その四「等しさの意味」
暖かな陽気がいつしか
春から夏、そして秋に移って――今は、冬の入り口。
風に乗ってやってきた落ち葉が、門から
フィルフィナがこの
その日もフィルフィナは庭に立ち、
――声も音もなく近づいてくる、静かな殺気のようなものを覚えながら。
◇ ◇ ◇
「最近、ねこさんを全然見ないの」
「秋の始めくらいは毎朝『にゃー』って起こしてくれたんだけど、最近はめっきり……フィル、知らない?」
「あの
庭を
「……確かに毎日ではないですけれど、見ますよ。
「じゃあ、どこかに行ったんじゃないんだ……」
リルルの口元が安らぐ。ただ、顔のかげりの
「冷える日も多くなりましたから、あんまり元気じゃないんでしょう」
「そうかなぁ。冬でもそこら辺をのしのし歩いてたんだけど……」
「もうおじいちゃん
「フィル、ねこさんを見たら伝えておいて。
「かしこまりました。さ、お
「うん」
ぱたん、と窓が閉められる。窓ガラスの向こうのリルルがテーブルの上で本を広げだしたのを横目で
「……確かに、見なくなりましたね……」
気にはしていたことだった。
自らをこの庭の王であると
「確かに
それも、フィルフィナの
「また一段と
細まった目の中で
「――ネズミ!」
「にゃ!」
あの
「にゃっ」
両の
「っ!」
フィルフィナの手がポケットの中の小石をつまみ、手首がバネのように
命中を確かめてフィルフィナは
「あなた……」
「にゃー…………」
全身を
「本当に、
口と心の中で二度
わずかに
「あなたが
「…………」
この庭で
――それが、今。
「ちゃんと……食べていますか?」
「にゃ…………」
顔だけを上げ、
「……体調が
「…………」
「わたしは、なるべく他者の領域には
「……にゃ」
「待ってください」
そのままねぐらの方に歩き出そうとした
「あなた、あのネズミを追っていたのではないのですか?」
「
不意に、フィルフィナの背筋を小さな
そういえば、一度も見たことはなかった。
この
「あなた……」
リルルが
考えられるとすれば、この
だから、リルルとこの
リルルは、言っていた。
「『この子は飼ってはいないけど』と……。そういうことなのですか……」
フィルフィナが猫を見つめる
リルルとこの
だから、一方的な
「あなた……本当に
みすぼらしい外見でも、自分の力だけで生きようとするその精神の在り方に、フィルフィナは思わず
こんな場所で、こんなに出会いがたい心に出会えるとは。
「……失礼しました。わたしは
小首を
「あそこで転がっているネズミを
「…………」
「確かにお
「――にゃ……」
うなずいたのか
「本当に、お願いしますよ……」
冬の乾燥した空気が、
「そうなったら、わたしはお
幼い少女の心を
「……屋外で生きる猫は、十年も生きれば
フィルフィナは、あの猫とこの庭で出会えたことを、幸福なことだと思った。
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