「水の中の認証」
大量の水を巻き上げ、激しく波打つ水面の下にニコルとレプラスィスの姿を見失ったゴーダム
「ニコル!」
自らも
背の高いガルドーラでも
ニコルたちが作った水柱が消え、山脈のような波が遠ざかっていっても、そこに
まさかそんなことはない、
「ニコル!!」
再度、声が割れるほどの呼びかけをした時、水面が盛り上がった。
「――ぷはぁっ!」
入道雲が首をもたげるように
続いてびしょ濡れになった青毛の馬の首が波を割り、
「は、はぁ、は――はっくしょん!」
レプラスィスの背に乗ったままで上半身を現したニコルが、ぶるっと体を一度震わせると、そのまま盛大なくしゃみをした。
「は、ははは、はは……この水の冷たさまでは計算に入ってなかったかな……春でもまだ四月だもの、冷たいよね……くしゅっ!」
「ぶしゅぅっ!」
ニコルのそれにつられたのか、レプラスィスも口から
「はは、レプラーも冷たいのか、この水は……。でも今まで体も頭もものすごくカッカとしていたからね。冷ますのはちょうどいいや。――レプラー、体は無事かい?
自分の背中から身を乗り出してくる少年に、馬は
「そっか。どこも痛くないのか。よかったぁ……
ぶるると喜びに
「無事か……。ひやひやとさせてくれるものだ。まだ
「――閣下!」
レプラスィスの背の上でニコルが
「閣下! わざわざこんなところに入ってこなくても! ずぶ濡れではないですか!」
「なにを言う。お前は今し方まで、生きるか死ぬかの
「ニコル――!!」
エメス夫人の声が
一頭はエメス夫人が自ら
「ニコル、無事ですか! け、けけけ、
「目の前で生きているだろう。エメス、お前は気が動転しすぎだ」
「動転もします!! 私はニコルがあんな勢いのまま止まれないと聞いて、
「す、すみません、
「母上と呼びなさいと言っているでしょう!!」
「お
「エメス、ニコルを
「そんなことあなたに言われるまでもありません!! あなたがいちばん悪いのです!!」
妻の文字通りに
「ニコルは
馬から飛び降りたエメス夫人が
「お母様、もうその辺で。お
「ニコルが大怪我をしても、そんな
「お、お母様、閣下をそれ以上お責めにならないでください」
レプラスィスを泳がせ、ニコルはエメス夫人が片足をかけている柵の側まで近づいた。
「
「ああ、ニコル。あなたはなんて
沈んだ表情で頭を下げる少年のしおらしさに、夫人の怒りの色はどこかに消えていた。
「わかりました。お前の
キッ、と目線を帰路の方に向けたエメス夫人は、馬に
「ニコル、助かった。礼を言う」
妻の小言の連打から
「エメスに火が着いたらあの口は止まらない。私は
「お父様、お母様の
「わかった、わかった。私が悪かった。――それでな、ニコル」
「はい」
「合格だ」
「はい?」
わからない、という顔をしたニコルに、ゴーダム公は微笑みかけた。
「ははは……この
「この一部始終はお前の騎士団入団を巡る試験だったのだぞ。そしてお前は合格基準に達した。騎士団入りおめでとう、といったところだ。――そうでしょう? 閣下」
「そんなところだ。ニコル、よくやったな――」
「わあ!」
ゴーダム公がその大きな手でニコルの
「ニコル・アーダディス。貴公をゴーダム
「後日、改めて正式な
「あ、ありがとうございます、閣下……」
「お父様、ずるいですわ。ニコルを自分ひとりで抱きしめて」
柵の上に
「ニコルを抱きしめたくば、お前もこっちに入ってくるといい。――この池から出たら
「もう、お父様ったら。さすがに濡れたくはありません。この服で濡れるととんでもないことになりますから」
「ははは。――さあニコル、上がろう。エメスが風呂を用意してくれているはずだ。多分蒸気風呂だろうが。
「はい! 閣下!」
ゴーダム公の腕によってレプラスィスの背に
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