「ニコルの平穏な、最後の夜」
ずぶ
蒸気風呂の
少ない蒸気で部屋を満たし、温度と
「気持ちいい……」
ごくごく限られた家族しか使わないだろうという奥に
「でも、風呂は体が温められて
皮膚を固い植物の実でこすると、うっすらと
体の全部を桜色に染めたニコルは最後の幸福なうめき声を上げ終えると、最後のトドメとばかりに冷水を四
「ああ、そろそろ蒸気を止めてもいいですよ。もうすぐ出ます。ありがとうございました、本当に気持ちよかったです」
「それはよかったです」
蒸気を送る小さな口を通した隣の
「な、ななな、なんでそこにサフィーナ様がいるんですか!?」
「
「こ、こういうのは、メイドとか下働きの人間がやるものなのではないのですか!?」
「
「わああああ!」
「あ、見えないではないですか」
開いた引き戸の
「どうして開けるんですか!!」
「湯気の様子を見ようと……」
「湯気以外も見えてしまいます! ゆ――湯気の様子はいいですから、引き戸をお閉めください!」
「ですが、湯気の様子を見るのはここで湯を焚く私の責任であり義務ですから……」
「もう必要ありません! ほら、もう
湯気で
「サ、サササ、サフィーナ様、ずっと湯気を送ってくださりありがとうございました! ぼ――
「
ニコルが今し方開けた、屋外に通じる換気用の小さな窓いっぱいに今度はサフィーナの顔の全部が現れていた。
「サフィーナ様ぁ!!」
「いえこれは、痛みを
ニコルは
◇ ◇ ◇
ほうほうの
「これから閣下が写真を
「お前を撮るんだ」
「え?」
総勢四千人の規模を
「お前が騎士見習いになった晴れ姿、お前の
先ほどのどちらかというと
「さあ、ニコルもさっさと髪に
「うわわ」
それからは何十枚という
一枚の写真を
笑顔を保ったまま三十秒以上を息を止め続けるのを数十回
「おかえりなさい、ニコルちゃん」
「おかえりなさいなの、ニコルにいさま」
「ただいま帰りました……」
「あら、騎士見習いの服じゃないの。ニコルちゃん、試験に受かることができたのね――おめでとう!」
「ニコルにいさま、かっこいいの」
「あ……ありがとうございます……」
「って、もう
「え……ええ、まあ、その……」
試験も大変だったには違いなかったが、どちらかというとその後の方がニコルを
「公爵様のお食事のお誘いを断らせてしまったの? 私たちを断ったらよかったのに」
「そうはいきません。こんな僕のお祝いをしてくださるといってくれたのはこちらが先なんですから。それにその
「それならよかったわ。ゴーダム公爵様は、そのご一家は大変気持ちのいい方々よ。ニコルちゃんもきっと気に入られると思っていたわ。奥様もニコルちゃんのことをとても
こんなものでごめんなさいね、とテーブルの上に料理を広げながらコノメの母は言う。それでも、母ひとり
「公爵様ご一家のお子様は、サフィーナお
「やはりそうだったんですね」
大きな
「だから、ニコルちゃんみたいな男の子が自分の家に生まれていたら、と思われるのよ。きっとこれからも可愛がっていただけるわ。ニコルちゃん、とても幸運ね」
「あ、ありがたいことです」
「――だから、少し
「えっ?」
その
「
「はーい、なの」
コノメの母が、汚れた皿をカゴの中に入れて家の外の洗い場に出て行く。
ニコルは閉まった扉を見つめ続け、自分の心で引っかかった言葉の意味に首を
◇ ◇ ◇
ニコルは
『――
僕はこのゴッデムガルドでがんばります。リルル、あなたとの約束を守るために――』
百六十カロメルトの旅をして
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