「ありがとう、みんな――」
「おめでとう、リルル。おめでとう、ニコル」
最初の段の右手には、ゴーダム公爵家一家の面々が並んでいた。ゴーダム公エヴァンス、エメス夫人、付き
「よかった……本当によかったわね、ニコル、リルル……この日が来て……」
「ありがとう……サフィーナ」
「今日のリルルは、もう、最高に
「もう、結婚式までそのネタ引っ張ることないじゃないの。――でもサフィーナ、あなたには本当に感謝の言葉もないわ。私とこれからも……」
「友達でいるに決まってるでしょ」
サフィーナが軽くリルルに抱きつき、リルルは肩を抱き返して、それを受け止めた。
「逃げようとしても無駄よ。絶対に離れないから
「あははは……」
そんな、少女同士の友情が
「ニコル、ついに
「ニコル、おめでとう。我が子を
「父上、お母様。ご参列いただき、まことにありがとうございます。これからもこのニコルに、そして妻のリルルに、いつまでも変わらぬ愛情をお
「注ぎます、注ぎますよ、これ以上に。リルルさん、ニコルをよろしくお願いしますよ」
「はい、エメスのお母様――」
「じゃあリルル、私はあとについていくからね」
「――うん」
左手に顔を向ける。
そこにはログトとソフィア、ローレル、そしてロシュの姿が並んでいた。
ログトは
「リルル、おめでとう。ニコル、ありがとう。この
「それはもう、いわない約束じゃないですか。父さん、来てくださってありがとうございます。父さんの祝福をいただけることが、僕のなによりの喜びです」
「お父様、なんだかしょぼくれて
「あ、ああ、ああ。そうだな。私の仕事はこれからだ。ニ、ニコル。リルルと、幸せな家庭を
「はい、父さん」
「ニコル、リルル、しっかり二人で手を取り合ってがんばるんだよ」
「早死にするんじゃないよニコル。アーダディスの男が早死にするのは、二代で打ち止めだからね」
「母さん、
精一杯に
「ニコルお兄様、リルルお姉様、ご結婚おめでとうございます。……ロシュはこんな場合、気の
「いいのよ、ロシュちゃん。気持ちは伝わったわ」
「大丈夫だよ、ロシュ。言葉は
「はい――」
ニコルとリルルは歩を進め、階段を降りる。
いつの間にか
ウィルウィナ、ミーネ、メリリリア、ティータ――フィルフィナはティータとわずかに目を合わせ、
「みんな」
シーファにメイリア、奥に
「――みんな」
人影に
「みんな、ありがとう――」
「リルルさまぁ~~~~!!」
正装したティコが上げた両腕を振って自分の存在を
「ニコルさまぁ~~~~!! どうか、どうかお幸せに~~~~!!」
「……ったくこのガキ、目立とうとしやがって――おい、リルル、よかったな! ニコル、クソ
「ティコくん、ありがとう。ダージェ、気を
「はっ、さっさとぼこぼこガキ作れよ。人間の得意技だろ。できたら遊び相手してやるからな」
「ダージェったら結婚式までその調子なんだから。――でも、ありがとうね。四番目に好きよ」
「三番目じゃなかったのかよ!?」
「ふふふっ」
「ニコルおにいちゃん王さま、リルルちゃん王妃さま、おめでとうございまぁ――――す!!」
島の子供たちの二百人以上が、階段の
「ありがとう、ありがとう、ありがとう――」
王都の街の仲間たちもたくさん並んでくれていた。ニコルの兄貴分のエクジュとイージェが笑っている。その向こうにはニコルが騎士見習い時代を過ごしたゴーダム公爵騎士団の先輩たち、ゴッデムガルドの知人たちが駆けつけてくれている。
「ニコルにいさま、ご結婚おめでとうなの」
ゴッデムガルドでニコルが可愛がっていた小さな女の子、コノメがニコルに駆け寄り、ニコルの
「ありがとう、コノメ。わざわざ来てくれてありがとう――」
「リルルさま、おめでとうございますなの。ニコルにいさまを、お願いしますなの」
「コノメちゃんね。ニコルから話は聞いているわ。近くに寄ったら、いつでも遊びにいらっしゃい」
「はいなの」
「ニコル――――!!」
声に視線を向けると、王都警備騎士団の巨大な
「結婚おめでとう――!! たまには
「リルル様もおめでとう――!! たまにはお手合わせをお願いします――――!!」
「あはは」
三千人の祝福に送られながら、ニコルとリルルは二百段の階段を降り終わり、エルカリナ城の正門をくぐった。城の
二頭立ての馬車だった。座席の上にも屋根がない、
「今日は頼むよ、ヴァッシュ、ロシュ」
ヴァシュムートとロシュネールがそれに応え、ニコルの髪を鼻でくすぐる。その間にロシュが
「ニコル」
馬車のステップの前にリルルが立つ。そのリルルに、先に乗っていたニコルが手を差し
「さあ、どうぞ、我が王妃」
「――ふふ」
ニコルの手を取り、リルルは馬車に乗り込んだ。高い位置の座席に座る二人の姿は庭園に
大階段に参列していた人々が降りてくる。無数の喜びが声となり湧く。人々の目が輝いている。
薔薇園の中も、薔薇園に入れずその周辺にあふれ出た人々の顔にも、笑みが
王都エルカリナがきらめいていた。どんな宝石よりも美しく眩しく。心という宝が光っていた。
行く手には人の海、波、海、海――。誰もが笑っている。誰も彼もが笑っている。
今日ほどに王都が笑顔に包まれた日はないだろう。今日ほどに王都が幸せに包まれた日はないだろう。
「――ニコル、私、この日を死ぬまで……いいえ、死んでも忘れないわ…………」
「僕もだよ、リルル……」
声が、
「ニコルお兄様、出しますか」
「ああ、ロシュ、でも、もう少しだけ待ってくれないか。少しだけ……」
「クィル、スィル、花吹雪はいくらでもあります」
王都の主要な大通りを巡る馬車の
「リルルとニコルのために
「……わかった、サフィーナお嬢様」
「でもさー、あとで掃除が大変じゃん? 大丈夫?」
「
「なんだ、フィルおねーちゃん、さすが手回しがいいねー」
「当たり前です。わたしを誰だと思っているのですか。――では、ニコル様、お嬢様」
「フィル。もう私は立派な王妃なのよ? お嬢様はそろそろやめてもいいんじゃない?」
「いいのです。お嬢様はお嬢様のままで」
高い座席から振り返って顔を向けるリルルに、フィルフィナは
「……フィルにとっては、ずっと、ずっと、お嬢様に変わりはないのですから……」
「――そうね。フィル、これからもよろしくね……」
「はい」
アイスブルーとアメジストの
「じゃあ、行くよ――! ロシュ、馬車を出して!」
二頭の馬が
合図のように時計台の
高い座席にニコルとリルルが立ち上がる。その
「きゃ」
「おっと」
リルルの手が、愛する夫の肩にしがみつく。ニコルの腕が、愛する妻を包み込む。
フィルフィナがサフィーナが、クィルクィナがスィルスィナが撒いた花びらが、二人を無限に
「ニコル」
「リルル」
その震動に合わせたかのようにふたりは顔を寄せ、また、幸せな口づけを交わした――。
◇ ◇ ◇
当時から
そして、同時に興味深い記録がある。
この日に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます