「そして歴史へ、そして伝説へ」(本編完結)
ここでは
まず、ニコル・ヴィン・アーダディス。
彼はアーダディス騎士王国の初代国王として
彼が
アーダディス騎士王国はその領地の小ささから、『
人間と
アーダディス騎士王国はその
小柄な体に銀色の
ニコル・ヴィン・アーダディスは英雄だった。英雄として人々の心に記憶され、語り継がれた。
そして、リルル・ヴィン・フォーチュネット。
彼女は自分の十八歳の誕生日に
余談とはなるが、その七人の子供がたどった
一人目の長男・アルス。
彼は産まれた直後にゴーダム公爵家に養子と出され、サフィーナの息子となった。
だが、彼を
彼は、幼少のころからほぼ全ての階層の者たちと
十六歳の成人の日を
アルスの才能を見抜き、愛したコナス一世は彼を自らの
アルス本人の反対以外は満場一致で
彼が最初に手をつけた政策は、
コナスが
これもまたコナスが常日頃ぼやいていた、『権力を持つから手放すまいとするんだ。最初から持っていなければ握り込むこともないのさ』という言葉への回答でもあった。
突然天から降ってきたような地位であったからこそ、アルスはそれに
自らが五十五歳で引退するまでの三十年間、外部要因的な激震は幾度かあったが、彼は
王たるものは国民を
三人目として産まれた次男、エクシード。
リルルが産んだ子供たちの中で、領地経営の才に最も
エルカリナ王国に
八十代前半で
彼は優れた領主であると同時に、
どのような
それを心に
ひとつは、とにかく味の向上を
もうひとつは、高級品種に比べて味はひとつ落ちるが、
最後に、天候不順により不作の気配が見られた時、
エクシードは、
特に、後者のふたつが世界にどれだけ
その意味において、
五番目に生まれた三男、ネクス。
彼は兄弟の中でも、父ニコルの
父が作ったアーダディス騎士王国騎士団は国の性格上、
ネクスはそんな若者たちと共に父に学び、自然に多くの国々との
父が退いた後も、彼の伝説に
誰に対しても対等に、むしろ相手の目線より自らを低くして
ある国同士で
その意味ではネクスは
最後の七番目に生まれた末弟、ジュアー。
ニコルとリルルの間の子の中で、世界に最も記憶された者は彼だった。
彼は自分に継ぐべき立場がないと知るや、十四歳で両親の元から飛び出し、家名を
そんな中、彼が十六歳を迎えた頃、外世界からの
冒険者生活の中で
激戦の中でジュアーは学び、
一度の侵略を
それでも彼は戦った。
父や母や兄弟の
三度目の侵略をも
代わりにペンを
『世界攻防記一・二・三』『ゴーダム公エヴァンス評』『
特に『世界攻防記』は、彼が冒険者時代に一日も
彼自身はその財で
彼は特に長生きし、息が上がる寸前までペンを取り書き続けた。彼が
ニコルとリルルの間の子の活躍は、男たちばかりではなく、女たちのそれにも
二番目に生まれた長女・アルシュラ。
四番目に生まれた次女・リィルリィナ。
六番目に生まれた三女・エルル。
彼女たちは母の後を継ぐかのように、それぞれ十三代、十四代、十五代の快傑令嬢となった。
王都エルカリナという巨大過ぎる街に、どうしてもできる影の部分、そこに巣くう悪意の塊を取り除くように、三人の娘たちはそれぞれのメガネを着け、それぞれのレイピアを振るった。
特にエルルの代には、引退した姉ふたりが復帰し、三人で肩を並べて戦うという場面がいくつもあった。市民たちはそれを『快傑令嬢第二期黄金時代』として
彼女たちは母と同じように自由に恋をし、人を愛し、それぞれの定めた相手と結婚した。一人として
彼女たちは幸せだった――これは、
話をリルルに戻そう。
七人の子を続けて産み、疲れた体を休めるために長期間休養を取り、復帰したリルルの敵となったのは、王国から
アーダディス騎士王国の王妃として国の建設と発展に努力する一方、彼女は父から受け継いだ企業から得られる
王国の、その外の世界に存在する
副総裁の地位に
時には身一つだけでどのような危険な地にも降り立つ彼女の勇気に、人々はただ
二十数年の間、世界を回り続けて様々な
そして、本当に穏やかな日が過ぎた。
ニコルは七十六歳、自分の誕生日のちょうどその日、屋敷の一室で息を引き取った。
リルルもまた正確にその一年後、ニコルを追うように
二人の
そのうちの一冊が『我が母・リルル伝』であったことは、予想の
ジュアーが発表したもう一冊の表題には『我が母リルル、我が母リロット――初代快傑令嬢の正体について』と記されていたからだ。
もう
その彼女の正体が、かつて貧しき人々の
コナスが亡くなる以前に
快傑令嬢リロットが戦った事件の数々、そればかりか
『母が、快傑令嬢リロットとして戦ってきた事実を、その意味を、もう一度思い返してほしい。これは、そんな母の希望にも
ジュアーが巻末に
その後、世には快傑令嬢リロットを題材にした読み物が発行され、舞台の
赤い
かくして、快傑令嬢リロットは伝説として完成した。
彼女の姿は長く、長く語り継がれた。
時の
最後に、ニコルとリルルの
彼女についての記録は
公式な記録としては、リルルの
リルルの死後、彼女がどうしていたかを知るのは
ただ、様々な人物が個々に
記録としては少なかったが、彼女の足取りは、世界のあちこちにおいて
見る者の
その伝承の中には作り上げられた
細々と言い伝えで彼女を知る者たちは、その全てが彼女のものであると信じた。
彼女ならそうするであろう、と思える内容ばかりなのが、彼等の心を
事実としていいきれることは、次の二点だった。
ひとつは、彼女がエルフの里の女王の座を、ついに
もうひとつは、リルルとニコルの死のちょうど五百年後ごろ、二人が眠る墓に、フィルフィナの
五百年前に
墓が作られた当時から、その
だから、リルルとフィルフィナとニコルの亡骸は、今も並んで静かに眠っている。
彼たちの、彼女たちの魂が天の国でどうしているかは、言わずもがなのことである。
追記。
女神エルカリナの新たな復活は、
こうやってかつての英雄たちのことを
さらに追記。
快傑令嬢の伝説は今も続き、生まれ、続いている――。
「快傑令嬢」 ―本編・完―
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