その十「ふるさとからの旅立ち」
フォーチュネットの庭に、少しの時が流れた。
五
元々、体が強くはなかったのだろう。
一ヶ月と少しの間、
母
あの
両親を
最初は
そして、自然に単独での
両の手で包めてしまうほどに小さかった
笑い声の絶えない、幸福な時間が流れた。
春の
だが、何事にも終わりは存在する。
その時は、
◇ ◇ ◇
――四月。
先週までの
天の向こう側が
そんな気持ちのいい陽気の中で、フィルフィナはひとりだった。
リルルは父親に連れられて朝から出かけている。つい先日、八
おそらく来年には追いつかれ、再来年には
楽しみだった。
今はわずかに視線を下げて見つめるリルルを、見上げて見つめることができるとは。
「――幸せですね……」
幸せ。
故郷の里で王女として
それが、この小さな世界にしがないメイドとして暮らす自分には感じられる。
「ふふふ……」
特に変わったこともない、いつもの時間がいつものように流れる、
フィルフィナはようやくその
しあわせという
「にゃ」
体の毛色、模様はまちまちだが、右の耳の先だけは総じて黒い猫たちだった。
「あら」
フィルフィナの
「おはようございます。
フィルフィナの
フィルフィナは、自分に注がれるそんな
――そして、気がついた。
「ああ…………」
少女の口元がほころぶ。
「あなたたち……そうですか……」
「あなたたち、巣立ちを
「にゃ」
五
一年と四ヶ月。体が
自分と
血を残すために。
「おめでとうございます。あなたたちも立派に育ったのですね。本当におめでとう……」
にゃあ、と
「――それで、お
「お
「にゃあ……」
出発を
この
そんな幸運を
「――あなたたち、心配は
「お
この五
「ですから、あなたたちがいなくなってもお
「にゃあ」
よろしく
「では、この庭で暮らす
フィルフィナが小さく
「まず、道を横切る時は十二分に気をつけなさい。あなたたちは動きはすばしこいはずなのに、
「次に、口にするものにも気をつけるのです。食べ物や水には十分注意しなさい。色や
「そして、次に――」
次に。
次に言葉にしようとしたことの重さに、フィルフィナはわずかに
「必ず……必ず、しあわせになるのですよ……」
「命は、生まれてきたからには、しあわせにならなければ
立派だった……本当に立派だった、あなたたちの
フィルフィナの右目から、細く
「……旅立つといっても、あなたたちは王都の外に出るわけではないのでしょう。
「にゃ」
「そして、子どもを作り家族を成したのならば、たまにはこのお
「にゃあ」
フィルフィナに
「では、お行きなさい。わたしがお見送りさせていただきます。あなたたちが立派に巣立っていったことを、お
庭の東、
最後にまた横一列に並んで頭を下げ、
そして、門に向かって縦一列で歩き出した。
フィルフィナが先に正門に走り、大きな鉄の門を開ける。
五
まるで
それは、自分たちが五
だから、兄弟たちの
時折、
「――にゃ」
別れの
まず、東に二
次に、東の十字路の方で、東に直進する兄弟、北に折れる兄弟と分かれた。
西も同じように、十字路で西に直進する兄弟、南に折れる兄弟と分かれていった。
四
門の前にたたずみ続けるフィルフィナは、東と西にまっすぐ進んでいった
「――しあわせに、なるのですよ……」
「にゃあ」
フィルフィナの足元で、
その意味を察して、フィルフィナは
「ああ……あなたは
「にゃあ」
ただ一
時を置かずしてこの庭にも、ここから旅立った
「よかった。五
「にゃ」
目の
がさがさという
「にゃ」
「ふふふ……」
この
「良い日でした……まだ終わってはいませんが、本当に良い日でした」
気絶し、わずかにぶるぶると
「――さて、どうしましょうかね。
ネズミの
そんなネズミに、フィルフィナは言った。
「いいですか、一度しか言わないので、よく聞くのですよ」
エルフの
「本来ならこの場であなたの息の根を止めるのですが、
――いいですね?」
チュウ、と
「――さ、て」
旅立っていった
ここをいったん
そんな、だいじな、だいじな故郷だった――。
「お
胸の中で
フォーチュネット
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