エピローグ――快傑令嬢よ、永遠に
「異国の港にて」
王都エルカリナのちょうど裏側に
エルカリナ暦四五四年、六月五日。
あの
「んにゃー」
冬に向かってじりじりと
そんな夕日が放つ最後の
そんな船の
二人の前には海岸を満たすように停められている百数十隻の船の姿が整然と並び、ここがかなり
まるで
「お」
二人のちびっこいメイドのうちの一人――クィルクィナが、引きついた浮きの感触に放心していた気分を取り戻し、反射的に竿を引いた。
「あーあ」
目の前で振り子のように揺れる針と釣り糸を見て、クィルクィナはそのまん丸の目をひしゃげさせるように
「まーた食われちゃった。この海の魚、ちょっと
「……下手っぴ」
ぶつくさいいながら次の餌を針に付けるクィルクィナの隣で、いったん姿勢を
「釣りというのは、こう」
機械のように正確な動きでスィルスィナが竿を引く。海面が乱れてざばりという水音が響き、波を立てて
両手で
「ああ、こりゃあ結構な獲物だねぇ」
「…………」
「……この海の魚は、根性が悪い」
「ま、いっかー。別に食べるものには
クィルクィナも双子の妹に
「それにしてもニコルきゅんやリルルお嬢様たち、遅すぎない? 予定だったらもう昼間には着いて、とっくに出港してるはずだよ? もう日が
「どこで道草食ってんだろ。まあ別に全然急ぎじゃないからいいけど、待ってるのは
クィルクィナとスィルスィナは同じ顔の、全く違う表情で暗い空を見上げ、一番星を見つけた。
ニコルとリルルはこの地に新婚旅行の
世界を船で一周する新婚旅行は
「ま、ニコルきゅんとリルルお嬢様がそもそも事件を呼ぶ体質だし、フィルおねーちゃんはそれを止めるようでなんだかんだで加速させる性格だからね。三人とも強いし、ロシュもいればおねーちゃんに拳銃か」
「……ここらへんでは『鬼に
「大丈夫だと思うけど、今晩のあたしたちの晩ご飯が問題だなー。お腹
「……クィルは、どこに行っても食べることばかり……」
「それは否定しないけどさー、そのおかげであたしの料理の腕が神で、スィルも
「……来た」
「んあ?」
スィルスィナの
もうかなり暗がりになってきた桟橋区域、
「あーっ、もう遅いじゃんかー! 半日も
「ごめんごめん」
二頭の馬のうちの一頭、黒毛の
「ちょっと
そのニコルの背に肩をくっつけるようにして横乗りをしているリルルが
「問題ありません。ロシュがニコルお兄様たちを守りました。全く問題ありません」
黒い
「巻き込まれたというか、自分から飛び込んでいったというか……もう、行く先々で問題ごとに首を突っ込むんですから、気が休まる
ロシュネールの背には、フィルフィナがその小柄な身をちょこんと乗せている。
「でも、困ってる人を見たら助けないといけないじゃない。放っておけないでしょ?」
「お
「
「そりゃ目立つよ。特におねーちゃん、そんな格好で色んなとこうろうろしているメイドなんていないんだから、おねーちゃんが目印になってるようなものじゃん」
「わたしにこれを
「…………お腹空いた……」
きゅるるるるるるる…………と、本人の口よりも強い主張が、スィルスィナのお腹から響いた。つられてクィルクィナのお腹も同じくらいの音を
「あはは。みんなお腹空いているんだね。僕たちもまだ夕飯を食べてないんだ」
「あたし、今から夕飯作るの嫌だからねー。なんも仕込みしてないんだもん。外食以外は
「外食させないとはいってないではないですか、この
「…………サフィーナお嬢様も連れてくればよかった」
「親友とはいえさすがに
「サフィーナは
「なぁに、フィル?」
リルルの軽い問いかけに対して、フィルフィナの
「サフィネルの
「ああ、それ」
なんだそんなことかといわんばかりの気軽さで、クィルクィナはとんでもないことを口にした。
「
「今すぐ帰りましょう!」
「あの駄々エルフに快傑令嬢の援護役をさせるなど、なにが起きても不思議じゃありません!」
「大丈夫だよー。なんにも保証できないけどさ」
「ウィルウィナ様なら心配ないよ。僕も保証できないけど」
「ああっ、もう、みんな
「あははは」
ヴァシュムートから飛び降りたニコルは、馬上のリルルに手を差し伸べる。その手を受けて眼が合ったリルルはにっこりと笑い、ニコルの胸に飛び込むようにして桟橋に降り立った。
「まあ、ヴァッシュとロシュを船に上げてからなにか美味しいものを食べに行こう。まずは二人に水を飲ませてあげなきゃ。クィル、水と
「だいじょうぶだよー。あたしたち待ってる間にここら辺の料理屋探しまくって、美味しそうなところ見つけたんだ。お値段はかなりするから、ニコルきゅんの
「いいよいいよ、それくらい」
「まったく、食い意地が張ってるエルフなんですから……ニコル様、申し訳ありません。全然
「ははは。旅行に付き合ってもらってるんだ。これぐらいでお返しできるなら安いものさ」
「さあ、なにをグズグズしているのですこの
「はぁ~い」「…………了解」
白い船体からタラップが降り、桟橋につながったそれにヴァシュムートが足をかけ、甲板から飛び降りてきたクィルクィナとスィルスィナがヴァシュムートの
そうしているうちに港の管理者らしい若者が走って来て、桟橋に並ぶ柱に取り付けられた照明に
風の方向が変わる。今まで海から流れて来たものが、陸の方からの流れに変わる。やや冷たささえ感じる異国の風にリルルは顔を
「――いい風ね……」
「うん。同じ港でも、王都とはちょっと違う
「ニコル、無理をいってごめんなさい」
「無理?」
ニコルは
「世界を一周したいなんていって、二ヶ月もかかる旅行をいい出して」
「ああ……」
フィルフィナとロシュがロシュネールを甲板に上げていく。その様を見ながらニコルもまた、目を細めた。
「これくらいなんてことはないよ。それに島の仕事が始まったら、旅行になんか行けなくなるくらい
「そうね……」
リルルが
「特に……私の方はこれから、なかなか旅行はできなくなると思うし……」
「えっ?」
その声に
夜を
「助けてぇ――――!!」
「っ」
遠くから聞こえたうら若き女性のものらしい悲鳴に、ニコルとリルルの
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