「先輩の名はアリーシャ」
ニコルはそれほどの時間を気絶してはいなかった。
「おい、
「あ…………」
小さくぺちぺちと顔を
「お、目が覚めたな」
女性の声……確かに女性の声だった。訓練場の表、
「女の人……?」
「女じゃない。あたしにはアリーシャ・ヴィン・ウィレームっていう名前がある」
「ああ……」
ニコルは
アリーシャと名乗った女性の
「
「ああ。ったく、防具の下がアザだらけだったぞ。どれだけ痛めつけられたんだ。――お前、ニコル・アーダディスだな?」
「はい…………」
ニコルは
「お前の
「は、はい…………」
ニコルは起き上がろうとは思ったが、体が全く反応してくれなかった。
だから、できることといえばまだ完全に開かない目で、自分を見下ろしてくれている女性――アリーシャの姿を見つめることしかできなかった。
「…………」
顔を見る限りは、若い女性だった。ニコルより少し年上の気配……准騎士の徽章をつけているということは成人であるからして、十六
短めにしている
「お、おい、あんまりそんな目で見んな」
「…………お前、
「そうですか……?」
「それに、さっき服を
自分の内面に
「な、なんかお前と顔を合わせていると変になりそうだ。医務室に連れて行ってやる」
「でも、また僕は立てなくて……」
「あたしが運ぶに決まってるだろ。――よいしょ、と」
ニコルを横向きにしてアリーシャは、
ニコルが想像したようにアリーシャの腕はニコルの体重を難なく持ち上げる。自分で自身の体を支えられない、
「あたしは准騎士なんだ。お前くらい抱き上げられなきゃ、准騎士なんて務まらないぞ」
「ああ……やっぱりそうなんですね……」
「
「……決まりの上では、最短で……准騎士になれるのは十六歳からですから……」
「そうだ。あたしは
その名を
「お前もバイトン正騎士の下について、あのダクローとカルレッツと
「あの……アリーシャ
「うっ」
ニコルが呼びかけた
「どうしました?」
「いや、今ちょっと、電気みたいなのが頭に走って……」
「アリーシャ先輩……あ、いえ、失礼な呼びかけ方でしたか。じゃあ、ウィレーム先輩」
「アリーシャ先輩でいい!」
「一度決めたことを男が簡単に変えるな。
「はあ……わかりました。アリーシャ先輩」
「ううっ」
ニコルの呼びかけにアリーシャはいちいちビクビクと
「先輩、具合がお悪いんですか?」
「ちょ、ちょっと
「はあ」
「で、なんだ。ああ、あたしがダクローとカルレッツを悪く言ってるのが気になるか」
胸の
「あたしもカルレッツに色々と
「わかりません」
「
「札束を二つ? 二百万エルですか? で、先輩はそれを
「受け取ったよ」
「はい?」
「受け取った札束で、あいつの
その時の痛みを想像し、ニコルは無言で顔を歪めた。
「そのあと、札束をあいつの口に突っ
「は……はい」
二百万エルを相手に食わせるという以外において、ニコルはアリーシャに同意した。
「よし。お前はなんていうか、か……可愛いな。いや、お前の素直さというか、
「昔から女顔だってよく言われています。そう言われるのは慣れました。ですから、
「そ、そっか。まあお前もあたしを乱暴でがさつな女とか思ったかも知れないけど、あたしだって女らしい面がないでもないんだぞ。は、花の名前とか、五つくらいは言えるし」
「はい」
「ま、まま、まあ、こうして
「ありがとうございます。アリーシャ先輩って
「あ、当たり前だろ。あたしは先輩なんだ。凄いんだ。いいか、ちゃんと頼るんだぞ。ひとりで無理しているようならこっちから頼られに行くからな」
「はあ」
自分の足が雲を踏んでいるような
「な、なぁ…………ひとつ、大事なことを
「なんですか?」
「……………………お前、彼女とかいるか?」
「はい?」
「いや、なんでもない」
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