その七「猫の夢」
うずくまったまま、リルルが
「……ねこさんが……カラスに殺されたんじゃないって……?」
「そうです」
フィルフィナはうなずく。確信を持って。
「
見上げてくるリルルの視線を受けながら、フィルフィナは軽く
「お
中段まで上がった太陽の光を
「――
「あ…………」
リルルの熱く
「お聞きには、なっていないでしょう……?」
「でも、それは
「四羽のカラスに
エルフとしての自分の
「
またも冷たい、
「あの
だから
「……こ……このことから、導き出せることは……」
フィルフィナは論理を連結させる中で、自分でも予想していなかった深い領域に
「あの
「――――――――」
元気だった時、リルルの
「お
心の中心に発生した強力な重力場が生む引力に、身も心も
「
それは、まだあの
「まだ太陽も顔を出さない時間、買い出しに出かけようとわたしが
フィルフィナの足首が
「暗かったとしても、少し気をつければ目に留まったかも知れないのに……目に留まったのであれば、あ、あ、あんな無残な姿にされることもなかったのに……」
――『死』が、フィルフィナの心に無数のヒビを入れる。幼き時、先代の女王である祖母の死に立ち会った時にも感じたことのない感覚だった。
まさか、そんなものを、
「お
フィルフィナはリルルから視線を移し、
何もかもが、熱くぼやけてしか見えなかった。
「あなたは
フィルフィナが流す
「
ぼやけきった視界を幕にして、フィルフィナはそれに
それは自分が体験したことのない、低い低い、地を
一秒ごとに、自分が少しずつ死んでいくのがわかる。が、それは大した問題ではなかった。それはもう止めようのないものなのだ。だから、気にしない。しても仕方ない。
「ああ……」
ああ、これは
「あなたが
この
冬の朝の、体を
もう、見ることも
遠くなりきった五感、その
――今、求めるものは、ただひとつ。
「あ……あああ……」
その感覚に命の
すると、
すぅ…………すぅ…………。
「あなたは、あなたは……あなたは……」
心が、
あの時もあんな時も、
生と死の
ああ、よかった…………と。
「あなたは、お
今まで殺せていた
――思ったが、フィルフィナには、こうとしか思えなかった。
「なんと、なんというしあわせな
それは、激しい
フィルフィナの
今は、この体を
「あ……ああ、あ、あああ、あああ…………!!」
今までに上げたことのないような声、自分がそんな声で泣くなど、想像すらしなかったような声で、エルフの少女は泣いた。
冬の空の高みに、エルフの少女の
「ね……ねこさん……」
リルルの視線が
「ねこさん……天の国で待っててね……
どれだけの時間が過ぎたかわからなくなった
「きっと、
――天の国。
その世界では、生前に出会ったものたちが
その世界に
ただ、その存在を願う者たちが多くいる――それだけが、確かな事実だった。
「そ……そう、そうですよ……」
流れる
「あんなにお
自分が天の国に
「あなたは、天の国で、お
死者との
あらゆる
それを
「フィル……!」
リルルがくずおれたままのフィルフィナに
「リルル…………!」
小さな命の、大きな存在を天の向こうに送る歌は、まだ終わりを見せないようだった。
◇ ◇ ◇
『――お
少しの時間の後。こんなやり取りがあったことを、
『
『どうして……あのカラスは、ねこさんの体をあんなにして……』
『あのカラスたちは、命をつなぐためにあの
『でも……』
『お
『それは……』
『それが仕方ないことだとか、悪いことなのだとは、わたしの口からは申しません。わたしにもその答えを口にする資格はないのです。ですからお
『…………』
『ただ、命とはそうやって成り立っているもの、命と命を
『…………うん…………』
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