その八「そして」
「そうだったんですね……」
リルルが愛した
まだ、正午になるには十分な時間があるフォーチュネットの庭の
明るい金色の
フィルフィナにはその
少年の名は、ニコル・アーダディス。
母はリルルの
そんな
まだ七
少年は、ニコルは、自分の泣く声が風に乗り、
リルルの苦しみを
声を上げない
「――ごめんなさい、フィルおねえさん……」
メイドに背中を見せて泣いていた少年が、服の
その
「男の子の
「
横顔を見せたニコルにフィルフィナは
もっとも、その三度ともを自力で
「フィルは知っています。ニコルちゃまがあの
「……
もう、その存在に『あの』とつけなければならない痛みをこらえながら、少年は言った。
「あの
まだ
立てた木の
それは、
「
「…………」
なれますよ、とフィルフィナは音にならない声で
「――申し訳ありません、ニコルちゃまがわざわざいらしてくださったのに、お
「仕方ないです。あの
「はい…………」
フィルフィナはこの少年の
リルルと出会ったのと同じくらいに、この
「フィルおねえさん、リルルのこと、どうかよろしくお願いします」
「かしこまりました」
「ニコルちゃま、お
「はい」
ニコルははにかんだ。その
「じゃあ、
「帰り道、お気をつけて。お
最後、
フィルフィナも
「――――」
庭の真ん中に立ち、そこから視線を
今までこの場所で感じたことのない
この庭に住まう存在がひとつ、いなくなった。その
メイドとなって初めてこの庭に立ったあの時の庭と今の庭は、別世界であるとも思えた。
「
それだけで、この世界はこんなにも変わってしまうのか。
それだけで、この心はこんなにも
「わたしは……こんなにも弱い者だったのか……」
だが、それは
だから、優しい顔で言えていた。戦士でしかなかった自分より、ずっといい――。
風が吹く。昨日よりは冷たくない、緩やかな風。庭の真ん中に立つ少女を
「――お嬢様」
今日、まだ顔を見せてもいない主人を
朝、閉ざされた
ニコルが遊びに
悲しみは
今のリルルの薬は、本当のところは、時間しかないのかも知れない。
痛みに
「……それは、あの
他人の痛みに寄り
感じ続けることのできる痛みを、リルルは忘れないようにじっと大事にする。
それは、
「――しかし、考えないようにするのも大事なのですよ、リルル……。考えないことは、忘れてしまうことではありません。心の引き出しにしまって、
エルフのメイドは空を見上げ、そう
「しかし、あの
フィルフィナはこめかみに指を当て、この数週間における庭の情景を思い起こした。
「……以前のようにとはいかないとはいえ、それなりに
ネズミのように速く逃げるものは無理だとしても、動きの
「
そこからが、わからなくなる。
「
わからない。体力を
「――ああ! 考えていても
絶対量が増えている自分の独り言を
「――――」
いくつかの衣類に赤い血がついているのを見てフィルフィナの胸は小さくなく締め付けられたが、喉の奥から込み上げてくるものを殺してフィルフィナは両の
手が切れるような冷たい水と顔にぶつかってくる
干した
水を切っても重いシーツを広げて
……ィ。
フィルフィナの耳が無意識に
……ィ。
「ああ……もう……」
フィルフィナの顔が左右
声がするのは、ここからは数十歩以上
「……ネズミ
下着をたらいの中に置き、手を
ポケットから一本の棒状のものを取り出す。
悪さをするネズミは光も差さない
「『ネズミも鳴かねば
そう、口の中でぼやきながらフィルフィナは音を立てず、しかし風のように足を運んだ。
「ここですね」
頭を入れようとしてギリギリ入るかどうかという入り口。わずかな風が
「これが本当の『
勝利の確信に
「さ、
ぼんやりとした光の
フォーチュネット
◇ ◇ ◇
自分の
「な、ななな、にゃに!?」
悲鳴の
外では天地が割れたのかと目を白黒させて
フィルフィナの足音であるのは想像がついたが、まるで一歩ごとに
「お
「な、なななな、なに? どうしたの?」
いつもは必ずするノックを省略して
「お、おおお、おおおおお……」
「火事?
「お、おお、落ち着いて、落ち着いて、き、
「話すフィルの方が落ち着いてよ」
取り乱しきったフィルフィナを前にリルルは
「こ、ここ、子どもが、子どもが……」
「子どもがなに? ニコルの近所の子たちが遊びに
「ち、ちち、
「何がどう
「ああ、もう、どう説明したらいいのか……すみません、
リルルの返事を待たずフィルフィナは水差しの水をコップに注ぎ、一気にそれを
なみなみと
「す、少し、落ち着きました……」
「で、なぁに? フィル、
「子どもがいるんです!!」
「だから」
「あの
開いたリルルの口が開いたままになり、目は
「あの
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