「お食事もお持ちしましたよ。わたしが食べさせて差し上げます」
「本当に助かります……見ず知らずのあなたにこんなことをさせてしまって……」
「見ず知らず?」
小さな椅子に座っているらしい女性の、
「たった六日間会わないだけでそんなにわたしたちの
「ぶっ!!」
「
ハンカチを片目に当ててよよよ、と
「ああ、『あーん』はそんな大きくお口を開けなくて結構ですよ。では最初のひと
「なんでフィルがここいいるの!?」
「いてはいけないですか?」
「いけなくはないけど!」
ふわふわとやわらかく
見慣れたメイド服、緑色のやわらかそうな髪、極めつけのアメジスト色の瞳――どこからどう見てもフィルフィナだった。
「ぼ、ぼぼぼ、
「旅というほどのものでは……
「さ……三時間とちょっと……」
正確には三日とちょっとの時間で百六十カロメルトを
「フィルならそれくらいのことができるのは知っているからそこは
「ニコル様がこちらにいらっしゃってるから……」
「そのもう一段階深い階層の話!」
「とりとめのない話も
「できるだけかいつまんでお願いするよ!」
「
いつの間にかフィルフィナは湯気が立ちのぼる湯飲みを両手で抱え、口をつけていた。
「ああ、
「美味しいじゃなくてさぁ!」
「はいはい、わかっております。要するに、初めてニコル様と長い距離を生き別れになってしまったうちのお
「無事到着したっていう手紙は、
「そのお手紙も着くまでに数日かかるわけですから。そんな数日を、
「え、えっ?」
嫌な予感にニコルはそっぽを向こうとしたが、首は期待ほどに曲がってくれなかった。
「ここに着いて二日、いや、三日目ですか? ――いったい何人の女性方と仲良くなられました?」
「え、あ、その、えっと、だから」
「五人ですか」
「どうしてわかるの!?」
ニコルは絶望しながら問うていた。
「今、ニコル様の目が五回、左右に
「うっ!」
「ふふ――」
「――ま、というわけでわたしとしてはニコル様がご無事であるとお嬢様に報告したいわけですが……どうやらそのご様子だと、『ご無事』とは少し言いがたいようですね……」
「フィル……」
「さあ、ここからはニコル様の番です」
小さな
「リルルお嬢様には内密にしておくことをお約束します。この地に着かれてから何があったかを、ニコル様の味方、ニコル様の敵の敵、この天使のように可愛く可愛く愛らしいフィルちゃんにお話しくださいませ。フィルはいつでも、ニコル様のお力になりますよ」
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