「雪がやんだら」
「あ…………」
メージェ島の
大きめの
「どうしよう……」
テーブルについて
「姉さん、失敗してしまったわ……」
「そう」
申し訳なさそうに
「じゃあ少し
「うん…………」
白、それに対して深い
「ここはね、
「うん…………」
「ごめんなさい……」
「なにを
服装も
彼女たちがエルフの一族を
「私、
「そう。じゃあもっと教えなきゃね」
「――姉さん?」
「ティータ」
姉は妹の顔を見ず、手元の編み目だけに視線を向けて、いった。
「私は、あなたに欠けているものを
「…………」
「ティータ、私の顔でなくて手元を見ていなさい。
「あ…………」
「わぁぁぁ――――!!」
開け放っている扉の前、通りを人間と
「元気ね、子供たちは」
「……この島の子供たちは笑ってばかりだわ……。本当に幸せそう……」
「ティータ。あなたも一日も早く、笑えるようになって。心からね」
その表情から
全ての
「私もそうする。全ての罪を
「姉さん、それは私の……」
「私たちの罪を、ふたりで償っていきましょう。
「…………うん…………」
「――ティータ、いいか?」
開いている扉の
ティターニャが島に
「デザ…………」
ぼんやりとした顔でティターニャは青年の顔を目で追う。青年の表情をどう
「あ、あのな、イェガーの旦那が
「今日はデザが
「ああ。俺一人じゃ手が回んねえからさ、頼むよ」
「…………でも私、
「いいよ、俺が教えるから。――メリリリアさん、ティータを借りていいですか」
「ええ、どうぞ。あとでちゃんと返してくださいね」
メリリリアはまた、微笑んだ。自分でも今日浮かべた中で、会心の微笑みだと思えた。
「すみません。じゃあティータ、来てくれ」
「ね、姉さん」
「いいのよ、いってらっしゃい。あなたの分は私がやっておくから」
メリリリアは立ち上がり、
「デザさん、妹をよろしくお願いしますね」
「は、はい、
「あ――――」
しっかりね、と広げた手を振って笑っている姉の姿に、もう戻れないと
「ふふふ…………」
胸の中にあたたかいものを
今日はいい日になりそうだった。
昨日よりも、いい日になりそうだった。
◇ ◇ ◇
今の時期でも全ての窓を開け放っていられるメージェ島とは正反対に、王都は吹き込んで来る
「もう三月も
はあ、と
フィルフィナの背中にある寝台の上では、リルルが目を閉じて眠っている。
胸元には女神エルカリナ、その両隣にニコルとフィルフィナのぬいぐるみが
「そろそろここに
ぬいぐるみ屋が開けるほどに部屋の空間を
「いい日ですね……」
幸せな日々だった。
なにに
たったひとつの、本当にたったひとつの例外を
「――お嬢様……」
フィルフィナは、語りかける。
世界の人々が笑顔であることを知って、満足しているようなリルルに、彼女の心に届けと語りかける。
「……お嬢様のおかげで、みんなが幸せになりました。お嬢様はこのフィルの
ゆっくりとした静かな寝息が、一定の調子で
生きてはいるが、決して目覚めない少女。
夢によって
「リルル…………」
リルルのあたたかな
「もう。あなたの声を聞かなくなって久しい……。あなたと話していた時が、あなたとはしゃいでいた時がいちばん楽しかった……」
心で押しとどめていた
「
リルルは、応えない。
この部屋で眠り続けてもう四十五日ほどか……変わらぬ寝顔がそこにあるだけだった。
落ちた肩を直すこともできないフィルフィナは涙の残りを拭い去り、窓のカーテンを閉め、力なく寝室を出た。
暗くなった寝室にひとりの少女と、それを無言で見守るぬいぐるみたちの隊列が残された。
◇ ◇ ◇
「フィル、遊びに来たわ」
「いらっしゃい、サフィーナ。寒い中をご苦労様です……」
「友達の家に遊びに来ているのにご苦労もなにもないでしょ? ……リルルは、元気?」
「ええ、相変わらずで……お嬢様、サフィーナが遊びに来てくれましたよ」
「リルル、今日は面白い本を持ってきたのよ――」
◇ ◇ ◇
「フィルちゃん、ご
「おねーちゃん、ほらほら、差し入れだよー」
「……フィル姉様、これ、重い……」
「なんだ、お母様たちではないですか……って、この紙袋の大群は……」
「お気に入りのカフェが
「…………」
「あれ、おねーちゃん、なんで泣いてるの?」
「……フィル姉様らしくない……」
「――フィルちゃん、元気を出してね……」
◇ ◇ ◇
「フィル……リルルの様子はどうだい」
「ええ、ニコル様……変わりはありません。お嬢様はお
「……そうか。リルルは眠るのが好きだものね……」
「ええ……本当に……。ニコル様、それで、本日は……」
「コナス陛下に呼ばれているんだ。ここからロシュで出かける。フィル、……リルルをよろしくね」
「フィル、リルルお姉様をよろしくお願いします」
「お気をつけて、ニコル様。ロシュ、ニコル様をお守りしてくださいね……」
◇ ◇ ◇
「お嬢様、見てください、すごい雪ですよ」
フィルフィナは寝室の窓越しに、外を見た。
庭の一面が全て深い雪に
「三月の末でこれとは……でもお嬢様、安心してください。もうこの寒いのも、これで最後らしいです。明日はすごく暖かくなって、こんな雪も一日で
天から落ち続ける白い
「今日は……」
今日は、三月の三十日。
明日は、三月の三十一日。
「雪が
その次の日は、四月の一日。
その日の意味は。
「――お嬢様とニコル様のお誕生日……おふたりの、十七歳のお誕生日ですね…………」
――誕生日。
「――春が来ますよ、お嬢様」
祈りを、願いを込めるようにフィルフィナは
春よ、来い、と――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます