「式典」
エルカリナ暦四五四年、四月十五日。
リルルが目覚めてから、半月――。
その日は、エルカリナ王国の歴史において、特に祝福される日として記憶されることとなった。
「よいしょ」
エルカリナ城最上層の
彼が着ている、身動きができるか
完全に服に着られているといった、お
そんな新国王に対し、祝いの使者として
「――陛下、
使節のひとりが質問する。いやに
「その通りである。なにぶん
「……しかし、お城の前でちらと見たのですが、
「ああ、
「はあ」
「それに
「はあ?」
「次の方! レキシード王国大使殿!」
司会の進行により、まだ納得ができない使節は首を
玉座に座り満面の笑みを顔の筋肉で支えるコナスは、頭にかかる純金の重さに耐えながら、こめかみから流れようとする汗を気合いで止めていた。
頭の上からのし掛かってくるこの重りを、一分一秒でも早く外したかった。
「コナス陛下、とてもお似合いでございます」
「そ、そうですか?」
最後の使者――いや、一国の君主本人の
参列した外国使節の面々が、汗を浮かべ
全世界の国々、様々な民族出身の使者が
魔界からの使者――魔族の高級使節がこの公式の場にいるということは、この王国においては、魔族は人間と等しい立場であるという、地上においてはかつてあり得なかった事実を意味していた。
「ええ、
「助かりました、モーファレット女王陛下。
「あら、陛下ったら、
「は、はは、ははは……」
周囲の外国使節たちがどよめく。コナスの戴冠式に出席するというよりは、目の前にいる魔界の女王の姿を確認しに来たという意味合いの方が大きかった。エルカリナ王国は魔界と平和同盟を結び、経済的な結びつきを強める――は建て前で、軍事的な条件が入っていないはずがない。
エルカリナ王国と魔界の
「さあ、これで
コナスはうなずき、戴冠式の終了を
「それではお待たせしたね!」
外国使節陣がぶっと
「前座は無事終了、ここから先はみなさんお待ちかね!
アーダディス騎士王国の国王、ニコル・ヴィン・アーダディス国王陛下と!
リルル・ヴィン・フォーチュネット王妃陛下の!
今まで気配も感じさせずに最上層バルコニーの脇に
エルカリナ城の一階の門が開かれ、重厚な
それを待ち受けるように二百段の広い階段には、ニコルとリルルが知る人々が三千人、脇に並んで道を作り、真っ赤な
ニコルとリルルが人生の中で関わってきた、街と島の人々だ。
メージェ島の島民全員がこの日のために王都に渡り、世界一の城の元で行われる結婚式に、そのいっぱいの
「ニコル国王陛下、バンザイ!」「リルル王妃陛下、バンザイ!」
「ニコルお兄ちゃん陛下――!」「リルルちゃん王妃さまぁ――!!」
老いも若きも男も女も、人間や
「みんな、みんな、ありがとう」
明るく
「ありがとう、ありがとうみんな! みんな――みんな、大好きよ!」
その二人の後ろでは三人のエルフのメイド――フィルフィナ、クィルクィナ、スィルスィナたちが花びらが盛り上げられた大きなかごを抱え、中の花びらを派手に巻き上げていた。
「――やっと、お預けになっていた島での結婚式の続きが、やっと、やっとできますね……」
大階段の最上に設けられた
「あの時は、キスさえできればちゃんと終われたのに。
「いいじゃない、ニコル。そのおかげで、こんな
「うん」
それも、敵の
どこまでも平和で、安らかで、
「――指輪の交換を」
式の進行を
「それでは、
エヴァのその言葉を聞いたニコルが、
「ニコル、
「わ――、わ、わかってるよ、リルル……」
目の前の百万の大軍に対しも
「僕だって男なんだ。ちゃ、ちゃんと
「ああ、もううじうじして。あとがつかえているんですから、ささとちゅーしちゃってください。――では、このフィルが助け船を」
フィルフィナはニヤリと笑い、ことさらにかしずいた格好で
「ニコル様、足元にネズミがいますよ」
「えっ? わあっ」
足元を見ようとニコルが体を前に
前に出ようとするニコルの
「目を閉じなさい――命令です」
「はいっ」
リルルに命じられるままにニコルは目を閉じ、誓いのキスは、完成された。
瞬間――
「ここに
両眼から流れ落ちる涙を見せながらも、
「ありがとう、エヴァ。君に式を取り持ってもらえて、本当に
「私もよ、エヴァ。親友のあなたに出会えたこと、心から感謝しているわ……」
「お二人とも、お幸せに……。私はそれを、毎日祈っていますから……」
「――大好きよ、エヴァ」
リルルが手のブーケを胸に
「さあ、行こう、リルル」
「ええ、行きましょう、ニコル」
ニコルとリルルは手をつなぎながら
知っている顔、顔、顔――若き二人の
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